電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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中小型はイノベーションが不可欠


~「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」開催(2)~

2016/6/17

シニアディレクター 早瀬宏氏
シニアディレクター 早瀬宏氏
 大手調査会社のIHSは、7月27~28日に国内最多の受講者数を誇るFPD市場総合セミナー「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」を東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)にて開催する。本稿では、その注目の講演内容を登壇アナリストに全5回にわたって聞く。第2回は「中小型FPD&アプリケーション市場」を担当するシニアディレクターの早瀬宏氏に話を伺った。

◇  ◇  ◇

 ――中小型パネル市場で有機ELへの注目度が高まっています。
 早瀬 スマートフォン(スマホ)用パネルに関しては、結局「誰が資金を提供するのか」が決定的な要素になる。低温ポリシリコン(LTPS)が主流になったのはアップルがパネル各社に資金を提供したからで、これによってスマホの差別化を図る狙いがあったからだ。サムスンも同様で、有機ELの実用化によってスマホを差別化し、利益に結びつけてきた。要はセットメーカーの考え方次第だ。資金を提供するセットメーカー側が有機ELを求めているなら、もはやこの流れを止めることはできない。

 ――中国のパネルメーカーも有機ELの量産化に意欲的ですね。
 早瀬 中国は有機ELの事業化を国が補助している。逆にセットメーカーは、サムスンやアップルと競争するつもりかと思いきや、海外市場にまだ十分に打って出ておらず、ローカル企業同士で競争し合うにとどまっている。中国市場にはサムスンが有機ELを供給し始めており、中国パネルメーカーはまだこれを追う段階にある。

 ――16年の中小型パネル全体市場は。
 早瀬 数量ベースではほぼ横ばいだが、スマホ用の有機EL化で平均単価が上昇するため、金額ベースでは極端に落ちることはないとみている。「安定したスマホ用と伸びる車載用」というのがテーマになる。新市場としてVR/ARが注目されているが、個人的には一過性の限定的な市場ではないかとみている。機器よって年齢による利用制限があることに見るとおり、肉体的・精神的な負担が大きいためだ。

 ――車載用は伸び盛りですね。
 早瀬 採用までに3~5年を要するため短期的には増えないが、着実に伸びる市場だ。FPDのセット市場ではスマホをはじめあらゆる機器がコモディティー化したが、クルマだけは逆に少量多品種が求められ、その流れがさらに強まる傾向にある。自動車メーカーは独自のデザインを競い、横並びを嫌い、車種ごとに差別化を図り、調達リスクを分散するためパネル各社にシェアを均等に振っている。このため車載用に参入するパネルメーカーが増加し、寡占化が薄まっていく流れだ。

 ――車載用は現状アモルファスシリコン(a-Si)TFTが主流です。
 早瀬 少量多品種のためガラス基板の小さなラインで製造するのに向いており、6Gラインで製造するとかえって非効率だ。サムスンやLGが5G以下のa-Siラインを相次いでシャットダウンできるのは、逆に言えば、長期供給が不可欠な車載用をほとんど手がけていないためだ。
 a-Siの生産キャパシティーが世界的に限られてくるなか、透過率や開口率、省エネ性といった観点からLTPSを使いたいというニーズは将来出てくると思う。だが、有機ELはほとんど出番がないだろう。寿命や輝度、そして何よりも焼き付きの問題をクリアしていないためだ。

 ――コモディティー化していない用途がクルマだけでは将来が厳しいですね。
 早瀬 コモディティーに埋没しないために、セットメーカーがパネルメーカーにどうアプローチしていくか、サプライチェーンを根本的に見直す時期に来ていると思う。スマホ用はすぐに減りはしないが、いつまでもアップル頼みでいいわけがない。やはり強いセットが必要であり、装置や材料も含めて、サプライチェーン全体から新たなイノベーションを生み出していく努力がいっそう求められてくるだろう。

(聞き手・編集長 津村明宏)



 「第31回 IHSディスプレイ産業フォーラム」の詳細情報は
http://www.cvent.com/events/31st-ihs-display-japan-forum/event-summary-9f97d28cf3a54a92a143df2f3670badc.aspx?Refid=IHSSITE
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