商業施設新聞
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No.635

集客材料としての「本」


山田 高裕

2017/12/12

 「出版不況」という言葉が聞かれるようになって久しい。確かに出版業界の規模は、1997年をピークに販売額が減少し続けており、書店数も減少傾向が止まらない。では、世の人々はもう本を必要としなくなったのかといえば、話はそう単純ではないようだ。

 先月、東京の神保町で開催された「神田古本まつり」「神保町ブックフェスティバル」に足を運んだ。今年でそれぞれ58回目、27回目の開催となるこの催しは、「古本の街」神保町の路上に古本屋や版元が屋台を出し、そこで本を特価販売したり、様々なイベントを開催するというものだ。

人であふれかえる「神保町ブックフェスティバル」
人であふれかえる「神保町ブックフェスティバル」
 実際に来て驚いたのは、その人の多さ。文字どおり道を埋め尽くすような人だかりで、皆熱心にワゴン内の特価本を手に取り眺めていた。印象深かったのは、古本屋に日常的に通っているといった人だけではなく、若い人や家族連れの姿も多かったことだ。こういった客層が古書に触れることは、買う側・売る側にとっても新鮮な体験だろう。出版社も古本屋も斜陽産業と呼ばれてずい分経つが、本を求める需要は存在するということを、形として見せられた。

 商業施設に目を向けると、本の魅力を集客に活用している事例は多い。商業施設において、書店は古くから集客力のある業種であり、上層階テナントの常連だった。最近はブックカフェ併設型の店舗が積極的に出店しており、「体験」が重視される施設づくりで一定の役割を果たしている。

 さらに近年注目を集めているのは、商業施設内への公立図書館の設置だ。以前から公立図書館の分館が設置されるといった例は多かったが、最近はより大規模な本館が設置され、集客施設の目玉として位置づけられる事例も出てきた。2016年7月に「イオンモールつがる柏」(青森県つがる市)内で開業した「つがる市立図書館」もその一例で、モールのメーンターゲットとなるファミリーを意識した内装と、隣接カフェへ本を持ち込めるといった取り組みが効果を発揮し、地域密着型集客施設の核となっている。

 こうした例に見られるように、集客材料としての「本」に対する需要は依然として高い。従来の「町の書店」が落ち込みを見せる中、今後の書店や図書館の姿は他の施設への集客効果や、イベントとのコラボレーションなどを重視した形態になっていくのかもしれない。
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