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NPO法人東南アジア医療支援機構 (医)社団三思会 医師 野村直樹氏(1)


経済格差が医療格差に直結、一部人口の高齢化も、医療関連支出はシンガポール除き低め

2015/12/22

野村直樹氏
野村直樹氏
 11月20日に開催された国際機関日本アセアンセンター主催の「ASEAN医療ビジネスセミナー―ASEANの医療分野におけるニーズと課題―」で、NPO法人東南アジア医療支援機構 理事長・(医)社団三思会 医師の野村直樹氏が「医師の視点からみたASEAN医療におけるニーズと課題」と題したセミナーを行った。同セミナーでは、経済格差が医療格差に直結していること、ASEAN諸国が抱えている医療問題点、東南アジア医療支援機構の絶対的需要に対する取り組み、三思会の相対的需要に対する取り組みなどを説明した。

◇   ◇   ◇

◆経済格差が医療にも決定的格差を生み出す
 野村氏は冒頭で、ASEAN諸国の医療事情をグラフや写真を交えて紹介した。ASEAN諸国とは、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、ブルネイの10カ国を指し、中でもASEAN6と称されるブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイは先進国ではないが比較的経済が進んでおり、一方でCLMV諸国と称されるカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムは世間一般で言われている発展途上国に位置する。上記の経済格差が医療においても決定的な格差を生み出していることを同氏は指摘する。

◆経済が進んでいる国ほど医師の数が多い
 経済格差が医療格差に直結していることを踏まえ、同氏はASEAN諸国の保健医療の現状をグラフで示した。1000人あたりの病床数は日本の13.7人に対し、ASEAN諸国では2.7人が最高で、一番低いカンボジアとラオスは0.7人と共通して低いが、1000人あたりの医師数はタイが0.32人、インドネシアが0.29人と低いものの、ほかのASEAN6は1人を超えている。一方、CLMV諸国はベトナムが1.22人だが、カンボジアは0.23人、ラオスは0.27人、ミャンマーは0.50人と低く、同じASEAN諸国でも格差が浮き彫りとなっている。同氏は経済が進んでいる国ほど医師数が多いとした。

◆CLMV諸国は死亡率がASEANでも高め
 また、死亡率もCLMV諸国はASEAN6の多くと比較して高いものとなっている。例えばミャンマーは1000人あたりの5歳未満死亡率が51人、10万人あたりの妊産婦死亡率は220人、10万人あたりのHIV/エイズ死亡数は21.6人と総じて高い。ASEAN6でもインドネシアは比較的上記の数字が高いが、シンガポールに至っては10万人あたりのHIV/エイズ死亡数は0人と徹底した根絶運動で達成している。

◆人口は増えるが日本同様の高齢社会となる国も
 次に同氏は、日本とASEAN諸国の2010年の総人口と20年の総人口推移を表したグラフを用い、ASEAN諸国で懸念される高齢化問題を解説した。
 まず日本は10年の総人口が1億2735万2000人だが、20年には197万1000人減の1億2538万1000人となる見込み。さらに、70~74歳の世代が増加し、0~44歳の若い世代は70~74歳の世代と比較して少ないという高齢化もより顕著となっている。
 ASEAN諸国では日本に近いのがシンガポール、タイで、シンガポールは、総人口こそ10年の507万8000人から20年は605万7000人と97万9000人も増加するものの、20年は0~19歳の人口が日本のような形となっており、いずれ日本のような少子高齢化社会になるという。タイも10年の総人口6640万2000人から20年は6785万7000人と145万5000人増加するが、20年は35~64歳と比較して0~34歳の人口が少なく、これも日本と同様の少子高齢化社会に突入するとしている。
 ミャンマーもシンガポールやタイほど日本寄りではないが、10年と比較して20年の0~19歳世代の人口は減少している。一方でマレーシア、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオスは基本的に正三角形のグラフを示しており、理想的な人口増を迎えると見ている。

◆一部の最先端病院以外は劣悪な病院環境が多い
 さらに経済格差を示す一例として、ASEAN諸国の各病院の写真を用い、写真中の状況を説明した。
 ベトナムの病院は、外来が年間で100万人、入院が10万人に加え、CT 7台、MR 2台を保有する同国では最先端の病院で、先進国の病院にも劣らない機能を有しているという。しかし、ミャンマーの病院は過去に修道院だった建物を改修して病院として使用しているもので、外観こそ立派だが庭に野犬がうろついていて所構わず糞尿をしているため臭く、衛生面にかなり問題がある病院だと指摘。カンボジアの病院も、病室に入りきらないベッドは廊下に設置され、入院患者も廊下で治療を受けていた。

◆ASEAN諸国の医療関連支出は総じて低めに


 同氏は09年までの1人あたりの医療関連支出(米ドル)の表も示し、ASEAN諸国の多くの支出が少ないことを指摘した。
 日本は09年に3321ドルと突出して高く、台湾も表では07年だが1025ドル、韓国は1108ドルと高い水準にある。一方で、ASEAN諸国はシンガポールこそ1491ドルと高いものの、次に高いマレーシアで337ドル、タイで168ドル、ベトナムで80ドル、フィリピンで66ドル、インドネシアで55ドルと非常に低い数字となっている。
 この表にはラオスやカンボジア、ミャンマーなど一部のASEAN諸国のデータがないが、同氏は「統計が出ていない国はもっと低い可能性がある」と分析している。なお、ASEAN諸国ではないが中国も169ドルと、高い経済成長を続けている国としては低い数字となっていた。

◆病原性のある病気にかかりやすい傾向に
 国別でかかりやすい病気もまとめており、例えばインドネシアでは赤痢アメーバ症、寄生虫感染症、デング熱、チクングニヤ熱、腸チフスなど、マレーシアではデング熱やマラリアなど、カンボジアではアメーバ赤痢、マラリア、狂犬病、破傷風、鳥インフルエンザなど、ラオスではデング熱、マラリア、狂犬病、レプストピラ症、高病原性鳥インフルエンザ、メコン住血吸虫症などと、病原性のある病気にかかりやすい傾向にあるとしている。それは、一部を除いては日本と比較して衛生面に大きな問題があるためだという。

(玄行力記者)

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