電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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電源によって変わるユーザビリティー


~IoTを支える要素技術:ワイヤレス給電~

2015/4/3

 昨年から当コラムではIoT(Internet of Things)によって、今後5~10年の間に我々の生活や産業機器の世界が大きく変わるとお話ししてきた。IHS Technologyでは今年もIoT市場の拡大を支える要素技術に注目し、IoTに関わる様々なサプライチェーンの方々の意見を伺ったところ、IoT市場の拡大に必要なテクノロジーが見えてきた。

(1)通信
 通信機能がなかったものに通信機能が付くことに加え、通信機能がついているものがワイヤレスになることが予想される。産業機器では信頼性やセキュリティーなどの面からワイヤレスへの移行は遅れているが、オペレーターの安全性、ダウンタイムの短縮といった面から、海外の機器メーカーは積極的に導入を検討している。無線通信の分野は広大なため、個々のテクノロジーについては今後追って触れていく。

(2)電源
 色々なものに通信機能が付くということは、無線あるいは有線によるデータ伝送、演算処理など多くの電気的な処理が行われる。これにより電力が消費されるため、電力を消費する機器と電力を供給・管理する技術に新たなニーズが生まれている。機器に搭載される電子デバイスの世界では省電力化が大きなテーマとなっているが、電子機器のパワーマネジメントは省電力化と両輪となってIoT市場の拡大を支える重要な技術であるといえよう。

 当社はパワーマネジメント、なかでもワイヤレス給電市場で今後数年間に飛躍的な成長が見込まれると期待している。グラフはワイヤレス給電トランスミッターおよびレシーバーの市場予測で、現在、市場の大部分を占めるアプリケーションはスマートフォン・タブレットなどのモバイル端末である。一方、アップルやサムスンなど大手OEMは内蔵端末をリリースしておらず、キャリアもインフラ整備に関してばらつきがあり、これまで市場拡大の布石はお世辞にも整っていなかった。

 しかしながら、2014年末~15年初に新たな局面として受け止められる動きが出てきた。グローバルではサムスンなど大手OEMが内蔵端末の投入に積極的に動き始め、また標準化へ向けて規格統一の動きも見られている。一連の動きでは、OEM・デバイス・インフラなど多様なプレーヤーが積極的に取り組んでおり、本格的な市場拡大が見えてきたといえる。

ワイヤレス給電レシーバー・トランスミッター市場(数量、百万個)(出所:IHS)
ワイヤレス給電レシーバー・トランスミッター市場(数量、百万個)(出所:IHS)

■テクノロジーとしては進化途上

 しかしながら、直近の調査を踏まえると、現存するワイヤレス給電の規格や技術は完璧とはいえない。既存市場の90%以上を占める電磁誘導方式は改善されているとはいえ、給電する際の距離の制約が大きい。一方、新技術とされる磁界共鳴方式は伝送効率や電磁波の問題点が指摘されており、技術的にはいずれも改善の余地がある。

■ユーザビリティーに大きく貢献

 とはいえ、サムスン、アップルといった大手OEMが、進化段階であるワイヤレス給電技術の開発や導入に取り組んでいるのには大きな理由があると筆者は推測している。

 アップルはワイヤレス給電についての特許を公開しているが、これは半径1m程度の「仮想充電エリア」を作ることで、エリア内にあるデバイスへのワイヤレス給電だけでなく、データの同期といった機能も実現されるものである。この技術が実現されれば、コードなど電源の制約から解放され、ユーザビリティーへの貢献は甚大となろう。

 この技術ではないものの、アップルはアップルウオッチからワイヤレス給電の導入を予定しており、ワイヤレス給電が同社にとって重要技術であることが、ここからもうかがえる。

■デバイスの方向性

 成長市場といってもワイヤレス給電のチップは数年後でも十数億個の規模、メモリーなどのようにバルキーな市場ではない。チップ市場にはガリバー的なメーカーに加え、特定用途に対応したメーカーなど多様なデバイスメーカーが参入している。クアルコムはプラットフォームの一要素として統合チップを発表している。一方、IDTはエンドユーザーとの密接なパートナーシップにより、モバイル市場やホスピタリティー市場などでそれぞれのニーズに合致したチップを投入し、成長市場を捉えているといえる。ユーザビリティーに貢献するためには、エンドマーケットのニーズを汲み上げることが不可欠ではなかろうか。

 まとめとして、ワイヤレス給電市場が新たな成長段階に入りつつあることと、その成長を捉えるには機器メーカーや標準化団体のニーズだけでなく、インフラやエンドユーザーとの連携が重要なキーワードとなることに改めて注目していただきたい。




IHS Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、
お問い合わせは(E-Mail : forum@ihs.com)まで。
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