電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第676回

実用化開発が加速する縦型GaNパワーデバイス


モビリティーからAIデータセンターへ

2026/10/23

 縦型GaNパワーデバイスの開発・実用化に向けた動きが目立ってきた。縦型GaNは1200V以上の高電圧や大電流に対応しやすく、電力密度を大幅に向上できる。かつては「SiCパワーデバイスと用途や市場が重複するのではないか」とみる向きも少なくなかったが、これまで主流だったインバーターやオンボードチャージャーといった電動車向けの開発に加えて、AIサーバーの爆発的な消費電力の増大を抑制するため、800V給電システムにおける電力ロスの削減、低発熱に伴うAIチップ実装面積の確保などでも用途が広がっていくと見込まれるようになったことが、事業化意欲を刺激しているようだ。現在主流の横型GaNパワーデバイスはGaN on Siliconベースで、縦型GaNの実現にはGaN on GaNを実現するためGaNウエハーが必要となるが、GaNウエハーの大口径化研究が進んできたことも開発を後押ししている。以下に縦型GaNパワーデバイス各社の動きをまとめた。

Onsemiは買収で1200V品を開発

 米Onsemiは2025年10月、独自のGaN on GaN技術を用いた縦型GaNパワーデバイス「vGaN」を発表し、700Vと1200Vをサンプル出荷すると発表した。モノリシックダイで1200V以上の高電圧、大電流をきわめて高い効率でスイッチングでき、この技術で構築されたハイエンドパワーシステムは損失を50%近く低減できるという。また、市販の横型GaNと比べて、vGaNデバイスはサイズが約3分の1と小型であり、高周波数動作によって、コンデンサーやインダクターといった周辺受動部品も同様にサイズを小型化できるようになる。

シラキュースで製造したOnsemiの縦型GaNウエハー
シラキュースで製造したOnsemiの縦型GaNウエハー
 開発はニューヨーク州シラキュースにあるR&Dチームが担当した。Onsemiは、23年末に操業を停止したシラキュースの縦型GaN開発企業NexGen Power Systemsの事業資産などを取得している。OnsemiはvGaNの基盤となるプロセス、デバイス構造、製造、システムイノベーションに関する130件以上の特許を持つといい、これらをvGaNの開発に生かしているとみられる。NexGenはかつて、米国エネルギー省(DoE)の支援を受けてゼネラルモーターズ(GM)と電動ドライブシステムの共同開発に取り組んだ実績を持つ。

Power Integrationsも買収で資産を取得

 高電圧の電力変換ICメーカーである米Power Integrationsは24年7月、縦型GaNトランジスタ技術の開発企業である米Odyssey Semiconductor Technologiesの事業資産を買収した。Odysseyはコーネル大学の研究者らが設立したスタートアップで、ニューヨーク州イサカにクリーンルームを備えた1万平方フィートの施設を有していたが、Power Integrationsは買収によって主要従業員のすべてとクリーンルームを傘下に加えた。

 買収時の決算会見でPower Integrationsは「今後3~5年以内に高出力GaNを実現するために必要なブレークスルーを達成し、最終的にはEVのパワートレインインバーターなどの高出力用途においてSiCと競合するGaN製品を市場に投入できる」と述べた。買収した技術との関係性には言及していないが、Power IntegrationsはGaNスイッチIC製品として800VDCデータセンターの主電源経路向けの1250V品、データセンターの単段補助電源アプリケーションに採用実績がある1700V品を製品化しているほか、先ごろ定格電圧2200Vの技術開発にも成功している。

米国の新興が買収で縦型GaN参入

 家具の販売やAIソフトサービスなどを手がける米XMax Inc.は26年10月、AIデータセンターの電力インフラおよびその他の高電圧アプリケーション向けの1200V縦型GaNパワーデバイス技術に特化した米Hexa Creationの発行済み株式の100%を取得する契約を締結した。この買収で事業のさらなる多角化を図っていく。

 Hexa Creationの技術ロードマップは、高電圧・高出力アプリケーション向けに設計されたネイティブ1200V縦型GaNトレンチMOSFETが中心。Hexa Creationは、米国最大規模の公立大学が所有する特定の特許および関連知的財産権の独占ライセンスを保有しているといい、AI電源インフラに加えて、電気自動車、エネルギー貯蔵、超高速充電、その他の高電圧市場をターゲットとし、将来は個別の電源デバイスから電源モジュール、そしてより広範な電源システムソリューションへと事業を拡大していく方針だ。

MITスピンアウトがシード資金確保

 マサチューセッツ工科大学(MIT)からスピンアウトした半導体企業Vertical Semiconductorは25年10月、縦型GaNトランジスタの開発を加速するためベンチャーキャピタルなどから1100万ドルのシード資金調達に成功した。投資家にはウエハー大手の信越化学工業も名を連ねている。同社は、トーマス・パラシオス教授が率いるグループによる10年にわたる研究成果の事業化を目指しており、標準的なシリコンCMOS半導体の製造方法を用いて8インチウエハーで技術を実証し、100~1200Vまでのデバイス実用化を準備している。現在プロトタイプの開発を進めており、26年に完全統合型ソリューションを提供する予定と公表している。

サンケン電気が買収でGaN強化

 サンケン電気は25年4月、独自のGaNエピタキシャル技術を有するパウデックを買収した。パウデックは、高性能GaNパワーデバイスを実現できるPSJ(Polarization Super Junction)技術に関する特許を多数保持しており、サンケン電気はこれらを高耐圧パワーモジュール・パワーデバイスの開発に取り込んで、高耐圧、低損失、低発熱、高速スイッチングが可能なGaNパワーデバイスの研究を加速する。当面はサファイアウエハーをベースにした横型PSJ-GaNパワーデバイスの商品化を進めていくが、将来的に縦型GaNパワーデバイスを量産化することを表明しており、今後の開発進展が期待される。

 こうして見ると、現状では横型GaN on Siliconパワーデバイスの市場形成がそうだったように、縦型GaNでも米国の新興企業が開発・事業化でリードしていると言える。また、技術を持つスタートアップが事業化に向けた土台となる親会社や資金を得た段階と映るため、実用にはまだ少し時間を要するだろう。だが、ベースとなるGaNウエハーでは三菱ケミカルや住友化学、GaNエピ成長に適したQST基板では信越化学と、日本企業が世界的に高い競争力を持っている。GaNは、青色LEDの開発・実用化で日本人研究者がノーベル賞を受賞した材料でもあるため、縦型パワーデバイスでも日本半導体メーカーが今後さらに積極的な事業を展開し、世界的なシェアを獲得してくれることを期待したい。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 津村明宏

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