大手調査会社のIHSマークイット テクノロジー部門は、11月30日に東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)で5G&IoTをテーマにしたセミナーを開催する。登壇アナリストに注目の講演内容を聞く第2回は、自動車とITを巡る「デジタル・トランスポーテーション」を追うアソシエイト・ディレクターの棚町悟郎氏に話を伺った。
―― デジタル・トランスポーテーションとは。
棚町 簡単に言うと、自律走行(自動運転)の実現に向けて、クルマそのものはもちろんのこと、自動車業界の構造、輸送分野までもが大きく変化していくことを意味している。
例えば、ITの進化によって、海外ではウーバーのような配車サービスが広く普及し、相乗りなどのカーシェアも一般化してきたことで、自動車メーカー、IT企業、通信をはじめとするサービス事業者の立場が以前よりもフラット化してきた。事実、ウーバーの時価総額はBMWをすでに上回っている。
―― 日本は配車サービスもまだ普及していないし、相変わらず自動車メーカーの立場が強いですね。
棚町 日本は相乗り(いわゆる白タク)などのサービスに関して規制が強く、自動車産業も自動車メーカーを頂点とするピラミッド構造が長く続いてきたことで、IT企業やサービス事業者が海外ほど優位に立てていない。これが先々「独自の市場」ひいては「ガラパゴス化」といったことにつながるかもしれないが、それが悪いことだとは思わない。現に、アップルはスマートフォン(スマホ)市場において垂直統合戦略で勝ち続けているし、日本がオリンピックをめどに商用化しようとしているロボタクシーは今後の世界市場を占う意味を持つ。
―― 完全自律走行に関する市場予測について。
棚町 当社では、完全自動運転車は35年に約2000万台の市場を形成し、このうち30%を中国が占めると予測している。この完全自動運転車のうち、約30%をハードウエア、残りの約70%をソフトウエアが構成するようになる。つまり、ハードの進化はもちろん必須だが、セキュリティー性能の継続的な向上を含め、クルマもソフトの更新で進化していく仕様になっていく。
―― 車載ソフトは複雑化の一途を辿っていると聞いています。
棚町 そのとおりだ。かつては組み込みソフトが主流だったが、現在はソフトのプラットフォーム化が進んでおり、先々はソフトがクルマを定義するようになる。AIでクルマ自身が学ぶようになり、OTA(Over the Air)で常に最新のプラットフォームに更新し、セキュリティー性の高い要素をLSI内に格納するようになるだろう。
―― スマホのビジネスモデルに似ていますね。
棚町 こうしたモデルへの移行は、自動車メーカーにもメリットがある。例えば、継続的に最新プラットフォームに更新できれば、クルマの残価を上げることができる。リース事業者などには有用で、消費者にとってもクルマを買い替えやすくなる。高級EVメーカーの中には、あえてすべてを電子化せず、ローテクを残し、ソフトのみで性能を改善して残価を維持することを設計思想に取り入れている企業もある。
―― ソフトリッチなクルマを実現するには、5G通信プラットフォームは必須でしょうか。
棚町 通信速度に起因する遅延の問題があるため、車車間や路車間通信に5Gは不可欠といえる。だが、現行の4G通信環境下でやるべきことは「サービスをどう構築するか」だ。ここの競争で業界地図や構造がどう変化するかによって、5Gが本当に必要な市場や用途がよりはっきり見えてくるだろう。
(聞き手・編集長 津村明宏)
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