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医療法人社団 KNI 理事長 北原茂実氏


「社会システムの変革を可能とする成長産業としての医療」を講演

2015/3/31

北原茂実氏
北原茂実氏
 (株)日本医療企画と月刊『最新医療経営フェイズ・スリー』は、フェイズ・スリー創刊30周年記念フォーラム「地域医療大再編時代の幕開け!! 機能別病院経営の戦略と戦術」を、大和ハウス工業(株)東京本社で3月4日に開催し、医療法人社団 KNI理事長の北原茂実氏が「社会システムの変革を可能とする成長産業としての医療―あなたの仕事は『誰を』幸せにするか?―(社会を良くする唯一の方法はビジネスである)」と題した特別講演を行った。北原氏は、講演タイトルと同名の著書(ダイヤモンド社)の内容をベースに、一部東北での復興支援事業を加えて講演を進め、「通常なら5時間かかる内容ですので」と前置きし、1時間という限られた講演時間のなかで、数十年にわたり疑問に思い、考え、調べ、プランを掲げ、そして実践していることを語り、聴衆を魅了した。

◇   ◇   ◇

◆日本と日本人の価値
 北原氏は、はじめに「日本と日本人の価値」として、「マルクスが夢見た世界」は、共産主義国家は当時の国王を排除したものの、革命の指導者自らが国王的な存在になってしまった。経済学者宇沢弘文の思想においては、反市場主義、反効率第一主義が過ぎるとモラルハザードが生じる。ナガタ、ナガサキの思想を紹介し、「大和は大いなる和、日本人の和を大切にする心が重要」とした。
 次いで、本日のテーマ「病院紹介」「医療とは何か」「日本を崩壊から救うには」「北原グループの挑戦」「今必要とされる医療経団連」へと進めた。

◆ビジネスは人のためになり、利益を上げるもの
 病院紹介では、まず、「ビジネスとは、人のためになること、それを継続するために利益を上げること」としたうえで、北原国際病院の経営理念(1)世のため人のためにより良い医療をより安く、(2)日本の医療を輸出産業に育てることに貢献すると説明し、日本を皆保険の呪縛から解き放てと補足した。
 北原氏は、北原国際病院の広く開放的な空間、待合ロビーや上質な調度類、救急棟の会議室などホテルのような施設の数々を写真で紹介しながら、北原国際病院は、1つのモデルを確立し、それを展開するマクドナルドのようなグローバリティーを追求していると説明した。

◆「全ての人は医療人」である
 医療とは何かの説明の前に、社会を支える4本の柱として、(1)農業を中心とする第1次産業(食料がないと工業も生まれない)、(2)教育(技術を教える)、(3)医療・社会保障、(4)司法を挙げた。その医療とは「いかにして人がよく生きてよく死ぬか、その全てをプロデュース」し、「総合生活産業としてのビジネス」であり、昔は皆で協力してやっていたことと補足し、「社会と産業は同義であり、全ての市民は医療者である」、つまり、おいしい食品を提供してくれる生産者、社会に参加すること、さりげないコミュニケーションでストレスを和らげてくれる喫茶店の店員など、全ての人が医療者であると定義する。

◆今、必要な皆保険を卒業する勇気
 「崩れ行く日本の社会」では、(1)少子高齢化は人類が未体験の危機(生産人口の減少、皆保険の前提崩壊など)、(2)医療費の抑制は皆保険の当然の帰結、(3)日本の衰退を招いた医療費の抑制、(4)拡大する世代間格差と貧富の差(1500兆円の個人資産の80%を50歳以上の世代が保有)、(5)誰も語りたがらない2030年問題、(6)今、必要な皆保険を卒業する勇気、(7)「アベノミクス」と本当の経済、の順に講演を進めた。
 (5)については、2030年には医療・福祉分野の就業者数が950万人近くに達し、現在1位の卸売・小売業、現在2位の製造業を上回り、日本最大の産業となるが、現在の制度の下では低賃金・重労働で苦しむことになる問題を指摘。(6)では、皆保険のフリーアクセス、アウトカムの非公表、「保険」という名の「目的税」といった点を指摘し、国民皆保険制度を卒業する勇気が必要と説明する。

◆総合生活産業としての医療の確立がカギ
 医療と社会の進化は、STAGE1(主に新興国の医療)は、公平な医療供給システムの構築が最重要課題、地産地消型の医療の確立が理想、STAGE2(主に先進国の医療)は医療の輸出産業化が必要不可欠、医療機器、薬の開発費がかかる、STAGE3(未来型医療)は、例えばがんの転移を防ぐことに全力を注ぐといった重厚長大型医療からの脱却を図るべき時、総合生活産業としての医療の確立がカギと説明した。

◆「日本を崩壊から救うには」
 そして、「日本を崩壊から救うには」へと移行し、(1)高齢者を支えるだけが私たちの未来か、(2)延命の工業立国か、それとも改革の医療立国か、(3)市民革命を経験していない日本人、(4)日本の本当の姿を知ろうと問いかけながら、高齢者は資産を保有するにもかかわらず物欲が減りまた貯蓄意欲も高いが、医療費への出費は避けられず、適正な誘導で経済の活性化が達成可能である。産業構造に目を向けると、製造業はかつての日本を支え、また、優遇制度に守られているが、医療は消費税が転嫁できないなど厳しい。今ここで、国際競争力が衰えつつある製造業に代え、2030年に最大産業となる医療を基幹産業とする方針の転換が必要とした。(3)では、市民革命を経験することなく、維新や敗戦後の押し付けの憲法を得た日本人であるが、小額の出資で大規模事業が可能な株式会社こそ民主主義の本質であり、こうした(4)日本の本当の姿を知り、(5)医療改革から日本の未来が見えてくると展望する。

◆北原グループの挑戦
 北原グループの組織構成は、I)KITAHARA MEDICAL STRATEGIES INTERNATIONAL. Co. ltd.が、海外事業ではKMSI P.P. Co. ltdを管理し、国内事業においては保険診療の医療法人KNI、保険診療外事業の(株)KMSI、(有)SCUを管理する。ほかに、II)NPO法人日本医療開発機構が国際NGO JMDO P. P.を管理する。
 圧倒的な成功モデルの構築のみが日本の医療、そして日本を崩壊から救うという方針の下、北原グループの挑戦として、(1)海外事業(HHRDほか)、(2)被災地(東松島)復興プロジェクト、(3)八王子まちおこし(DHプロジェクトほか)、(4)北原開墾倶楽部、(5)医療経団連の創設に取り組んでいる。

◆リバース・イノベーションの可能性
 (1)の海外事業においては、先行するカンボジアHHRDにおいて、KMSIが目指す医療の海外展開、ショールームとしての病院建設、大切な保健・教育・ITインフラ構築、ODAに代わる支援のシステム(農民が病院にかかると土地を手放さなければならない場合があるが、それを買い上げて、小作させながら買い戻させるなど)、日本ブランド・スタンダードの確立、リバース・イノベーションの可能性(「yes」「no」式で95%の項目を自動診断できる装置を開発、逆に日本の限界集落にも有効活用できる)と続けた。
 北原氏は、日本の医療の輸出を提唱し、これが当時の民主党政権、経済産業省などの官庁を動かし、現在の自民党政権に引き継がれ、大きな流れとなっているが、まずは、「クリニックができるかどうかやってみた」と、カンボジアで病院開設の前に診療所を開設して、医療水準の高さをアピールするとともに、海外での医療施設の準備と運営ノウハウ、さらには、自動診断システムの開発といった成果を挙げた。

◆カンボジアでは外国資本の病院整備も
 北原氏は、カンボジアのRoyal Phnom Penh Hospitalについて、屋上のヘリポートはタイから迎え入れる医療者のためのもので、また、ベトナム資本系のCho Ray病院が完成間近であること、KOICA(韓国国際協力団)の病院が建設中であることなど、カンボジアの病院事情を解説した。

◆ベトナム、ミャンマー、中国などでも計画
 並行して、カンボジア以外で、ハノイ医療ハブ建設プロジェクト、ラオスHHRD(行動する日本をアジアに示す)、ミャンマーHHRD、ブータン医科大学設立計画(医療と医療教育の未来を模索する)、中国プロジェクト(予防から在宅まで一貫した卒中医療の輸出)に取り組んでいることを紹介した。
 時間が迫り、ハノイ医療ハブ建設構想の話は駆け足で通過したが、テキストにはその項目として、(1)今なぜベトナムか、(2)変容しつつある世界、ベトナム、(3)ベトナムの潜在力、(4)日本との相性、(5)医療経団連構想との関係、(6)アベノミクスの大きな成果たり得るとある。
 さらに、コラボを模索中の国々として、ネパール、中東(オマーン・カタール)、東欧圏(ハンガリー・セルビア・ルーマニア)、中南米(キューバ・メキシコ)を挙げた。
 国内の被災地復興プロジェクトは、(1)“施し”では人も社会も救えない、(2)今なぜ被災地の復興か、第3の医療、(4)自然を処方するという試み、(5)初の医療主導の復興の試みが示され、東松島では丘陵地を造成して鉄道駅や住宅、公共施設などを計画的にゾーニングし、中央部分に医療拠点施設の配置が計画されている。

◆八王子まちおこし、八王子医療の街構想
 八王子まちおこし、八王子医療の街構想では、(1)ハピルス・あしたば・託老所、(2)生活と健康のためのネットワーク、(3)ファームプロジェクト、(4)技術者合同合宿研修・中小企業支援、(5)デジタルホスピタル構想、(6)左入医療のテーマパーク構想と進み、そのデジタルホスピタルとは、建物からはじまるロボット化、全てのシステムの自動化・IT化、驚異の自動診断&治療システム、日本の技術の集大成と位置づける。

◆北原開墾倶楽部
フォーラム会場の様子
フォーラム会場の様子
 北原氏は、「北原開墾倶楽部」を主宰し、新人研修や賛同者、自主参加者を交え、ほったらかし温泉での開墾体験などを通じて、大切な人間性に対する洞察、集う、楽しむ、競うことで得られる効能、そしてボーダレスが現代社会の問題を解くキーワードであることを再確認し、開墾作業の効用とそのビジネス化、地域活性化への応用へとつながる試みも続けている。

◆5月31日に医療経団連の設立総会
 医療は総合生活産業であり、またビジネスである。そして、医療を駆使して日本を経営する必要があり、それには行動するシンクタンクが必須であり、そのうえで健康医療輸出立国を目指すべきと力を込め、5月31日に設立総会があることを伝えた。

◆「正しく識り想うこと、想いを形にする勇気」
 北原氏は、「正しく識ること、正しく想うこと、そして何より、想いを形にする勇気を持つこと」が大切であると諭し、続けて最後に伝えたいこととして、「ひたすら想い、努力はしない、違和感にこだわれ、自分を枠にはめるな、利口にするな、ブレるな、単純になれ、自分を愛せ、今こそ医療経団連に結集しよう」、「夢は必ず実現すると信じよう」と語りかけて、講演を締めくくった。
 北原氏は、先行き不安な皆保険制度、少子高齢化の進展による国の財政や経済の停滞といった閉塞感に覆われる今の状況のなかで、調査し思考し斬新なひらめきとともに周到なプランを作成し、呼びかけながら、実践し、ダイナミックな医療の改革、ひいては国の経済基盤の転換を目指し、新しい大きな流れをつくり出している。この全貌をわずか1時間の講演で語り尽くすことは不可能であり、不世出の変革者である北原氏の活動を限られた紙面で伝えることもまたしかりで、情報と精緻な理論に基づく、ダイナミックに日本経済を活性化させる具体的で説得力のある方法は、北原氏の著書で堪能できる。
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