ジェームス・フリーマン氏が日本の喫茶店文化に影響を受け、立ち上げた米国発の「ブルーボトルコーヒー」。2015年2月には東京・清澄白河に日本1号店を出店し、豆からカップまで一貫した工程・品質管理が求められるスペシャルティコーヒーの訴求と、コミュニティづくりを重視し、日本進出から10年が経った。次の10年をどう捉えるのか。ブルーボトルコーヒージャパン代表のエリック・ジェンキンス氏に聞いた。
―― この10年を振り返っていかがでしたか。
ジェンキンス 順調だった。10年を3つのステージに大別できる。ステージ1は15~19年。日本市場に参入した15年当時は、スペシャルティコーヒー文化がまだ十分に浸透していなかったため、単に抽出方法を紹介するのではなく、スペシャルティコーヒーのクラフトマンシップや哲学を伝え、日本市場における新しいカフェ体験の可能性を広げる架け橋になることを目指した。併せて出店するエリアのコミュニティづくりを重視した。
ステージ2はコロナ禍の時。外出がままならない中、コーヒー豆をネットで注文し、焙煎して豆を挽き、自分で淹れてそれをSNSでアップして楽しむ人が増えた。実はコロナ禍はスぺシャルティコーヒーへの関心が高まった時期。コロナが明けるとニーズが高まった。ステージ3は22年から今日。スペシャルティコーヒーの文化が広がり、普通のカフェやハンバーガーショップでも飲める場が増えた。
―― これからの10年は。
ジェンキンス 私たちのビジョンは「世界で最も個性的で、グローバルに認知されるカフェブランドになること」。その実現のために、地域のコミュニティに根差したカフェをつくり、美味しいコーヒーや、それにまつわる体験やライフスタイルを届ける。日本は世界で最も洗練されたカフェ文化を持つ国のひとつ。その中で私たちは新しいものを持ち込むのではなく、その文化の進化に意味ある形で参加していきたい。
ブルーボトルコーヒー清澄白河フラッグシップ(photo:Takumi Ota)
―― 現在の店舗数は。
ジェンキンス 現在、前橋、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡などに計31店あるが、むやみに増やす考えはない。ゲスト(来店客)にどうコネクトし、どのようなコミュニティがつくれるか見極めて出店を決めていく。
―― 店舗は個性的なデザインが多いですね。
ジェンキンス エリアの環境の一部になることを意識している。例えば「三軒茶屋カフェ」(東京都世田谷区)は三軒茶屋エリアに合うカフェデザインであり、当然「福岡天神カフェ」(福岡市中央区)とは異なる。環境、コミュニティ、ライフスタイルなどに配慮する。豊洲公園内(東京都江東区)にある「豊洲パークカフェ」はボーダーレスがコンセプトで、素材や採光などにこだわり、店内でも公園内にいるような気分になる。
社内にデザインチームがあるが、地域のコミュニティを大切にしてブルーボトルコーヒーらしさを出すため、ローカルデザイナーも起用する。コミュニティ、おもてなし、クオリティを考えながら誰とパートナーシップを組むか考えている。
―― 今後注力する点は。
ジェンキンス 私の目標は、日本におけるブルーボトルコーヒーのカフェ体験をさらに高めていくこと。コーヒーだけでなく、空間、デザイン、おもてなし、フードまで含めた体験の質を磨いていく。その中でフードは重要だ。私たちはコーヒーがコアで、コーヒーとの相性の良いフードはより体験価値を高める。
―― 焙煎への考えは。
ジェンキンス 19年に「北砂ファクトリー」(東京都江東区)に、キッチン機能も移設した。ここで国内向けのほか、香港とシンガポールへ輸出している。毎日焙煎したものをカッピングして、データ化する。それを基に焙煎方法を調整し、味を守っている。バリスタのトレーニングにも力を入れている。豆とバリスタの力でコミュニティと良い関係をつくれるからだ。
実は私自身、足しげく通うゲストの一人だった。当時、ブルーボトルコーヒーを知らず、ある日、清澄白河フラッグシップの前の行列を発見し、なぜこんなに並んでいるのかと思い入店したところ、ファンになった。以来週2~3回通う常連客になった。いつかブルーボトルコーヒーで働きたいと思っていたが、24年に一員になることができた。
―― 外食業界は人手不足が大きな問題です。
ジェンキンス 私たちは人手不足を感じていない。ブルーボトルコーヒーで働くチャンスはあるかとの問い合わせが少なくない。ブルーボトルコーヒーを卒業した人が自分のカフェを開業する例も多い。ここでの経験を生かしてスペシャルティコーヒーを地域に広げることにつながっている。
―― 今後の抱負を。
ジェンキンス 今日、スペシャルティコーヒーはもはや珍しくない。このような環境の中で、ブルーボトルコーヒーが日本においてどのような存在であるべきかを、常に再定義し続けることが不可欠だ。高品質なシングルオリジンコーヒーと、意図をもって丁寧に開発したフードを通じて、ブルーボトルコーヒーならではの際立った体験を提供すること。さらにこれらをおもてなしのスピリットや高いクオリティのサービス、ブルーボトルコーヒーのデザインされた環境で提供することだと思う。こうした価値を提供できる場をつくっていきたい。地域に寄り添い、同時にグローバルブランドとしての存在感を高めていきたい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2639号(2026年3月24日)(8面)
経営者の目線 外食インタビュー