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工学院大学 副学長 理事 長澤泰氏


「病院運営・管理と一体となった国立大附属病院整備計画の策定と施設マネジメントの実行が重要」

2015/1/27

長澤泰氏
長澤泰氏
 工学院大学 副学長・理事の長澤泰氏は2014年12月9日、JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナー「今後の国立大学附属病院施設整備に関する検討会・報告書~個々の附属大学病院の機能・役割を踏まえた、変化に対応する病院施設を目指して~」の講演を行った。同報告書は、国立大学附属病院(以下、附属病院)を取り巻く状況の変化や医療制度改革の動向などを踏まえ、今後の附属病院施設の整備において留意すべき事項について、病院経営責任者や病院建築の専門家などを中心に協議を重ねて取りまとめたもので、その内容を基に講演した。講演は、国立大学附属病院の現状と課題などを踏まえたうえで、目指すべき方向性、整備に関する留意事項、新たな展開の順に進められた。

◇     ◇     ◇

◆施設整備を計画的かつ段階的に実施
 附属病院では、これまで01年4月に策定された「国立大学等施設緊急整備5か年計画」などにおいて、高度先進医療や地域の中核的医療機関として一層貢献するために必要となる施設の整備を進めてきた。さらに、11年8月に策定された「第3次国立大学法人等施設整備5か年計画」において、「先端医療・地域医療に対応した大学附属病院」の計画的な整備を推進するために必要となる約70万m²の整備を決定、それに基づき高度で質の高い医療への対応や入院患者の居住環境改善、ライフラインの改善など、13年3月末時点で約34万m²の整備を計画的かつ着実に実施してきた。

◆将来計画の検討不十分などが課題
 しかし、次期の整備を見据えた将来計画の検討に求められる機能の更新や施設の拡張の際に、患者動線の複雑化、建て詰まりなどの支障が生じる傾向にある。また、附属病院施設の整備中に設置された検討組織が当該整備の完了後に解散されたことにより、これまで附属病院施設の整備を実施していく中で効果のあった取り組みなど、現場で培われたノウハウの蓄積を活用することが必ずしも十分に行われなかった懸念がある。このような場合には、附属病院施設のマスタープランおよび実施計画などの策定に必要な経験、知識が医療従事者や事務職員に不足し、以降の整備計画の策定などが円滑に進まない状況が生じる傾向にある。
 さらに、施設マネジメントにおいて、特にスペースマネジメントの十分な検討を行わなかった場合には、既存スペースの共有化・有効活用を図ることにより、低侵襲医療や再生医療など新たな医療需要に対応するためのスペースを生み出すといった、効果的な面積配分にならない傾向にある。そのほか、将来の変化に十分対応できるような附属病院整備計画を策定していなかった場合には、新たな医療需要への対応が困難となる。

◆新たな医療や防災強化など社会的要請も課題
 附属病院の課題に続き、同氏は社会的要請などを踏まえた課題もいくつか挙げていた。医療制度の改革における病床の機能分化や外来医療の役割分担などの医療政策、あるいは地域における人口(患者)動態の変化を見ると、地域間および附属病院間でのネットワークの中で、日常のみならず災害時においても当該附属病院が果たす機能・役割を明確にした上で、当該機能・役割に応じた施設機能を確保することが課題となっている。そのほか、重症患者の増加に伴い高度で質の高い医療、高難度医療の担い手として、国民の信頼や期待に応える医療の提供や、新たな医療の開発に対応するための場の確保が必要となってくる。また、過去の震災などにおける教訓や国土強靭化の推進に向けた重点化すべきプログラムなどを踏まえると、引き続き災害時における附属病院の防災機能強化が必要になってくるとしている。

◆教育・研究機能など5つの対応が重要
 附属病院施設の現状と課題などを踏まえ、同氏は今後附属病院が目指すべき方向性を説明した。附属病院が前述した課題を解消し、本来の機能・役割を発揮していくためには、施設面において、(1)教育・研修機能充実への対応、(2)研究機能充実への対応、(3)高度で質の高い先進医療の実践への対応、(4)地域貢献・社会貢献への対応、(5)国際化への対応を考慮しておくことが重要だという。
 (1)を図る際は、学生・医療従事者教育のためのカンファレンスなどへの対応、学生・医療従事者に対する医療シミュレーターや模擬患者による技能教育・研修、時代のニーズに即した医療人材育成への対応などを考慮することが重要である。
 (2)を図る際は、元来臨床研究を行うための場として医学部などの施設を有しているため、新たに開発された医療機器などを実用化する場など、附属病院と密接な関連性を有するスペースに関して、附属病院内の配置を検討することが重要としている。また、レンタルラボ導入やスペースチャージ制導入の可能性も検討しておくことが望ましい。
 (3)を図る際は、新たな医療(低侵襲医療や再生医療など)への対応、「治す医療」と一体になって、患者の診療ストレスなどを和らげ、治療の効果を高める「癒す医療」への対応、バリアフリー対策やユニバーサルデザインの導入、わかりやすいサイン計画なども含め、利用者や医療従事者へのアメニティおよび安全性の向上などを考慮することが重要である。
 (4)を図る際は、病床の機能分化および外来医療の役割分担への対応、教育面・研究面における地域の中核拠点医療機関(ハブ機能)としての対応、地域医療連携の強化(入退院センターや高度救命救急センターの設置など)、日常のみならず災害時における地域間および附属病院間ネットワーク構築への対応などを考慮する必要がある。
 (5)を図る際は、外国人留学生の教育および日本人医療従事者や日本人学生との交流への対応、海外に向けた日本発の革新的な医療や医薬品、医療機器の実用化への対応、外国人医師などの受け入れへの対応などを考慮することが重要としている。
 なお、(1)~(5)に対応する際は、単に需要に応じた増築、改修整備などを実施するのではなく、病院運営・管理と一体となった附属病院整備計画の策定および施設マネジメントを実行していくことが重要である。

◆個々の附属病院における機能・役割を明確化
 さらに同氏は、前述した附属病院に求められる機能・役割に対応した施設の目指す方向性を踏まえ、附属病院施設の整備に関する留意事項について解説した。
 個々の附属病院が、附属病院整備計画を検討・立案する際には、(1)教育、(2)研究、(3)診療、(4)地域貢献・社会貢献、(5)国際化の5つの機能・役割を踏まえるとともに、地域間および附属病院間ネットワークの中で、医療制度の改革、地域における将来の人口動態を見据えた医療需要の変化、フリーアクセスの意義に対する変容、ネットワーク内での診療・研究面における施設などの共同利用といった社会的状況の変化なども考慮して、当該附属病院の機能・役割を明確化していくことが重要だとしている。

◆永続した検討組織の設置が重要
 前述のように、個々の附属病院における機能・役割を明確化した上で、附属病院施設の整備に関する留意事項を踏まえ、より具体的な附属病院整備計画を検討・立案する必要があるという。附属病院施設の整備に係る体制づくりとして、附属病院計画を立案する際のみならず、マスタープランなどの検討・策定・見直し、整備後における附属病院施設の効率的・効果的な活用促進や計画的な維持管理の検討までを一貫して行うことができる永続した組織体制の設置が必要だと同氏は述べている。また、各部門の代表者や病院建築、経営戦略、地域連携、安全管理および感染症対策など、様々な知見を持った内外の専門家のノウハウも取り入れて議論するような体制を構築するなど、医学、歯学および医療の変化への柔軟な対応が可能になるよう検討を行うことが重要だとしている。

◆実効性の高いマスタープランの策定が必須
 また、組織体制の整備に伴い、統一的な意思決定プロセスを併せて確立し、附属病院施設マスタープランなどを策定、変更する場合でも、同様の検討体制において議論した上で変更することが重要である。
 具体的に、附属病院施設マスタープランとは、附属病院施設の整備のみならず、整備後の施設の運営・管理などにおいても羅針盤となる。そのため、まず国立大学法人の運営方針や経営戦略などに基づいて、策定された附属病院施設の整備のための基本計画を策定し、それを踏まえた整備方針や運営方針を策定することが重要となる。次に、当該整備方針に基づいて、インフラストラクチャーにも配慮したゾーニング計画やメインの動線計画、病院施設に共通する事項などの病院施設群の骨格に関する計画などを策定する。なお、附属病院マスタープランは、将来の人口動態や医療政策などの変化を踏まえ、運営方針などに基づいておよそ10~20年先(中長期的視点)を見据えて策定する必要がある。附属病院施設マスタープランを変更する場合は、その意図および変化の個所について履歴を残し、組織的に継承していく。
 さらに、過去の附属病院施設の整備や施設マネジメント、維持管理などで培ったノウハウを組織的に蓄積し、継承していくことで次期計画を立案する際に活用すること、同時に附属病院間でノウハウを共有することも欠かせない。

◆社会的要請への対応も検討することが重要
 附属病院に求められる機能・役割を果たすために施設面における対応を説明するとともに、同氏は附属病院整備計画立案のプロセスの各段階において、災害時の防災機能強化への対応など、社会的要請への対応も検討しておくことも重要だと指摘する。
 施設整備面では、まず災害時の防災強化への対応として、BCPや定期的な訓練などを踏まえ、自家発電設備、受水槽、井戸、非常用昇降機の設置など災害拠点に必要な機能の強化、外来ホールなどを災害時におけるトリアージスペースとして確保するための非構造部材の耐震化および医療ガス、非常用電源の設置などについて検討しておくことが重要だという。安全な病院施設の確保への対応としては、ライフサイクルコストを見据えた附属病院施設やライフラインの計画的な維持管理および老朽対策、非構造部材を含めた耐震化ならびに防犯対策への対応を検討していく必要がある。
 また、附属病院は他の学内施設と比べて床面積あたりの年間一次エネルギー消費量の割合が約2倍と非常に大きくなっているのが現状で、特に空調に関するエネルギー消費が大きな割合を占めていることから、空調の計画に当たっては、あらかじめエネルギー供給方式や稼働時間、ゾーニングを定めておくなど、病院運営・管理と一体となって実施することが重要だとしている。年間エネルギー消費量が大きい病棟については、外部熱負荷を軽減できるような平面計画などの検討、さらにLED照明などの省エネ機器および太陽光や地熱などの自然エネルギーの導入、既存施設を含めた附属病院全体での省エネルギー対策を検討するとともに、ESCO事業の採用も検討するべきだという。
 施設マネジメント面としては、病院運営・管理と一体となった施設マネジメントを実現するために、施設利用状況調査や満足度調査などを実施し、当該調査結果の検証、蓄積などにより、日常から附属病院施設の現状を把握しておき、当該病院施設の機能維持・改善に努めることが重要だという。
 その上で、新たに病院整備を実施する際は、これらの調査結果を踏まえ、医療の変化に伴って強化する部門や充実させる部門などへ必要となるスペースを重点的に配分し、利用率の低いスペースは集約化を図るなど、施設マネジメントの着実な実行によって病院全体としてメリハリの利いた施設にすることが望ましい。

◆国立大学法人、国に求められる取り組みを整理
 最後に同氏は、附属病院施設の新たな展開に向けて、今後国立大学法人および国に求められる取り組みについて整理した。
 国立大学法人に求められる取り組みとしては、附属病院施設の効率的・効果的な活用促進や計画的な維持管理までを一貫して行うことができる永続した組織体制の整備が、附属病院整備計画の立案に関しては、他の大学法人とノウハウの共有を図るとともに、外部の専門家の活用なども含め、附属病院施設の整備や運営・管理に関する研修などを通じて実務担当者などの育成を図ることが求められる。附属病院施設の整備を効率的・合理的に進めるため、学内で合意形成を図りながら附属病院整備計画を策定することも求められる。
 また、既存の附属病院施設を効率的・効果的に活用していくため、利用者および医療従事者の満足度調査や施設利用状況調査などの実施により、日頃から施設の現状などを把握し、スペースマネジメントを実施することが要求される。そのほか、地域間ネットワークの中で、附属病院の機能・役割を明確化するために、日頃から地方公共団体などと連携強化を図っていくこと、また医療計画や地区の街づくりとの関連を考慮し、附属病院施設の整備を検討することが求められる。
 国に求められる取り組みとしては、あらゆる機会を通じ、広く国立大学法人関係者に対して普及、啓発活動を実施し、今回講演した報告書の趣旨について理解の増進に努めること、病院運営・管理と一体となった附属病院整備計画および施設マネジメントの取り組み、附属病院施設の整備におけるノウハウならびに建築的工夫などを収集し、国立大学法人に対し情報提供することが求められる。
 また、国立大学法人からの要求事項が同報告書の趣旨を踏まえた個々の附属病院に求められる機能・役割に応じた整備内容となっているかなど、チェックシートを作成するなどにより検証することも求められる。検証結果を踏まえ、必要な附属病院施設の整備については、公的使命を果たす観点からも現在活用されている低金利で長期に安定的な財源確保が図られる仕組みなどによる継続的な支援が求められる。さらに、変化する個々の附属病院の役割を踏まえた病院づくりを進めるには、新たな医療需要などに応じて附属病院施設の整備に関するハード面での対応の検討も要求される。なお、新たな医療需要や防災機能強化などに活用できる関係省庁の補助金などの情報を積極的に提供し、附属病院施設の整備を支援することも求められる。
 このように、本講演では今後の国立大学付属病院の整備の方向性について、包括的にまとめられた報告書を解説した。
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