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(株)アジア戦略アドバイザリー 代表取締役 杉田浩一氏


ASEAN医療のニーズを講演(4)、ミャンマーの伸びしろはベトナム以上、政権移管前が参入チャンス、市場に中古機器が横行

2016/2/9

杉田浩一氏
杉田浩一氏
 2015年11月20日に開催された国際機関日本アセアンセンター主催の「ASEAN医療ビジネスセミナー―ASEANの医療分野におけるニーズと課題―」で、(株)アジア戦略アドバイザリー 代表取締役の杉田浩一氏が行ったセミナー「東南アジアの医療機器市場におけるニーズと課題~タイ、ベトナム、ミャンマーを中心に~」を紹介する連載最後の今回は、ミャンマーにフォーカスし、杉田氏の解説による経済発展や医療環境整備などの成長ドライバー、高度医療機器の中古品が横行している現状、日本企業の進出における課題などをお伝えする。

◇   ◇   ◇

◆医療市場はベトナム以上のアップサイドが存在
 杉田氏によると、ミャンマーの医療環境はベトナム以上に遅れており、富裕層は国外のタイやシンガポールで医療を受けている。一方で都市部では新たに病院の構築が進んでいるほか、新規医療機器の購入も推進しているなど、変化のスピードが速いという。
 ミャンマーは11年の民政移管からようやく医療関連に対する改革が進み始めたが、病院や医療機関にはまだ十分な資金が回ってきていないのが現状である。それゆえにベトナム以上に医療機器業界としての将来的なアップサイドが存在することを杉田氏は強調していた。

◆政権移管前が医療機器メーカーの参入チャンス
 続いて杉田氏は、ミャンマーの成長ドライバーとして、(1)経済発展に伴う所得の増加、(2)医療環境の整備、(3)高齢化の進行を挙げた。(1)は、11年の民政移管以降、経済改革が進んだものの経済規模自体が依然小さく、1人当たりGDPも1200米ドル程度といまだにASEAN諸国でも後発国に位置する。しかし、15年11月に行われた総選挙でアウンサン・スーチー氏の率いる野党のNLDが勝利したこともあり、今年3月にスムーズに政権移管が実施されれば、今後さらなる経済成長が期待できるという。なお、杉田氏は「政権移管の実施後に、これまで欧米から受けてきたあらゆる経済制裁が解除されると、欧米の大企業がミャンマー市場に参入する。政権移管が実施されていない今(15年11月時点)が日本の医療機器メーカーの参入のチャンス」だと強調していた。
 (2)としては、ミャンマーの病院数は近年増加傾向にあり、ミャンマー政府も医療環境の改善を国の優先政策に掲げていることもあり、医療環境整備を積極的に進める方向にある。(3)は、国連の「世界人口予測(15年改訂版)」によると、10年の人口は約4900万人だが、50年には6350万人近くまで増加する見通しで、タイを上回るとしている。また国連統計によると、10年の高齢化率は5%だが、50年まで緩やかにではあるが上昇し続け約13.3%になると予測している。

◆医師に比べて看護師などの数が絶対的に不足
 次に杉田氏はミャンマーの病院市場の特徴を説明した。ミャンマーでは12年以降、外資のクリニック設置を認め始めたが、規制緩和の結果、増加しているものの内容が施設の増加に追いついていない。また、国民1人当たりの医師数は、近隣諸国と比較してそれほど少なくないが、コ・メディカルと言われる看護師などサポートスタッフの数が医師の数と比べて少なく、その結果現場での対応能力に支障をきたしている。従って、新しい医療機器などを導入しても現場でメンテナンスがなされていないなどの状況になりがちだ。さらに、より高度な医療を受けるために都市部の公立中央病院で働く医師が自前のクリニックを運営していたり、私立病院の医師を兼務している場合が多く、タイのように私立病院専属に移る医師は多くない。

◆伝統薬や伝統医療は特に規制
 ミャンマーの外資進出における主要な法律は、外資投資法と国営企業法。ただし、国営企業法には医薬品や医療機器、医療サービスについて特段記載されていないので、主に見るべきは外国投資法になる。
 外国投資法には、(1)禁止される経済活動(10分野)、(2)内国資本のみが従事できる分野(25分野)、(3)ミャンマー国民との合弁事業の形態においてのみ許可される分野(30分野)などいくつかの規制項目がある。さらに、特別な条件の下で許可される経済活動が規定されている場合は、(4)関係省庁の承認があり、合弁であれば許可される分野(43分野)、(5)一定の条件を満たし、合弁であれば許可される分野(21分野)の2つに分けられる。(1)においては、直接医療関連に該当する記述は見当たらない。(2)については、製造業の中には(2)-2伝統薬の製造、(2)-5原産の(伝統的な)薬草の栽培の記載がある。
 それとは別にサービス業のくくりの中で、(1)専門医による伝統的な民間の病院、(2)伝統薬の原材料取引、(3)伝統薬の研究分析事業、(4)救急サービス、(5)高齢者医療センターの設立の5つの分野が関連する可能性がある。伝統薬や伝統医療などの分野が特に規制されている点が特徴。これは、文字通り古来現地に伝わる薬や治療法で、薬草や食事療法なども含む医療行為を指している。

◆寄付ルートで中古医療機器が市場に流入
 同氏は、ミャンマーにおいて高度医療機器の中古品が横行していることも説明した。高度医療機器は患者に対するアピールとして需要は大きいものの、初期費用が高く新品を導入できる医療機関は非常に限定的である。そうした中、中古の高度医療機器が横行しているという。
 中古の高度医療機器はやはり安全面・利用面での問題が多く、手術中に天井に吊るしている手術機器が落下した事故や、手術中に中古の機器が止まり、生命維持ができず死亡した事故などもあり、その影響で14年10月ごろから15年4月にかけて一時期、中古の高度医療機器は輸入禁止になっていた。しかし、このような措置がとられても措置に対する抜け穴を使って流入していると同氏は指摘する。今回の輸入禁止措置はあくまで中古品の購入に対して行われていたもので、例えば寄付での入手という形態は禁止対象外だったため、そのような形態を抜け穴にして、中古の高度医療機器は市場に継続して流通したのだ。この話の最後に、同氏は「15年11月現在では措置は解除されているが、同様の事故が起これば再開する可能性がある。そうなればまた寄付ルートを通じて流入が継続する」と警鐘を鳴らした。

◆1年保証付き販売で、別途メンテ契約が主流に
 同氏はミャンマーにおける高度医療機器販売のあり方も解説した。新品市場においては、その後のメンテナンス費用も販売価格に織り込んで販売する形態もある。例えば、日本で6000万円ほどの新品MRIを2億円で売り、その後のメンテナンスや修理をすべて無料にするケースなどがある。しかし、初期投資が大きく価格面で厳しいため、依然として違法の中古品を購入し、メンテナンス会社のエンジニアに賄賂を渡してメンテナンスしてもらっている病院が多いのが現状だという。
 また、販売側も送料、通関、保険、設置費用、初期的なメンテナンス費用などの観点からどうしても初期コスト自体が高くなるのに対し、あまりにも故障が多くそうしたモデルでは利益率が良くないという問題もある。それを受けて最近ではメーカーによる1年保証に切り替わり、1年経過以降は別途メンテナンス契約を結ぶ方向にシフトしている。それでもなおメンテナンス契約を結びたがらない病院が多く、それがさらなる故障の原因になっている。
 一部の日本の医療機器メーカーは、日本では売れない型落ちの高度医療機器を無料で入れてメンテナンスによって事業化することを画策しているが、すでに高度医療機器で進出している企業ではメンテナンスを行える人材が不足しており、サービスに遅れが出ているという話もある。これを受け、ミャンマーの医療機器業界においては、しっかりとした保守点検体制の構築がポイントになると同氏は指摘した。

◆日本企業はディスポーザブル系で健闘
 日本企業がミャンマーの医療機器市場で、高度医療機器と比較して健闘している分野として、注射器・カテーテルなどのディスポーザブル系やレントゲンなどを挙げている。また、アフターサービスに非常に力を入れて成功している企業もある。それでも全体で見ると進出が本格化していないのは、法整備や慣行蓄積による確実性の確保について懸念が残っているためだと同氏は語っていた。

◆医師や代理店などを教育していく姿勢が重要
 最後に同氏は日本企業のミャンマー進出における課題を説明した。医療機器の販売について主導権を握っているのは代理店で、現時点では圧倒的な1強が存在するわけではなく、基本的には横並びで複数存在している。そのため、複数のメーカーが1つの代理店に頼らざるを得ないという状況はまだ発生していない。逆に代理店からしても医師たちの需要に応じて様々なメーカーの機器を取り扱おうという姿勢なので、メーカー側の要望で独占契約を結ぶのは難しい。ゆえにほかの東南アジア諸国で見られる代理店との独占販売契約関係でのトラブル事例はまだ蓄積していないが、今後生じる可能性は十分にある。
 また、レントゲンやCTで放射線の被ばく量が国際基準を大幅に超える、酸素ボンベのメンテナンスが行き届いておらずカビが繁殖してかえって使わないほうがいいなど、現地医師の知識不足からくる問題も多い。そのため、進出においては、代理店、医師など現地のプレイヤーを教育していく姿勢が重要となる。

(玄行力記者)

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