電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第265回

世界の半導体設備投資は2018年に10兆円の大台乗せもあり


~強気のサムスン、TSMCが引っ張る展開で3nmプロセスもアナウンス~

2017/12/22

 「2017年第3四半期における世界の半導体製造装置の出荷額は、過去最高の1兆6000億円を記録した。もはやとんでもない領域に入っている。地域別では韓国、台湾、中国の順で伸びており、我が国ニッポンはそれに続いている」

 こう語るのはSEMIジャパンの幹部であり、これまでのシリコンサイクルといわれる経験則が当てはまらなくなっていることも併せて示唆しているのだ。また従来の活況と異なる点は、最先端の300mmウエハー装置が伸びているだけではなく、前の世代の200mmウエハー装置の需要も増加していることだ。こうしたケースは過去に類例がない。とりわけ200mmウエハー向け装置は全く足りない状況であり、部品がないために作れないという悲鳴も聞こえてきた。

 電子デバイス産業新聞の予想によれば、17年の世界半導体設備投資金額は前年比23%増の765億ドル規模となる見通しであった。しかしながら、半導体製造装置の世界出荷額は、これよりはるかに高い伸びを予想しており、17年通期では前年比36%増の6兆3000億円前後が予想されている。これに工場建屋、土地取得、クリーンルームその他の投資額を加えれば9兆円近い投資が実行されるわけであり、何と17年ぶりに世界最高記録を塗り替えることになるのだ。電子デバイス産業新聞編集部も、さすがにこの下期からの投資の一気急増は読み切れなかったといってよいだろう。


 「半導体設備投資はとにもかくにもメモリーがガンガンと引っ張っている。韓国のサムスンは世界全部の設備投資の4分の1を超えているという凄まじさだ。3D-NANDの積極投資が伸びた最大の要因だろう」

 深くうなずきながら訳ありの笑顔でこう語るのは、今や現役最古参の半導体アナリストの南川明氏である。南川氏によれば今後の数年についてもサムスン、SKハイニックスなどの韓国勢が大きく投資を引っ張る展開であり、一方、事業売却で揺れに揺れた東芝もNANDに関しては積極投資の姿勢を崩さないという。ここに来て共闘するウエスタンデジタルが訴訟を取り下げたことで、さらに投資加速の機運が生じるだろうと示唆するのだ。

 台湾のTSMCも最近になってサプライズな発言をし始めている。世界最高レベルの3nm半導体の量産に向けて2.2兆円を突っ込むとアナウンスしたのだ。この新工場は台南に建設され、22年の量産を見込んでいる。3nmプロセスの半導体量産が具体化しているのはTSMCだけであり、とにかく最先端で突っ走るという姿勢を明らかにしている。そしてまた、驚くべきことは3D-NANDの次といわれるEUV露光装置の本格導入も決めているのだ。

 こうした動きはこれまでのITの主力製品であるスマホ、テレビ、パソコンの動きをいくらチェックしても分からないことになる。すなわち、言うところのIoT革命が背景にあるのであり、データセンター、次世代コネクテッドカー、AI/ロボット、各種センサーモジュールが大きな需要を喚起し、さらには航空機、鉄道、ドローンなどの成長市場もまた半導体需要を後押ししている。

 「こうした展開になれば、18年の世界半導体設備投資は、どんなに少なくとも前年比10%増はいくだろう。つまりは、夢の10兆円台乗せの可能性も出てきた。製造装置メーカーや部材メーカーは既存のシナリオに乗った設備増強策では到底追いつけない。真剣にチェンジ・マインドを考える必要がある」

 こう語るのはデバイスメーカーに毎日呼び出され、「何をやっているのだ。こんなことでは全然追いつかない」と叱られまくっている大手装置メーカーの工場長である。彼によれば、この大活況はとてもうれしいことではあるが、今や全く不足している部品メーカーには深く頭を下げ、「早く入れて下さいね」と涙声で頼む自分が情けないという。一方ではデバイスメーカーに頭を下げ、「申し訳ないです。とにかくやります。投資もします」と、これまた涙声ですがる毎日が切ないというのだ。

 世界の株価は17年後半になってワールドワイドで高い伸びを示してきた。米国や日本の株価上昇が話題になるが、どっこい新興国の株価の伸びはもっとすごいものがある。この株価上昇の牽引役こそが半導体産業そのものであり、今日の世界経済を左右する重要産業にのし上がってきたことは驚き以外の何ものでもない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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