電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第171回

追い込まれた国内中堅配線板メーカー


すぐそこまで忍び寄る危機

2016/11/4

セットと切っても切れない関係

 国内中堅のプリント配線板業界に、密かに、しかし確実に危機が忍び寄っている。この業界は、中小企業(従業員100人未満)の比率が圧倒的に高く、9割弱(社数ベース)にのぼる。試作開発向けの配線板を生業としているところも多い。日本メクトロンやイビデンのような年間数千億円も売り上げる大手企業はごく一部といえる。

 国内の配線板市場は、2000年の1.4兆円(出典:JPCA)をピークに、06年以降、ほぼ右肩下がりで市場が縮小している。ピークに比べ、15年時点で半減以下となった。この間、配線板業界は、08年のリーマン・ショックを経験し、11年の東日本大震災やタイの大洪水といった未曽有の自然災害を乗り越えて、何とかここまでやってきた。しかし、その凋落ぶりはまさしく「盛者必衰のことわり」を地でいっている。


 配線板はセットやシステム機器とは切っても切れない関係にある。その主要顧客となる国内セット・システム機器の大きな構造変化に翻弄されてきたといってもよい。JEITAの「電子情報産業の世界生産見通し」(15年12月版)によれば、電子情報産業(セット機器など)の世界生産額は06年の216兆円から15年見込みで318兆円と、およそ10年間で1.5倍に拡大している。牽引したのは、スマートフォン(スマホ)・携帯電話などの通信機器やITソリューション、コンピューター・情報端末の分野である。しかし、残念ながら、これらの領域で日系のセット企業が主役を張ることは少なかった。スマホなどが含まれる通信機器の世界生産額は64兆円を超えるが、このうち日系のシェアは6%にとどまっている。成長産業における日系企業の存在感が薄いのが、国内配線板メーカー凋落の大きな要因の1つといえる。
 
 AV(オーディオ・ビジュアル)機器で大きなシェアを握っていた日系セットやシステム機器メーカーが圧倒的な存在感を放っていた90年代後半までは、配線板業界も右肩上がりで成長を謳歌してきた。ハンディーカムに採用されたビルドアップ基板(HDI)や半導体パッケージ基板などを世に送り出し、マーケット・技術の両面で世界市場をリードしてきた。まさしく隔世の感がある。

 セットと切っても切れない関係を象徴するのが、毎年加速する海外生産の割合だ。13年に国内と海外の生産比率が拮抗すると、その後は海外生産比率が国内比率を引き離し、さらに拡大している。15年の配線板の生産額1.6兆円のうち海外生産は6割に及ぶ。16年以降も国内と海外の差はさらに拡大するとみられる。


 配線板は、“生ものの商材”によく例えられる。どうしても顧客の近くにいる必要があるのだ。理由の1つは設計変更などが頻繁に起こるからだ。かつて、セットハウスが何度も試作を繰り返すたび、基板メーカーへ設計変更が伝えられ、その都度、数日のうちに新たな配線板を納品するということを繰り返してきた。こうした持ちつ持たれつの関係が長く続いたが、セットメーカーも効率的な生産システムを追求するうちに、シミュレーション技術などが発達して、セットの試作回数を絞り込んだため、基板の試作需要も少なくなってきた。

 さらに、円高や中国市場の台頭に伴い、日系電気・電子関連のセットが次々と海外生産に乗り出したため、必然的に基板の量産も海外に移っていったのだ。国内の円高が急加速したリーマン・ショック以降、配線板の開発設計を国内から海外サプライヤーに切り替えたことも、国内の試作開発や少量多品種で生きてきた国内中堅の配線板メーカーの体力を徐々に奪っていった。

中小で進む再編・廃業の嵐

 そのため、これらの試作開発型の高度な製造技術力を持つ中小の配線板メーカーは、身売りや株式の売却といった状態にまで追い込まれている。試作開発基板のメーカーが淘汰されるということは、それだけ国内のセット機器メーカーの多様性が失われ、モノづくりの基礎体力も失われていくという誠に由々しき事態なのだ。

 少量・多品種の配線板製造を得意としていたオーケープリント(東京都国分寺市)が、16年4月に同業の東和プリント工業(東京都八王子市)の完全子会社となり、再スタートを余儀なくされている。オーケープリントは、宇宙・航空向けの高信頼性基板や80層といった超高多層板の高難易度基板の製造を得意とする基板メーカーとして名を知られていた。一方、東和プリント工業は、アミューズメント機器向けに両面・多層板の量産を中心に手がけてきていたが、足元のアミューズメント業界の不調に悩まされていたようだ。中長期的にも先細りが予想される同分野で、一刻も早く顧客の多様化を図れる試作開発型企業を取り込むことで、業績の安定化を狙ったとみられる。

 さらにはパッケージ基板業界でも激震が走った。16年7月、老舗のイースタン(長野県茅野市)が、韓国の大手パッケージ基板メーカーのSIMMTECH(シムテック)の出資を仰ぎ、事実上、同社の子会社となった。イースタンは、薄物パッケージ基板の有力メーカーで、スマホのメモリー向けでは大きなシェアを確保していた。しかし同市場は、需要の変動が大きく、単価の値下がりも厳しいことから、最近のイースタンは業績の悪化に苦しんでいた。

 同じパッケージ基板業界では日本サーキット工業(JCI)の廃業も業界にインパクトを与えた。同社はいち早くUVレーザー穴あけ装置の導入に踏み切り、フリップチップ(FC)BGAなどの高密度基板の製造で名を馳せた。しかし、高度な技術力を持っていれば必ず決して市場で生き残れるわけではない。結果論だが、コストリーズナブルなパッケージ基板をいかに製造でき、安定して収益を上げられるか、日系の基板企業に突き付けられた課題は大きい。

 前述のとおり、日系配線板メーカーが弱体化している最大の理由は、その最終顧客となる日系セットハウスの世界市場でのポジショニングの地盤沈下なのだが、それに加えて、中小企業ゆえの人材不足が関係している可能性がある。JPCAが例年、会員企業にアンケートをとっているが、事業継承の不安を挙げる経営者が多い。技術開発や市場の動向と並び、常に経営者の頭を悩ませているのだ。後継者不足ゆえに廃業や事業撤退に追い込まれる配線板メーカーも出てくることだろう。


前を向き始めた中小配線板メーカーも

 しかし、国内の中小配線板業界は逞しい。顧客ニーズ(需要)を的確に捉えたワンストップソリューションサービスや新規事業をてこに、現在の逆境を跳ね返し、荒波を乗り越えようとする配線板メーカーも存在する。
 
 今の時代、プリント配線板だけを製造して、納期を守り納めているだけでは付加価値を認めてもらえなくなってきている。部品実装を行い、完成品まで組み立てて一括して納入するというトータルソリューションのサービスを展開する企業が増えている。

 大手では、キョウデンの取り組みだ。以前から同社は基板の試作開発を行うだけでなく、長野本社工場において部品実装からEMS事業までを手がけてきた。同社は15年5月に、東芝テックの100%子会社で基板実装やプレス、成形事業を手がける(株)テックプレシジョン(静岡県伊豆の国市)の全株式を取得している。東芝テック子会社時代からPOSレジなどの組立を得意とするが、今後は医療機器やアミューズメント機器の受注も拡大させる。電子事業における実装関連の売上高は依然1割前後とみられ、今後の伸びしろが大いに期待される。

 また、小粒ながらも積極的に事業の業容を拡大している企業がある。富士プリント工業(東京都八王子市)は、EMSなどを手がける企業を取り込み、総合力を武器に新たな成長を目指す。グループ化した双明通信機は、計測機器や制御機器のEMSビジネスのほか、防水・防滴・防塵などの耐環境エンクロージャーの筐体設計・製造を得意としている。さらに、フェイスは、半導体製造装置などの基板・電源などの受託生産を中心に行っている。こうした元気な子会社と連携して、グループ力で成長を加速させようとしているのだ。

 新規事業に積極的に取り組む企業もある。プリント配線板用ビア形成加工の相模ピーシーアイ(神奈川県相模原市)は、このほどレーザープリンターでは不可能な極小サイズの加工を実現するQRコード精密レーザー加工技術を確立した。高速読み取りが可能なマトリクス型2次元コードであるQRコードの設計~加工まで処理できる。ガラスや金属、樹脂などの様々な材質にも対応できる。

 さらに、鉄道模型の製作にも乗り出した。社員の中に鉄道愛好者がいて、HOゲージといわれるレアな車両の製作を行っている。本業でビア形成加工に不可欠なアテ板のベーク材料を有効活用する狙いもあったという。

 これら新規事業は、すぐさま経営の柱を支えるほどの規模まで拡大するとは思えないが、いつの日か、花開くこともあるだろう。小さいが、少しずつこうした取り組みが始まっている。この厳しい生存競争の中で、一歩前に進み出た配線板メーカーにエールを送りたい。

 ビジネスはよく弱肉強食の世界に例えられるが、決して規模の大きなものや腕力の強いものだけが生き残る世界ではない。いち早く顧客のニーズを掴み、環境(需要)変化に対応できたものが次の時代に生き残るのである。
 
電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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