電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第622回

AIサーバーへコンデンサー活況


主要各社から技術の粋を競う新製品群相次ぐ

2025/10/3

 ここ最近の主要コンデンサーメーカーからアナウンスされる最新製品は、AIサーバー向けを対象とするものが目立つ。しかもかなりのスピード感で斬新な技術革新が繰り広げられている勢いを感じる。

 半導体と電子部品は一心同体。これはAIサーバ―向けGPUで圧勝するエヌビディアが、1年ほどのタイムスパンで前世代品の性能を凌駕する半導体新製品を投入し、AIサーバーのモデル刷新が短期でなされること、またAIサーバー向け半導体が進化するたびに、搭載基板や実装技術とともに周辺のコンデンサーなども同様に進化し続けることと無縁ではないことがうかがわれる。

 2025年夏の電子デバイス産業新聞のインタビュー取材の際に、コンデンサー大手の太陽誘電の佐瀬克也社長が「AIサーバーの伸長と同時に電子部品そのものの新陳代謝も効いてくる。部品に変化がなくただボリュームが増える状況下では値下げ圧力が強まるが、AIサーバー向けでは常に最新かつ最先端のMLCC(積層セラミックコンデンサー)、インダクターが必要とされる」と言及していたが、まさにAIサーバーを巡る市場はその渦中にあるようだ。

■MLCCで進む小型化・大容量化

 筆者が把握している範囲では、AIサーバー向けMLCCで新製品投入に積極的なコンデンサーメーカーは村田製作所、太陽誘電、京セラ、サムスン電機だ。これら企業の間でも、市場で競合するMLCCメーカーもおおむねこの辺りのメーカーとの発言が聞かれる。

 これら各社は、前述のようにAIサーバー向け最先端半導体製品が1年ごとに刷新されるスピード感に追随するように、1年後にはさらなる小型化や大容量化を図った最新製品をリリースしている印象だ。AIサーバーで使用されるIC電源ライン向けデカップリング用途で、大電流対応の小型かつ大容量のMLCCを切磋琢磨しながら日進月歩で磨き上げている。これまでにも電子デバイス産業新聞で報道のとおり、AIサーバー向けでのMLCC搭載員数は一般サーバー1800~2500個程度に対し、AIサーバーは1万~2万個超とみられており、MLCC陣営にとって注力市場の1つに位置づけられている。

 直近では、25年9月に太陽誘電がAIサーバー向け1005サイズ(1.0×0.5mm)で静電容量22μFを実現した基板内蔵対応型MLCCの量産を開始している。同社によれば、基板内蔵型対応MLCCで1005サイズかつ静電容量22μFを成し得た製品は世界初との認識を示しており、導線との接続に向けて外部電極形成技術を高度化したことなどを公式アナウンスしている。

 さらに踏み込んで、この新製品誕生秘話を関係者にお聞きしたところ、2000年ごろの従来のPC向け基板は0.1mm未満の薄型だったため、MLCCもどんどん薄くがトレンドとなり、静電容量は1μF程度だったという。しかし昨今のAIサーバー向け基板は厚みが増しており、MLCCの高さも0.8mm程度でも内蔵可能になり、静電容量も大容量化を図れるようになってきた。

 ただし、このMLCCの基板内蔵は容易ではない。GPUやCPUなど高度な半導体と一体のAIサーバー向け基板では、わずかな加工ミスでも膨大な利益損失をもたらすリスクを伴うため、歩留まりは命だ。そのため、精度よく狙ったサイズに作り上げるMLCCの高精度プロセスがカギを握る。これを成し得ている点が太陽誘電のこの新製品のポイントとみる。

太陽誘電の1005サイズ・静電容量22μFの基板内蔵対応型MLCC
太陽誘電の1005サイズ・静電容量22μFの基板内蔵対応型MLCC
 ちなみに、同社ではAIサーバー向けMLCCの開発レベルでは、すでに1000μF級の要素技術開発にも取り組んでおり、今後もセット開発のスピード感に対応した製品開発を推進するものと推測される。

 同様のAIサーバー向け基板内蔵型へのアプローチでは、25年8月にサムスン電機は0201インチ(0603サイズ=0.6×0.3mm)で高さ0.3mm、静電容量4.7μF、電圧2.5V、温度特性X6S(マイナス55℃~+105℃)のMLCC新製品をアナウンスしている。サムスン電機では、一般サーバー向けMLCCは約2200個程度必要なのに対し、AIサーバー向けではその約10倍以上の2万8000個程度のMLCCが必要との認識を示す。しかもこれらMLCCを半導体に近接配置する必要があるため、実装面積は限られている。

サムスン電機の25年8月20日公表リリース資料より
サムスン電機の25年8月20日公表リリース資料より
 この課題を解決すべく、超高容量で小型のMLCCを半導体パッケージ基板に組み込み、配線経路の短縮、PCB設計の最適化、そして放熱性の向上を目指して、この新製品を開発したことを説いている。また、0.3mmという薄型設計により、ランドサイドソリューションでの使用も可能になるとしている。

 サムスン電機はこのMLCC製品に続き、25年9月にはAIサーバー向けにも適する超高容量なMLCCとして、1206インチ(3216サイズ=3.2×1.6mm)で静電容量220μF品、1210インチ(3225サイズ=3.2×2.5mm)で同330μF品をリリースしている。パッケージや基板まで一貫で対応可能な利点を存分に活かし、厚さ制限のあるPCIeカード(Peripheral Component Interconnect Express Card)やOAMソケット(Open-Compute-Project Accelerator Module Socket)などMLCCを含めた幅広い提案で攻勢をかけてきている印象を受ける。

 一方、京セラは2025年3月に1005サイズで静電容量47μF(同サイズの従来品比約2.1倍)を実現するMLCCのサンプル出荷を開始し、25年12月からの量産開始を予定している。村田製作所は、25年7月に同様の1005サイズで静電容量47μF(同サイズで22μFだった従来品比約2.1倍)品の量産開始で世界に最先行したことをアナウンスした。47μFで1608サイズの従来品に比べて、実装面積を約60%低減できるようだ。最大温度105℃に対応しており、IC近傍への配置も可能とする。村田製作所はちょうど1年前、1608サイズで静電容量最大100μFのMLCC製品2タイプ(使用温度範囲マイナス55~+105℃・静電容量変化率±22%品、同マイナス55~+85℃・同±15%品)の量産を開始しており、実用レベルのAIサーバー向けMLCCではこの1年でさらなる小型化を推進したことがわかる。

 各社は自動車向けとともにAIサーバー向けも成長領域と位置づけており、たとえば村田製作所では複数拠点でMLCCを中心とするコンポーネントの増強を推進中。また、太陽誘電も25年度設備投資では能力増強ペースを一時的に少し抑えつつも、AIサーバーや自動車関連の高信頼製品や大型形状では増強を予定している。

■アルミ電解コンデンサーからも新提案

 MLCC以外でも導電性高分子コンデンサーでは、28年にAIサーバーでの販売規模を600億円(23年実績は約200億円)へと拡大を目指すパナソニックインダストリーや、AIサーバー向けに63~80V品、GPU関連(GPUベース基板やGPUモジュール)に2.5~6.3Vのポリマー製品などを展開するニチコンなどが好調さをキープしているものとみられる。

 また、アルミ電解コンデンサー大手の日本ケミコンは、AIサーバー向けに「液浸冷却対応アルミ電解コンデンサー」の開発に成功し、サンプル提供を開始。25年度末から順次量産対応を予定しているようだ。この製品の最大のポイントは同社独自開発・製造の「封口ゴム」にある。この封口ゴムは、液浸冷却対応を見据えて、耐油性に優れ、市場で採用可能性がある幅広い溶媒冷却環境対応の汎用性を備えているという。冷却方式が空冷から液冷、そして液浸へと進化する流れを見通し、開発で先手を打つ。

 ちょうど昨年の今ごろ、村田製作所は自社開発のコンデンサー(関係者によればポリマーを含侵させたアルミ電解コンデンサーのもよう)やインダクターを内蔵・一体化した部品内蔵基板「iPaS」を開発し、CEATEC AWARD2024イノベーション部門賞を受賞した。基板上に実装された部品を削減してスペースを有効活用でき、電源特性も改善できるほか、GPU搭載基板の真裏に電源を配置でき、配線長と電力損失の最小化を図る垂直電力供給を実現できる利点などが注目されている。また、電源モジュール基板や半導体パッケージ基板への使用で、広帯域でPDNのインピーダンス低減に貢献するとみられ、かつ内部部品はスルーホールやレーザービア接続に対応可能な電極を有し、アレイ構造をとれる設計など高い設計自由度の確保にも、顧客ニーズへの柔軟なカスタマイズの点で期待が高まる。

 TDKも今春、長期ビジョン「TDK Transformation」実現に向けた成長ドライバーをAI関連市場に見据えることを発表し、AI市場向け売上高を30年度までCAGR(年平均成長率)25~30%で成長させていくシナリオを描いている。この実現に向けてTDKは受動部品に加え、中型二次電池やヘッド/サスペンション、スマートグラスや半導体製造装置など同社技術材料と組み合わせた幅広い貢献を描く。AIサーバー向けのMLCCでのアナウンスメントは、25年6月に電源ライン12Vから48Vへの高電圧化に対応する定格電圧100V・1608サイズ・静電容量1μFの新製品にとどまっている。しかし、開発レベルでは様々な取り組みが進められていることが推測され、今後の動向が注目される。

 AIサーバー向けでは、GPUやCPUを筆頭とする半導体製品、PCB基板や実装、コンデンサーやインダクターなどの周辺電子部品、各種材料などすべてにわたって技術革新の真っ只中にあり、各社が協業しながら最適解を模索し続けている。そのため、AIサーバー向けでは今後も技術は進化し、各社の技術力の粋を競うステージであり続けることが予想される。コンデンサーのさらなる技術革新も楽しみな要素の1つである。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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