電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第196回

日本の中小企業連合をつくり『匠の技』を世界ステージに出してみせる


~「芝居に賭けた夢」を実現していく横浜「ミナロ」の緑川賢司という男~

2016/8/19

 横浜市南区井上ヶ谷に生まれ、神奈川県立磯子高校を出たその男は、「芝居」というパフォーマンスに憧れていた。フリーターをやりながら大手劇団の門をたたき入団試験に合格する。しかして、母子家庭であったためにお金に余裕がなく、劇団に入ることは叶わなかったのだ。

 「母に入団試験に合格したことを告げたが、とても入団するためのお金は払えないことは分かっていた。断念するからいいよ、と言って朝起きた時には枕元にそのお金は封筒に入れて置いてあったのだ。とても、このお金は使えないと思った。どんなに無理をして作ったお金であるかが分かっていたからだ。演劇というパフォーマンスの世界を諦め、モノづくりで表現するという道を選ぶことになる」

(株)ミナロ 代表取締役 緑川賢司氏
(株)ミナロ 代表取締役 緑川賢司氏
 こう語るのは横浜の金沢産業団地にあって、超精密の木型づくりで名を知られる(株)ミナロ(横浜市金沢区福浦2-13-14 Tel.045-784-6692)を率いる代表取締役の緑川賢司氏である。チョット見にはダンディーなミドルエイジの役者を思わせる風貌の緑川氏は、創業の頃を振り返りこう述べるのだ。

 「木型をつくる中小企業に入社したが、何とその会社は廃業してしまった。このままで終わってたまるか、との思いで3人の仲間と会社を作った。ミナロという社名は3人の名前を組み合わせたものだ。立ち上げ当初は苦労したが、ネットを活用する戦法に出たことで、一気に取引先が増えていった」(緑川社長)

 下請けに甘んじるという町工場の閉鎖的空気を打ち破りたかった緑川氏は、フリーな空間をつくり、フリーなモノづくりを体験したい若者たちを集めていく。金沢産業団地にある多くの企業とも交わりが始まり、地域の人たちとも深く関わっていく。現状でユーザー数は3000を超えるほどになった。「船と車」に関わる企業がユーザーの中心であるが、個人の方からも相談を受ければ注文に応じることも多いという。

 「3Dプリンター全盛の時代となってきたが、精密木型の技術はどこまで行っても生き残ると考えている。造船、自動車ガラス、各種治具などの分野では、超高精度の木造模型がどうしても必要になるのだ。安全性、機能性を追求する自動車のダッシュボード、ドア、ハンドルなどは3Dプリンターの技術では決して精密模型は作れないのだ」(緑川社長)

 まさにニッポンの匠の技がまだ息づいていることを思わせる緑川氏の言葉ではある。売り上げを上げていくことや、会社の事業規模を拡大することよりも「今ここで働く人の生きがいを実現したい」という緑川氏は、木型の世界以外にも多くのトライアルを行っている。

 緑川氏はまたTV、新聞などメディアの多くの注目を集める「世界コマ大戦」の仕掛人でもある。これは切削、研磨、穴あけなど中小企業のモノづくり技術をアピールすることを目的に、各中小企業が作り上げたコマを競わせてチャンピオンを決めるというイベントであり、筆者も拝見したが、大変な人だかりと熱気であったことを覚えている。

 「世界コマ大戦は回を重ねるごとに参加者も増え、外国企業も喜んで参加してくる。かなりグローバルなものとして定着している。次のドでかいコマ大戦はやはり横浜で開催したい。2020年東京オリンピックの時に仕掛けようと構想を練っている」(緑川社長)

 グローバルというキーワードは、今や中小企業にとっても必須のものとなりつつある。緑川氏は日本の優秀な中小企業の技術がまだまだ世界に認知されていないことを悔しがる。小さくとも世界ブランドになる実力はあるのに世界とつながるロードづくりができていないため、チャンスを逃しているというのだ。

 「日本の中小企業連合を作って世界と勝負する道をつくりたい。このための一歩として東京・墨田区にOCASILAという新会社を作った。日本の作るモノはいい。でも、そのまんまでは売れない。世界の流行をきっちりと把握し、それに合わせた中小ブランドづくりをして、かつ現地ニーズに合わせたモノづくりをする。そのコーディネートを行うのが、OCASILAのミッションなのだ」(緑川社長)

 役者になることを夢に見ていた青年は今や中小企業ブランドの世界ステージを作るという「ジャパンドリーム」に賭けている。ところで、最近のことであるが「未来シャッター」という映画が作られ話題となったが、緑川氏に出演依頼が来て、見事にその役をこなしたのだ。そしてまた、2016年11月公開の映画「横濱の空の下」(脚本・監督=泉谷渉)にも出演することが決まった。

 「映画の出演依頼が来た時は本当にうれしかった。役者になりたかった自分に神様がくれたプレゼントだと思った。プロの役者にはなれなかったが、日本発のハイブランドの中小企業を世界市場に持っていくという舞台が自分を待ち受けている。イタリアは中小企業ばかりの国であるが、フェラーリや高級シューズなど世界ブランドを持つカンパニーがいっぱいある。日本の技術をもってすれば、中小企業でも超すばらしい世界ブランドを作れるはずだ。その夢の実現に賭けていく」(緑川社長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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