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北里研究所 理事長 藤井清孝氏(2)


相模原市で全学的臨床教育センターを優先整備、東京五輪後数年内に学部棟再整備

2015/4/14

新北里大学病院の総合手術センター
新北里大学病院の総合手術センター
 (学)北里研究所 理事長の藤井清孝氏による、JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナー「100周年を迎えた北里研究所―未来に対するビジョンと設備の取り組み―」を紹介する連載2回目は、新大学病院と東病院整備の次に予定する全学臨床教育センター(仮称)の整備、学部棟建て替えや、次の50年に向けた組織・制度改革と基盤整備の充実について紹介する。

◇   ◇   ◇

◆学部棟建て替え計画は東京五輪前に見直し
 北里大学各キャンパスの整備計画として、相模原においては、新北里大学病院の開院に続き東病院のリニューアルが大詰めで、交通網の整備と県道拡幅計画といったアクセスの改善見通しのなか、臨床教育センターは優先して進める。一方、医学部、医療衛生学部、看護学部などの学部棟建て替え計画については、建設費の高騰もあり東京オリンピック開催の少し前にもう一度考え直すとした。
 十和田キャンパス(青森県十和田市)の再整備では、獣医学部本館A棟とB棟が2014年8月に竣工。白金キャンパス(東京都港区)の整備では、薬学部校舎および北里本館・記念館を3期工事で整備する予定であり、現在は、第1期工事に取りかかっている。

◆新大学病院に多機能なけやきサロンを新設
 14年5月7日に開院した新北里大学病院は、藤井氏が院長時代に再整備構想がスタートし、10年の年月をかけて完成した。「けやきサロンは屋根が高く、ピアノ音楽が流れ、スターバックスや売店を備える患者さんおよびご家族のくつろぎスペースで、また、医療情報も得ることができ、是非とも欲しかった施設」と紹介。壁には酸素ガスの配管などを施しており、災害時には医療スペースとして機能する。4階の総合手術センターには、術中CT室、ハイブリッド手術室を含め手術室20室と外来手術室6~7室を備え、手術室内の壁面の色を部屋により変え、間違いを防止する。5階は機械室のみとなっており、4階の手術室を稼働させながら4階の医療機械を操作することができる。救命救急・災害医療センターの機能をフルに発揮するヘリポートも屋上に備える。このほか、小児科病棟などでは、こどもの心を和ませる女子美術大学大学院生制作のヒーリングアートが描かれている。

◆大学病院と東病院を一体運営化
 北里大学東病院は、5月にリニューアルオープンする。人間の尊厳を最大限尊重し、精神神経科、神経難病、回復期リハビリ、地域との連携医療、めまい診療、人間ドック、心臓二次予防センターなど特色ある医療、予防医療をカバーする、「共に創り出す医療」に取り組む。人口の高齢化のなかでは、これらの医療が重要であり、また、急性期医療を新大学病院が担い、疾病予防と、回復期および維持・慢性期/在宅医療を新東病院と地域連携によりカバーすることで、一体的に地域に貢献できると強調した。北里研究所では、施設ごとの「独立採算制」の方針で運営されてきたが、今回より2つの病院の一体的な利用、収支採算制度が実現する。
 近隣駅より大学までの渋滞が慢性化している相模原キャンパスの交通事情については、14年6月に圏央道相模原インターが開通し、さらに、県道51号線の4車線化計画に期待を寄せた。
 十和田キャンパスは14年8月に獣医学部本館A/B棟が竣工した。免震構造を採用、冬期の雪対策として入館前の長靴洗浄スペースも設けている。
 白金キャンパスでは、薬学部校舎・北里本館建築第1期工事が14年4月から今年4月までの工期で進んでいる。
 海洋生命科学部では、大船渡市街地と三陸キャンパスが東日本大震災により損壊しため、今後の学部学生教育は主に相模原キャンパスを拠点とし、三陸キャンパスは臨海実習、研究の場として活用する。大船渡地域との協議会で検討を重ね、三陸臨海教育研究センターを設置しており、学生セミナー室や研修センターを整備する。損壊したF-3号館の取り壊しを終え、1号館、2号館も取り壊す。一方、相模原キャンパスの海洋生命科学部では、MB新棟が完成した。

◆50年先を見据えたキャンパス整備の具体化
 今年から国公私立大学でガバナンス改革が始まるなかで、北里大学第19期理事会において、「次の50年への布石―組織・制度改革と基盤整備の充実に向けて―」のミッションが示され、ミッション達成のために、以下の7項目の取り組みが掲げられた。
 (1)環境整備の推進では、50年先を見据えたキャンパス整備の具体化推進、(2)教育研究組織体制の整備では、(1)農医連携教育研究センターの設置および農医連携による研究の推進、(2)チーム医療教育の推進および全学臨床教育センター(仮称)の具体化、(3)国際化の推進並びに国際部(事務局)の設置、(4)生命科学研究所、感染制御科学府、感染制御研究機構並びに医療系大学院の改革、(3)研究の高度化では、(1)感染制御研究の推進および海外との連携強化、(2)臨床研究の推進(グローバル治験や4病院の特徴を生かした独自性の高い研究など)、(4)医療提供体制の拡充では、(1)特色ある診療の提供、(5)経営改革では、(1)経営改善プロジェクトの推進(コスト削減、業務の効率化)、(2)購買システムの改革、(3)経営企画部門の設置(法人運営体制、独立採算制、経営戦略資金の検討)、(4)4病院連携本部事務の設置、(6)人事・給与制度の整備では、(1)給与体系に係る基本方針の構築、(2)サバティカル制度の導入、(7)社会との連携では、(1)北里大学同窓会との連携、(2)北里大学PPAとの連携、(3)北里柴三郎記念会との連携、(4)産官学との連携、(5)社会との連携――をそれぞれ推進する。
 (1)に関しては、後述する全学臨床教育センター(仮称)が相模原キャンパスの病院プロジェクトの最終事業となる。その後、前出の医学部、医療衛生学部、看護学部などの学部棟建て替えを東京オリンピックの閉幕後の数年間で完了させる。これが完了すると、数十年後に敷地内の反対側に新たな病院を整備するとした。
 (3)の研究の高度化では、学部間、他大学、企業とタイアップし、研究機能の再編を図る。また、経営改革では、お金の流れを変えて、法人から重点分野、戦略分野へ還流する仕組みを整備し、「全体最適」の達成を目指す。
 (4)の医療提供体制の拡充、特色ある診療の提供では、北里大学病院と東病院は前出のとおり収支を一体化し、疾病予防から3次救急、急性期、回復期、慢性期・維持期、在宅支援まで、全国トップレベルの医療を相模原市や周辺に提供する。北里大学病院は、地域の患者が50%を占め、次いで東京都町田市が13%、ほかに神奈川県下、関東エリア、疾病によっては全国から患者が集まる。相模原市内における疾患別シェアは、日本のアレルギーセンターとなっている国立病院機構 相模原医療センターの皮膚科のみトップを譲るが、ほかの疾患のシェアはトップを維持している。
 あわせて、病院、学部が存在することで、地域への経済波及効果は年間350億円にのぼり、医療人材の供給と地域連携で相模原市を住みやすい街にしていることも紹介した。
 白金の北里研究所病院は、都市型ブランド病院、北本市の北里大学メディカルセンターは地域基幹病院に位置づけて、それぞれの役割を担う。
 (5)の購買システムの改革では、電子購買のシステムを検討中であることを明かした。
 以上の7項目を踏まえ、19期理事会では、全体最適を優先、横断的取り組みと国際化の推進、生命科学のパイオニアとして産官学連携、農医連携、医工連携、ガバナンス/コンプライアンス面では規定、ルールの整備、教育の徹底、教員・研究者の倫理観の醸成、担当事務の徹底教育、教育・研究・診療等の成果を社会へ還元するといったことが確認された。
 医工連携に関して、藤井氏は「うちは『医療ないし医用工学部』のような分野の必要性があるかもしれない」と話した。

◆「専門知識だけでなく、医師のあり方の教育」を
 藤井氏は、教育面においては、学士課程教育の改革をベースに、バランスの取れた医療人育成を目指すと説明。具体的には一般教養・人格形成・問題意識の醸成(教養講義を高学年まで帯状に継続、現場・体験・実践プログラムと自主性の育成、コミュニケーション能力の向上、語学の上達)、専門教育(基礎から臨床まで連携:系別総合教育、横断的:臨床で垣根をなくす、総合的な診方・考え方、検査データ・画像読影(解)能力、医療制度、危機管理、コンフリクトマネジメント)、チーム医療教育(職種横断的チーム医療)、卒前・卒後教育の連続性担保(スキルスラボ、検査機器、手術機器・手技、臨床解剖、医学生⇔研修医⇔病棟医⇔専門医の屋根瓦指導方式)を促進する。
 基礎から臨床までの系別総合教育は、北里研究所においては100年前から取り組んでいることであり、また総合的な診方・考え方を習得させることなどで、「専門外だからできない」という医師をなくし、幅広い知識を持った医師を育成する。さらに、藤井氏は、専門知識だけでなく、医師のあり方を教育する必要性を強調した。

◆全学臨床教育センター(仮称)を新設
 次いで、日本トップレベルにある臨床チーム医療教育をさらに強化するため、全学臨床教育センター(仮称)について述べた。目的として、医療系学部・専門学校を擁し、実学教育を行う大学のシンボルとなる臨床教育の総合施設とする。センターは学部・病院横断的な教育施設であり、大学における卒前・卒後教育の充実(センターと大学病院を活用した卒前臨床実習の充実、大学の特色である「チーム医療教育・研究」の推進、すべての医療専門職を対象とした卒後臨床教育の充実、スキルラボを活用した臨床教育の充実)を目指す。さらに、臨床系教員、医師の居室確保、学部横断的施設を活用した学部間・多職種間交流の促進、相模原キャンパスにおける学生・職員用食堂の確保を挙げ、このセンターが完成すると病院プロジェクトが一段落すると説明した。
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