聖マリアンナ医科大学病院(川崎市宮前区菅生 2-16-1、Tel.044-977-8111)は、創立50周年事業として菅生キャンパスリニューアル計画を進めており、1月から新入院棟(955床)が稼働を開始した。新入院棟および最新医療への取り組みについて同病院病院長の大坪毅人氏に聞いた。
―― 聖マリアンナ医科大学および病院は、開設後50年を経過している。半世紀を振り返っていかがですか。
大坪 最も大きな出来事は新型コロナウイルス感染症との闘いだったと思う。2020年2月に大型客船のダイヤモンドプリンセス号が横浜港に着岸し、国の派遣要請に基づきDMAT隊を出動したところから当院の取り組みは始まった。ダイヤモンドプリンセス号からの患者を下船させるところで当病院の救急車がテレビに映し出された時には、夜間当直に電話がかかってきて、「マリアンナにコロナ患者が入院しているのか、自身が通っている病院にコロナ感染患者を受け入れないでほしい」と訴えもあった。病院としては、新型コロナ感染患者を院内に受け入れたことにより、外来・入院患者数が激減し、病院経営に多大な影響を及ぼす懸念があった。当時私は副院長で、病院長(現学長)の北川博昭先生と理事長の明石勝也先生に相談にいった。今後の新型コロナ診療に対しどのように対応すべきかについて「今こそ建学の理念を実現するべき時である。コロナ感染症で困っている人がいるのであるから積極的に診療を行うべきである」とのご意見をいただいた。こうして当院は新型コロナ患者の受け入れに対し大きく舵をきり、教職員が一丸となって数多くの重症患者を積極的に受け入るに至った。
マニュアルや明確な対応策のない当時、現場でのニーズに対応するため、院長、副院長をはじめ、感染制御部、看護部長、事務部長など院内での意思決定者が参加して対策会議を毎日行っていた。現場での困難や要望への対応は試行錯誤の連続でうまくいかない際には、翌日の会議で大きな方針変更も時にはあった。まさに、観察(Observation)、方向づけ(Orientation)、決定(Decision)、行動(Action)のOODA(ウーダ)ループの繰り返しであった。献身的に働いてくれた職員の中には、家族への感染を心配して、自身が帰宅しない者や、幼い子がいる家族を持つ者は配偶者を実家に帰して仕事を続けてくれる者もいた。病院側は、せめてものこととして職員に安心して勤務できるように、宿舎の借り上げや、職員寮の開放により宿舎を提供した。大きな感染の流行の波が来るごとに感染者数は増え続けた。当院での治療の対象となる重症患者も第5波まで、対応病棟での準備病床数を上回る収容要請があった。当院では重症対応として救命センターHCU17床から逐次救命センターICU6床、一般HCU12床と対応病床を増やし、ピーク時には重症で人工呼吸器を使用している患者は28人に達し、ECMOを5台稼働した。第6波以降は必要なコロナ病床を確保しつつ一般診療との両立に苦心した。
―― 今後の時代のニーズへの対応として何に取り組んでいますか。
大坪 現在取り組んでいるのは、パーソナルヘルスレコード(PHR)『マリアンナアプリ』の開発および新入院棟での入院患者のケア充実である。マリアンナアプリは、患者自身が自分の受診歴、検査結果、投薬内容、画像情報などをスマホで見ることができるシステムである。カルテ情報は患者のものという考え方に基づくもので、患者さんと医療情報を共有することで、患者さんを医療チームの一員として招き入れコミュニケーションを密にして医療の質を向上させることを目指している。さらに将来的にマリアンナアプリをベースとして、他サービスとのデータ連携、地域医療機関・施設との情報連携による地域医療連携推進に寄与したいと考えている。
―― 入院患者のケア充実について。
大坪 当院は特定機能病院として高度医療を提供しなければならない病院であるが、入院患者の高齢化への対応としてケアの充実が必要であると考える。11日程度の平均入院期間ではあるが、多くの急性期の患者さんの治療に要する日数は1日」うちの何時間かである。このほかのおよそ10日間は病床での回復を待つために当てられる。若年者では自然と回復する人が多いが、高齢者の場合はこの10日間の筋肉維持のリハビリや、適切な栄養指導などのケアが大切である。当院では、ケアの充実のため看護師、薬剤師に加え栄養士、リハビリスタッフの増員を図った。この4職種が各々の視点で、連携をとりつつ病棟での患者のケアを行い、高齢者が1日も早く回復できることを目指している。
―― 病院内で活躍している「勤務犬」の状況について。
大坪 15年4月から患者の治療を支援するための動物介在療法として、1代目のスタンダードプードル「ミカ」が採用され、19年1月から2代目の「モリス」という名前の勤務犬が患者さんの治療に参加している。希望される患者の元へ医療従事者(ハンドラー)とともに巡回している。手術を受ける小児とともに手術室で麻酔がかかるまで寄り添うこともある。勤務犬と触れ合うことによる癒しのほか、喜びや治療への意欲が生まれる。現在活動中のモリスは、月曜日と金曜日の週2回の勤務で、そのほかはハンドラーの職員の家で過ごしている。オランダ生まれの7歳だが、勤務犬としては引退の年を迎えているので、今は訓練士によって3代目勤務犬の準備がされている。なお、新入院棟には、勤務犬もスタッフとして唯一の専用室を備えている。
―― 病院長職が4年目に入りました。
大坪 私は当大学卒業後、1986年から医師になった。19年間を他病院で勤務した後、2004年10月から当病院で勤務している。その後14年4月から20年3月まで副病院長を務め、20年4月から病院長に就任、1期目の任期3年を経て、現在は2期目に移り病院長職として4年目に入った。これからの3年間、病院長職を次の若い人に託すまでには、急性期病院の治療に加えて、新入院棟での入院患者へのさらなるケア充実を確立したい。
(この稿終わり)
(聞き手・笹倉聖一記者、安田遥香記者)