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NPO法人東南アジア医療支援機構 (医)社団三思会 医師 野村直樹氏(2)


5つの問題点を指摘、ワクチンなど絶対的需要を支援、三思会はミャンマー健診事業を計画

2016/1/5

野村直樹氏
野村直樹氏
 11月20日に開催された国際機関日本アセアンセンター主催の「ASEAN医療ビジネスセミナー―ASEAN の医療分野におけるニーズと課題―」において、NPO法人東南アジア医療支援機構 理事長・(医)社団三思会 医師の野村直樹氏のセミナー「医師の視点からみたASEAN医療におけるニーズと課題」を紹介する連載の2回目は、ASEAN諸国の医療問題点、支援機構や三思会の支援の取り組みなどを取り上げる。

◇   ◇   ◇

◆医療教育が不完全などの医療問題点を指摘
 これまでのASEAN諸国の医療事情を踏まえ、同氏はASEAN諸国の医療問題点として、(1)医療に関する教育システムが不完全、(2)医療施設への支払い能力がある住民の率が低いため、症例が少ない、(3)医療職の待遇が日本や欧米ほど高くない、(4)医学書籍や医療機器マニュアルが現地語で書かれていない、(5)ほぼ100%輸入に頼っているなどを挙げた。特に(4)、(5)に関しては、例えば米国や日本などの医療機器メーカーがASEAN諸国の大病院にMRIを輸出して導入した場合、MRIのマニュアルが現地語でないため、使用方法や使用できた場合でも修理方法がわからず、そのまま放置されてしまうことも多々あるという。無論、現地メーカーで医療機器を製造できるところもごくわずかだ。
 5つの医療問題点とは別に、同氏は「ASEAN諸国の一部では高齢化が進行しており、将来的には医療のみならず介護でも大問題と考えなければいけない」と警鐘を鳴らした。

◆カンボジアなどでは重篤時に他国へ搬送
 次に同氏は、ASEAN諸国の医療の需要を解説した。まず絶対的需要に関しては、公衆衛生学的管理、教育、飢餓対策、抗生剤やワクチンの供給など感染症対策、医療資源の提供を挙げた。相対的(社会的)需要としては、ASEAN諸国に住む日本人に対する医療、日本人が雇っている現地の人たちの医療、人材交流を含めた医療資源の提供、高齢化に伴う生活習慣病、がんの管理を挙げている。
 相対的需要に関しては、医療が必要となった場合の日本人の各国における事情を例示した。シンガポール、マレーシア、タイでは他国への搬送は必要とせず、自国での医療を受けるが、インドネシアでは重篤時はシンガポールへ搬送、カンボジアとミャンマーでは重篤時はタイへ搬送、フィリピンでは重篤時は日本へ搬送、ベトナムでは入院時は他国、ラオスでは即刻タイでの医療が一般的になっているという。

◆日本への医師や医学生の留学が盛ん
 先進国によるASEAN諸国に対する医療の展開も説明した。絶対的医療の需要に対する支援としては、栄養剤など飢餓に対する支援、抗生剤やワクチンなどによる感染症に対する支援、医療、健康に対する教育、人材交流などを行っている。同氏によると特に日本においては、一昔前よりASEAN諸国の医師や医師を志す医学生の日本への留学が盛んとなっており、日本で医療、健康に対する教育を受けているという。
 日本国内でもASEAN諸国への医療支援の機運は高まっており、例えば、同氏は14年7月にNPO法人東南アジア医療支援機構が設立し、自らがその理事長を務めている。同機構は、(1)東南アジア地域における、保健・医療に関する物資の支援事業、(2)東南アジア地域における、保健・医療に関する人材交流、教育支援事業、(3)東南アジア地域における、保健・医療・福祉・介護事業など普及啓発活動を事業活動に掲げている。

◆医療機器やワクチンなどの提供に奔走
 具体的な活動としては、HPやFacebookも運営しており、会員宛てメールマガジンを毎月配信しているほか、支援のためラオスやミャンマーなどに現地視察および国内関係先訪問・折衛を行っている。また、日本国内4カ所に寄付型自動販売機を設置し、1本買うと3円が寄付されるほか、ライオンズクラブや地域などからの募金も受け付けている。さらに、ラオスには栄養補助食品約2000個、粉末アクエリアス50袋、哺乳瓶50本、スティック粉ミルク約1000本などの支援を行った。
 東南アジア医療支援機構としては、今後ASEAN諸国に向けて医療機器の提供を計画しており、医療機器メーカーから医療機器を集めているほか、神奈川県厚木市の協力で救急車の中古車も集めている最中だ。しかし、抗生剤や薬、ワクチンも集めてASEAN諸国へ提供すべくメーカー何社かに依頼をしているが、膨大な数が必要なことや、効能・副作用にメーカー側が責任を持てない、取れない、外国語の添付文書がないこともあって現時点では少量の提供にとどまっているという。

◆ミャンマーで診療所開設や企業健診を計画
 最後に、同氏は相対的需要に対する支援として、自身が医師として所属する三思会の活動を説明した。三思会としては最終的にはミャンマーにおける健康診断事業の普及促進を計画しており、具体的には団体向け・個人向けの安価な健康診断事業などの現地展開を通じて同国における予防医療の充実を図るとしている。そこで12月中にも現地企業と合弁会社を設立し、16年半ばまでに診療所の開設を目指す。さらに、診療所開設後には日本から健診車の輸入も計画しており、17年4月に企業健診を開始する計画を明らかにした。

(玄行力記者)

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