電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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有機ELインパクトがFPD業界を覆う


~「第31回IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(1)~

2016/6/3

シニアディレクター 田村喜男氏
シニアディレクター 田村喜男氏
 大手調査会社のIHSは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全5回にわたって聞く。第1回は「FPD市場総論」を担当するシニアディレクターの田村喜男氏に主要テーマを伺った。

◇  ◇  ◇

 ―2016年は「中国インパクトが本格化」するとお話ししていましたね。
 田村 もともとは「中国パネルメーカーの増産による供給過剰・コモディティー化」という意味合いだったが、現在はこれを発端としてあらゆる方面に影響が波及している。
 まず、供給過剰によって大半のパネルメーカーが赤字に転落し、今後の中国の増加を見据えて、液晶パネル生産能力のリストラ加速の動きとなっている。
 また、中国スマートフォン(スマホ)メーカーが次世代技術と評される有機ELの採用を増やしたことで、低温ポリシリコン(LTPS)液晶の価格下落を生み、いまや「中小型は全面的に有機ELにシフト」といわんばかりの様相を呈している。有機ELの採用がさらに進めば、LTPSの今後の需要増加を押し下げることにつながる。そして、LTPSはa-Siの需要を侵食することにもつながり、a-Siは将来にはEOLということになるであろう。
 一方で、テレビ用液晶パネルの大型化を牽引しているのも中国市場であり、平均サイズは米国市場を凌ぐ水準だ。こうなると、大型テレビをターゲットとしている有機ELに対する将来の期待値も高まってくる。

 ―確かに、サムスンディスプレー(SDC)やLGディスプレー(LGD)は古い液晶ラインを相次いで閉鎖します。
 田村 SDCは第5世代(5G)の「L5」を売却、同じく5Gの「L6」を17年末までに閉鎖するもようだ。05年に稼働を開始した7Gラインも半分(テレビ用)シャットダウンし、その空きスペースに中小型有機ELの新ラインを導入する。つまり、増産投資は中小型有機ELに集中する、というのがSDCの戦略と言える。非常に大胆で迅速なリストラだ。LGDも5G以下を閉鎖していく予定で、6Gラインの有機ELへのシフトも鮮明にしている。

 ―スマホ用はLTPS液晶から有機ELへ完全に置き換わりますか。
 田村 25年にスマホ用の8割が有機ELに切り替わる可能性があると考えている。その根拠として、設備投資という視点で見ると、LTPSの増強投資は現在すでに発注済みの案件以外に新規案件がない。世界的に見て、中小型パネルの新規投資案件は「すべて有機EL」と言ってよい状況だ。

 ―スマホ用の大半を有機ELに取られた場合、LTPSが生き残る道は。
 田村 ノートPCおよび2in1(キーボード脱着型)PC用途の開拓に動き出している。超高精細モバイルPCといわれるUHDの領域で、17年から本格採用されるとみている。この市場でLTPSは有機ELおよびオキサイド(酸化物TFT)と競合するが、有機ELは解像度が現状QHD止まりであるため、UHDを提供できるLTPSに優位性がある。オキサイドはQHDからUHDと、超高精細というよりは対象範囲が広く、これがLTPSと競合することになる。
 この市場で有機ELは薄さと軽さを訴求できるが、パネルの焼き付きを解消できていない点が問題だ。マイクロソフトOfficeが有機ELをサポートしていない点でも遅れを取っており、歩留まりやコストでもLTPSを凌ぐのは当面難しいだろう。

 ―アップルの採用に見るとおり、ハイエンドノートPCではオキサイドにも可能性があるのでは。
 田村 そのとおりだ。ハイエンドノートPC・タブレットにはオキサイドが徐々に浸透していくと考えている。アップルのiPadに続き、マイクロソフトの2in1PC「Surface」がオキサイドを採用しているが、この流れが今後どれだけ他のPCメーカーに浸透していくのかが注目される。そして、アップルはMacBookの16年末のメーンモデルでオキサイドの採用を開始する。

 ―オキサイドがノートPC・タブレットなどのIT市場で一定のシェアを獲得できるなら、シャープ+鴻海連合にも勝機が出てきますね。
 田村 両社は有機ELの量産開始を19年からと発表しているが、オキサイドのパネル事業を強化していくことも最重要である。アップルやマイクロソフトをはじめとするハイエンドモバイルPCは重要な市場であり、亀山8G工場に加え、グループ企業のイノラックスを含めてオキサイドの量産アロケーションを考えるだろう。この動きに中国CECパンダも加えて考える必要があるかもしれない。

 ―液晶生産面積の70%を占めるテレビ用はどうなっていきますか。
 田村 20年までは相変わらず液晶がメーンだが、以降は中国勢が有機EL化の投資に乗り出す。すでにそうした動きが見え始めている。テレビ用でも有機ELへの置き換え投資が始まれば、25年そして30年に向けて液晶が徐々に侵食されていくことにつながる。
 ただし、中国勢がテレビ用有機ELを量産化しようとするなら、技術パートナーが不可欠だ。加えて、この過程で中国国内でも有機ELメーカーの淘汰が必ず起きるはずだ。

 ―中国インパクトの影響でパネルメーカーは16年いっぱい赤字が続くという見立てでした。現在も見立ては変わりませんか。
 田村 確かに16年中は多くのパネルメーカーが赤字から脱出できないだろうが、韓国勢の積極的な液晶生産能力のリストラで、需給バランスは従来予想より早くに好転する可能性が高まった。17年後半には供給がタイトになり、18年は好況に転じる可能性が出てきた。ただし、こうした業界の変化に対抗する策をいまだに打ち出せていない台湾パネルメーカーの動向にも注目する必要がある。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
http://www.cvent.com/events/31st-ihs-display-japan-forum/event-summary-9f97d28cf3a54a92a143df2f3670badc.aspx?Refid=IHSSITE
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