「東京ドームシティ」(東京都文京区)は、敷地約13万m²に東京ドーム、商業施設、遊園地、ホテルなど多彩な施設からなる複合エリアだ。アイドルなどの推し活といった様々なイベントに注力しつつも、足元需要も取りこぼさない。その運営手法を、(株)東京ドーム リテールマネジメント部 部長の田部井一哉氏に聞いた。
―― 商業施設の概要は。
田部井 東京ドームシティ、つまり“街”の中に複数点在し、賃貸面積は約7300坪、店舗は球場内も含めると200店以上に上り、飲食が約7割を占める。この3年の間、新設や改装を実施し、飲食系の店舗数が拡大した。2023年に商業施設「ラクーア」を改装し、従前より区画を細分化し、食物販エリアを強化した。24年6月には、11店を集めたフードホール「FOOD STADIUM Tokyo」を黄色いビルにオープンし、さらに街の中にトレーラー店舗を昨年1年間で23店出店したことで、店舗数が拡大した。
―― 足元の文京区は人口増加が予想されています。
田部井 ラクーアは2kmを1次商圏とし、地元文京区のお客様を中心にご利用いただいている。山手線の内側で日常寄りの業態を集めた商業施設は多くなく、アッパー層を狙うよりも、郊外に行けばどこにでもあるようなMDをきちんと揃える。先の改装では、より日常の食の業態を強化した。高い支持を得ており、コロナ前の19年比で130%超の売り上げで推移している。
―― 野球観戦やコンサートの来街者需要は。
田部井 スポーツとエンターテインメントは、食との親和性が高く、推し活需要もあり、アーティストなどのコンテンツと食を結び付けるとその効果は大きい。イベント開催日は飲食店の売り上げが好調だ。
当社の強みは東京ドームを中心に、大小7つのホールがあり、毎日イベントを開催していること。リアルのエンタメが開催されるこの場所で、グッズを買いに来てコラボフードを食べ、それを写真に撮ってSNSにアップして、いざ本番でお目当てのアーティストを楽しみ、その余韻に浸って帰りに食事して一緒に来た人と語り合って帰路に就く―までがエンタメだ。来街時から帰るまで商業を切り口にアシストするのが当部の役割と考える。
―― キッチンカーの役割も大きいのでは。
田部井 50席の飲食店では席が埋まると50人しか楽しめないが、キッチンカーはテイクアウトなので、多くの人が楽しめ、規模が大きくない店舗にとっても恩恵が大きい。
―― フードホールは。
田部井 順調に推移している。通常営業に加えて、大型モニターを使ったパブリックビューイングも数はまだ少ないが開催している。先日、スーパーボウルを朝7時半から有料で開催した際、予定枚数を完売した。今後は深夜帯でのイベント営業にもトライしたい。
―― 今後の活性化は。
田部井 大型改装は一段落したが一部の店舗の入れ替えは継続していく。
例えば飲食は施設のMDバランスも考慮して和食や健康志向なものを誘致したい。また、遊園地のアトラクションを補完するアミューズメント性があるテナントを増やせればお客様に長時間楽しんでいただける。日常寄りの業態は強化できたが、これからは将来に向けて幅を広げたい。
―― 施設運営においてDXの活用はどうですか。
田部井 マーケティングと、業務効率化で活用している。24年秋、フードホールにAIカメラを設置し、施設前の通行量と入店数、客席の滞留時間を測定中だ。データ収集中だが、これによって2カ所ある入り口のどちらからの入店数が多いか、通行量の多い区画はどこか、客席もレイアウトやタイプごとの稼働率や回転率が見えてきた。将来は店舗が入れ替わる際の賃料の根拠にしたい。
遊園地側にも小型のフードコートがあり、将来的にはこちらでもAIカメラの活用を検討したい。
―― 業務効率面では。
田部井 4月から売上管理システムを刷新する。自動読み取りが可能なOCRも導入し、テナントの人員効率の一助になればと考える。将来は従業員証をデジタル化したい。また、リニューアルで大型サイネージを多数設置し、プロモーションの基盤が整ったことで、紙の告知物や販促物をデジタル化する。また店頭に貼られているステッカーやポスターを廃止し、デジタルポップに置き換え、センターコントロールにより店頭でのタイムリーな情報掲出にもトライしたい。
―― 最後に抱負を。
田部井 コラボメニューなど、推し活フードを提供することも東京ドームシティにおける商業施設業務を担う当部の新たな役割だと感じる。野球だけで年間70~80日、東京ドームでのコンサートも80日程度開催され、これ以外にも様々なイベントが大小多数のホールで同時に開催されている施設はなかなかない。当社は「世界一のエンタメシティを目指す」ことをコンセプトに掲げる。イベントと商業との掛け合わせで、他にはない価値を生み出していければ目標に近づけると確信している。
もちろん、地域のお客様の日常の利便性や生活の充実も果たしていく。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2589号(2025年3月25日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.462