電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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販社の重複が再編の要因に


~半導体メーカーのM&Aが商流を変える~

2016/10/28

■大きく変化しようとしている半導体流通

 このコラムでは、これまでにも何度か半導体商社業界の再編の可能性について私見を述べさせていただいた。アブネット、アロー、WPGといったメガディストリビューターが世界の半導体流通市場を牛耳っている一方で、小規模な日系半導体商社が停滞した日本市場に多数存在する、という対照的な構造がいつまで続くのか、日本市場で売り上げを伸ばそうとしているアブネットにどうやって対抗するのか。このような筆者の問題提起に多数の方々からご意見をいただき、このままの状態では生き残れない商社が続出する、という危機感が強まっていることを実感していたが、実は全く別の要因で商社業界の再編が加速しそうな状況にあるのだ。それは、昨今多く見られるようになった半導体メーカーのM&Aである。今、流通業界で何が起こっているのか整理してみたい。

■これまでの主な半導体メーカーのM&A

 2014年以降の半導体業界の主なM&Aを列挙してみると、NXPによるフリースケール買収、インテルによるアルテラ買収、アバゴによるブロードコムの買収、サイプレスによるスパンションの買収、そしてアナログデバイセズによるリニアテクノロジーの買収、などが挙げられる。

 買収によって2社が1社に統合されると、代理店の重複が発生する。特定顧客に対して代理店は2社も必要ないので、代理店の見直しが行われ、何社かが商権を失うことになる。

■NXPとフリースケールの場合

 例えば、NXPとフリースケールの統合は、多くの商社に影響を与える結果となった。10月6日現在のNXP社のWebサイトで確認する限り、日本には13社の代理店(オンライン商社を含む)が存在している。15年のNXPの日本市場売上高は4.64億ドル(560億円)、こんなに多数の代理店が必要な規模ではない。13社のうち、東京エレクトロンデバイスとバイテックの2社は、合弁会社「ビステル」を設立し、この新会社でNXP製品を取り扱うことになった。新会社は当面NXP製品だけを取り扱うが、こうした資本提携が発生することによって、商社業界の再編が加速する可能性は十分に考えられる。

 また、モトローラ時代から長年にわたってフリースケールの代理店を務めてきた丸文は、今回の見直しによって商権を失うこととなった。同社はこの穴を埋めるべく、新しい商材を探さねばならないだろう。場合によっては、別の商社を買収することで商権を獲得しようとするかもしれない。このような動きも商社業界の再編を加速する要因になり得るのだ。

■インテルとアルテラの場合

 インテルとアルテラの場合はもっと特殊だ。インテルの日本における代理店は7社(インテル社Webサイトより)、アルテラの代理店はアルティマ(マクニカグループ)、エルセナの2社(アルテラWebサイトより)である。ここで注目すべきは代理店の数ではなく、代理店に対する半導体メーカーのスタンスの違いだ。

 今回の買収によって、アルテラはインテルの一部門として組織に組み込まれた。日本だけはインテルジャパン、アルテラジャパンの2社が併存しているが、1つの組織に統合されるのは時間の問題だろう。その結果、FPGAを中心とするアルテラ製品は、インテル製品と同様の販売方法が取られるようになる。

 補足すると、アルテラ、ザイリンクスといったFPGAメーカーは、まず代理店に「正規価格」で在庫を仕入れさせ、それより安い価格で顧客に販売させる手法を取っている。これでは代理店は赤字商売になってしまうので、安価での販売後に仕入れ価格を調整する(デビット処理を行う)必要があり、シップ&デビットと呼ばれているが、非常に手間のかかる、かつ高価な在庫リスクを抱える代理店泣かせの手法である。これを商談ごとに行うわけだから、FPGAメーカー側にも相当な業務負担が発生するが、商談ごとに売価を管理したい、というニーズを優先させているのだ。

 インテルは自社のプロセッサーをFPGAに組み込ませ、顧客別にカスタマイズが可能なソリューションを提供しようとしている。そのためにアルテラを買収したわけで、アルテラの特殊な販売方法を容認するとは到底思えない。
 代理店の技術サポートが不可欠なアルテラと、特に技術サポートを必要としないインテルでは、代理店に求める要求内容が異なるので、NXPで見られたような「商権争い」は発生しにくいが、インテルの代理店でもある東京エレクトロンデバイスがアルテラの拡販に乗り出すようなことがあれば、ザイリンクスの日本でのビジネスに何らかの影響が見られるだろう。同社はこれまで20年以上にわたってザイリンクスの代理店を務めてきたので、興味深い選択肢ではある。

■再編を仕掛けるか、仕掛けられるか

 冒頭に述べたように、日本市場の伸び悩み、小規模な半導体商社の乱立、メガディストリビューターの日本市場進出に加え、半導体メーカーのM&Aが活性化したことによって、半導体商社の再編は間違いなく加速するだろう。ここで重要なのは、再編を仕掛ける側に立つか、仕掛けられる側に立つか、である。

 危機感を持たず、具体的な戦略を立てようとしなければ、ほぼ間違いなく「仕掛けられる側」に立つことになる。なぜなら、仕掛けようとしている商社はすでに存在し、彼らは色々な可能性や選択肢を検討しているからだ。打つ手が後手に回れば、その分選択肢が狭まり、追い詰められる危険性が高くなる。某半導体ユーザーの購買部門によれば、先手を打てている商社と後手に回っている商社の違いが明確に見えることがあるという。半導体商社の生存競争は、すでに始まっている。



IHS Technology 主席アナリスト 大山聡、お問い合わせは(E-Mail : Satoru.Oyama@ihsmarkit.com)まで。
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