電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第595回

中台基板メーカー、タイ新工場が相次いで稼働へ


人材確保が頭痛の種

2025/3/21

24年末から試験生産を開始したコンペックのタイ新工場
24年末から試験生産を開始したコンペックのタイ新工場
 米中ハイテク摩擦を背景とした、タイなどASEANでのプリント配線板の新工場立ち上げが2025年以降から本格化する。世界最大の基板メーカーであるZDテック(ZDT)をはじめ、ユニマイクロンやコンペックといった台湾企業のみならず、中国・東山精密などの大手企業も相次いで工場稼働を計画する。これまで市場を牽引してきた自動車産業の失速や、依然低迷するFA・ロボットなどの産業機器市場の不透明感が拭えないなか、順調な立ち上げとなるのか注目される。特に現地では優秀なマネージャークラスの人材確保がスムーズに進むのかも重要なポイントになってくるという。先行した日系基板企業らとの受注競争もさらに激しくなりそうだ。

 米中ハイテク摩擦のさらなる激化が予想されるなか、車載やサーバーなどの配線板の調達リスクを懸念した欧米系の主要顧客の要請により、サプライヤーである基板メーカーらが相次いで、タイを中心にマレーシアやベトナムなどのASEANに進出を表明している。特に中国でほぼ“一極集中”に近い形で操業をしていた台湾や中国ローカル企業らが22年以降、こぞってタイを中心に工場進出計画を打ち出していた。これらの企業が25年以降、操業ラッシュを迎える。

タイ投資委員会、3年間の基板投資が2020億バーツと公表

 実際に、タイ投資委員会(BOI)は22~24年の3年間で、基板・基板実装メーカーおよび銅張積層板やプリプレグなどの主要原材料メーカーから、130件以上のプロジェクトの申請があり、総投資額は2020億バーツ(約8850億円)に上ることを明らかにしている。

 その結果、タイはASEANで第1位、世界でもトップ5に入る基板産業の集積地になることを強調した。進出企業には世界最大の基板メーカーであるZDTをはじめ、ユニマイクロン、コンペック、WUS、ゴールドサーキット、ユニテック、ダイナミックなどの有力台湾系企業に加え、東山精密をはじめ景旺電子などの中国系基板メーカーらが名を連ねている。AI関連製品向けをはじめ高度な電子機器に使用するためのHDIやFPC、高多層基板など高度な技術力を備えた基板メーカーが集まっている。ほとんどの基板メーカーはタイのプラチンブリ県に工場を建設する一方、進出地はアユタヤやサムットプラカーンなどにも広がっている。大半の工場は25年にも生産を開始する予定とした。

 すでに操業を開始している基板メーカーもある。20年代に入って台湾基板陣営で、アユタヤにいち早く新工場を稼働させたWUSは、欧米や中国以外の主要顧客向けにサーバー用高密度多層板などを供給する。24年から試験生産を開始しているとみられる。

 コンペックもサムットプラカーンにおいて新工場を建設していたが、24年末から稼働を開始した。1期工事ですでに460億円強を投じている。25年内にも1500人規模まで増員する計画だ。新工場では車載やデータセンター向けの製品を中心に高多層板の量産を担うとみられる。さらには中国ローカル企業のタイ進出の動きも目立つ。AOSHIKANG TECHNOLOGY CO.,LTD(ASKPCB)は、アユタヤに新工場を建設、24年末から稼働を開始している。車載などの基板を量産する。

 そして、25年から本格的に立ち上がるのがZDTやユニマイクロンなどの大手基板メーカーの最新拠点だ。ユニマイクロンのタイ新工場はすでに完成しており、間もなく試作と顧客の認証が始まる。顧客認定が下り次第、車載やゲーム機器、低軌道衛星、サーバー用の高多層板の量産を開始するとみられる。

 ZDT社がプラチンブリに建設中の新棟は現在、製造装置の搬入などを進めており、25年後半にも稼働させる。工場敷地面積は40万m²強にのぼる。第1期では、SLP(サブストレート・ライクPCB)、高板厚HDI、リジッド基板などの量産ラインを導入し、主にAIサーバー、通信、光モジュール分野の顧客に供給する。さらにはサーバー用基板などで急成長中のGCEを筆頭にチンプーン、ユニテックなどの台湾勢のタイ新工場も25年からそれぞれ稼働させるという。また、中国ローカル企業の東山精密もFPCやリジッド基板の新工場をタイ東部のチョンブリに建設中で、25年内の稼働が最有力だ。車載基板で日系OEMやティア1に食い込み始めた景旺電子も25年内の稼働を目指している。

人材確保が大きな課題に

 これらタイに進出した基板メーカーらが立ち上げる主な品目は、データセンター向けや車載基板、衛星通信、産業・医療機器向けなど多岐にわたっている。心配なのは、AIサーバーなど足元で好調な分野が限られており、一連の新工場の稼働がスムーズに行えるのか、といった声も聞かれる。特に車載基板などはEV失速にも直面しており、立ち上げ時期の見極めも今後の課題となりそうだ。産業機器向けの基板需要も長らく停滞しており、これらの基板を手がける基板サプライヤーはしばらく工場の立ち上げを見送らざるを得ないだろう。すでに設備投資を行った日系企業のなかには市況を見極めようと、新工場の本格稼働を遅らせているところもある。

 しかし、最も頭の痛い種は新工場を運営するスタッフの確保だという。ワーカーから幹部まで含めて圧倒的に人数が少ないからだ。

 日系基板メーカーもタイで早くから事業を展開してきたが、こうした大規模な投資を行っている台湾・中国などとの人材争奪や賃金高騰など、思わぬ競争にも巻き込まれる可能性が高まっている。特に人材確保が思うように進まない事例もあるようだ。ワーカーの確保はもちろんなのだが、問題は専門知識のあるエンジニアやマネジメントクラスの圧倒的な不足が懸念されている。

 金に糸目をつけず「力技」で量産立ち上げを実現しようとしているケースもある。特に中国ローカル企業のなかには、中国にある既存工場から数百人単位でタイの新工場に「集団移住」してきて、量産を軌道に乗せようとする企業も出てきている。

 英語を話せる幹部クラスの人材も少ないとされ、まさに争奪戦となっている。特に業界に精通した人材は引っ張りだことなっており、タイの基板業界では老舗が多い日系企業に対する引き抜きも本格化しているという。引き抜き対象になった企業のなかには何とかつなぎとめようと、高額の給与で優秀な幹部の引き留めに動かざるを得ないところも出てきているようだ。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 野村和広

サイト内検索