電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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モニター市場「付加価値がさらに重要に」


~「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(4)~

2016/1/8

主席アナリスト 氷室英利氏
主席アナリスト 氷室英利氏
 大手調査会社のIHSは、2016年1月27日、28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全6回にわたって聞く。第4回は「デスクトップモニター&パブリックディスプレイ市場」を担当する上席アナリストの氷室英利氏に主要テーマを伺った。

◇  ◇  ◇

―― デスクトップモニター市場では収益の確保が難しくなっています。
 氷室 15年のモニター市場は1.2億台が見込まれるが、今後数年間は少しずつ減少していくとみている。コモディティー化対策として付加価値をどう付けるかが重要になっており、(1)高解像度化、(2)リフレッシュレートの高速化、(3)狭額縁化によって徐々にモニターの単価を上げている。
 (1)では、13年から4Kモデルが出始めたが、高コストであるためあまり売れていない。このため、周辺部品を含めたコスト面で受け入れやすいフルHDの1つ上、4Kの1つ下であるQHD(2560×1440画素)へのシフトが15~16年のトレンドである。
 (2)では、特にゲーム用など用途が明確なモニターでリフレッシュレートを60Hzから144Hzに上げる取り組みが目立ってきた。液晶モードはTNでよく、制御基板側で対応が可能であり、需要は一部のヘビーユーザー向けに限られるが、24インチや27インチでエヌビディアの「G-SYNC」やAMDの「Freesync」といった同期技術に対応するモニターが増えてきている。

―― 医療用モニターに参入したいパネルメーカーが多いと聞きます。
 氷室 年間30万台程度の市場でありながら、1台あたりの平均単価が4000ドルであるため魅力的に感じるのだろうが、そう甘くはない。NLTテクノロジーやジャパンディスプレイ、イノラックスらがIPSモードで特別なパネルを製造し、バルコやEIZOが医療用に特化したビジネスを展開しているが、グレースケールやキャリブレーションなどを医師ごとにメンテナンスし、常にベストの状態を保てるようなサポート体制を構築できなければ生き残れない。

―― そうしたなかでも参入企業に変化は。
 氷室 古参メーカーであるNDSサージカルイメージングが医療用のなかでも手術室用に特化しつつあり、狭い市場でさらに尖った展開を進めつつある。これに見るように、医療用を総合的に手がけることができる企業がなくなりつつあるという印象を持っている。

―― 技術面に関してはいかがですか。
 氷室 1画面内にカラーとモノクロ映像をマルチ表示できる「マルチモダリティー」が流行し始めている。臓器を3Dのカラーで、診断画像をモノクロでといった具合に、1画面内で特性を変える必要があり、高度なキャリブレーションが要求される。もちろん大画面化のニーズも強い。

―― 放送用モニターも高付加価値市場です。
 氷室 放送用ではカメラとリファレンスモニターを同期させる必要があるため、まずカメラが売れる必要があるが、4Kカメラの販売はまだ低調だ。リファレンスモニターは確かに1台300万~400万円と付加価値が高いが、現場にはまだ「フルHDで大丈夫」という雰囲気がある。市場拡大には4Kインフラの普及が必要だろう。ちなみに、リファレンス用は液晶モニターがメーンだが、コントラストや応答速度に優れる有機ELモニターも一定の市場を獲得できている。

―― パブリックディスプレー市場に4K化の波は来ていますか。
 氷室 広告サイネージ用では、大画面化のニーズはあるものの、4K化は見えてこない。独自コンテンツが必要とされるため4Kにシフトしてもよさそうだが、4K対応システムがまだまだ高価なため、ちらっと見るだけの広告に4Kが必要かという姿勢が見え隠れしている。ちなみに、サイネージ用ディスプレーの平均サイズは50インチ以上に上がっており、100インチクラスの需要も出てきた。


―― 確かにビデオウォールのような使われ方も増えていますね。
 氷室 複数のモニターをつなぎ合わせたビデオウォールでは超狭額縁のニーズが増えてきた。70インチクラスまでで額縁を幅5mm未満にする取り組みが増加しており、メンテナンスも容易になるという。
 また、パブリックビューイングなどに8Kを活用しようという動きがNHKを中心に活発化している。8Kはテレビでなく業務用でこそ良さが出せるといわれており、この動きに参画するメーカーも増えてきた。
 また、FPDではないが、超大画面ビデオウォールではLEDディスプレーにも注目している。LEDチップは現在「超オーバーサプライ」で価格が急落している。単位面積あたりの価格はまだFPDの10倍ほどするが、早晩急激に安くなる。超高密度実装によって急激に高画素化する可能性もある。サムスンは買収、LGは提携によってLEDサイネージメーカーと連携して参入準備を整えたほか、中国のレイヤードも米プラナーを買収した。FPDに比べて参入が容易なため、買収などでチャネルパートナーが確保できれば、アジア勢が一気に参入してくる可能性が高い。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第30回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
https://technology.ihs.com/events/552152/30th-ihs-display-japan-forum
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