電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第278回

「日本企業の電機・精密の稼ぐ力は飛躍的に引き上がってきた」


~2018年度には何と6.2兆円の経常利益を上げ自動車追撃の勢い~

2018/3/30

 「一時期はダメ産業とまでいわれたエレクトロニクスが復活してきた。すなわち、日本企業の電機・精密の連結経常利益は2016年度に4兆円程度であったものが、2017年度には5.2兆円、2018年度には6.2兆円まで引き上がると予想される。ニッポンエレクトロニクスの復活がついに始まったのだ」

 力強く、しかし静かな口調でこう語るのは野村證券にあって「切れ者」として知られる海津政信氏である。海津氏は現在同社の金融経済研究所でシニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザーを務め、80年代~90年代~2000年代と長くエレクトロニクス業界をウオッチしてきた方であり、その優れた分析はたびたび国内外の関係者をうならせてきた。

 確かに80年代後半、半導体世界一にのしあがった日本企業はお家芸の家電にも磨きをかけ、各種OA機器においても次々と新手を繰り出し世界を圧倒した時期があった。東芝が日本語ワープロの発明者であり、かつてノートパソコンの世界チャンピオンであったことを知る人はもう少ない。そしてまた業績が低迷するNECが1990年まで6年連続で世界半導体ランキング第1位を続けていた、と語ったところで、今の若い人たちは「ウソでしょう。信じられないわ」とシャウトするばかりなのだ。

 民生を中心としたニッポンエレクトロニクスは、90年代後半から加速度的に一気凋落の憂き目を見ることになる。つまり「強いアメリカ」の半導体攻勢に屈し、パソコン、スマホ全盛の時代に手も足も出なくなり、全くといってよいほどデファクトスタンダードを取れなくなっていた。そして前門の虎であるアメリカにおびえ、後門の狼である台湾、韓国、そして中国のエレクトロニクス台頭になす術もないという状況に追い込まれていくのだ。

 筆者も海津氏と同様に、こうしたニッポンエレクトロニクスの崩壊のありさまをリアルタイムに見てきた。いや、ただ見ていただけではない。かなり深いため息をつきながら、記事をひたすら書き続けてきた。ある時は胸に込み上げるものを抑えてつらい記事を書くこともままあったのだ。

 80年代に三洋電機のアナログ半導体は世界でもトップ水準にあったが、「三洋電機、ついに事業行きづまり松下(今のパナソニック)に吸収」という記事を書いていた時には、自分は夢を見ているのかと思ったほどだ。三洋電機は初期の太陽電池の時代にあっては世界を引っ張るリーディングカンパニーであっただけに、こうした事態に至ったことに対し「実に残念至極」という気持ちを抑え切れなかった。親しくする三洋の幹部社員が退社を決め、挨拶に来られた時の一言をよく覚えている。それは次のようなものであった。

 「三洋電機の東京製作所(群馬県大泉町)の前身は日本軍の隼や零戦といった戦闘機を製造した中島飛行機であった。その伝統を持つモノづくりを誇りに思い、戦争で散っていった人たちの思いも胸に抱き、頑張ってきた。しかして武運つたなく敗れ去ることになりました。私たちはいなくなりますが、いつか日本の電機が復活することを信じて願いません。今まで本当にありがとうございました」

 涙をこらえながら別れの挨拶をする三洋幹部の人に筆者はかける言葉すら見つからなかった。しかして、バブル崩壊の90年、IT大不況の2001年、リーマンショックの2008年、東日本大震災の2011年を経過し、今日にあって、これらの苦況を乗り越え、復活の胎動を見せ始めたニッポンエレクトロニクスの姿をかの三洋幹部はどのような思いで見ているだろう。

戦闘機「隼」を作った日本の技術力は今も生きている
戦闘機「隼」を作った日本の技術力は
今も生きている
 もちろんこの復活劇のウラには、日本企業の血の滲むような激しい構造改革の波があった。家電のパナソニックは今や車載に大きくカーブを切り、自動車用のリチウムイオン電池では世界トップシェアを持つカンパニーに変身した。TV、ラジオ、オーディオ、ビデオカメラの王者であったソニーはゲーム機の世界チャンピオンとなり、人間の眼にあたる半導体であるCMOSイメージセンサーでは世界で随一の存在となった。総合電機の代表格であり家電から重電、さらには半導体まですべてをカバーしていた日立製作所もまた社会インフラ一本に事業を絞り見事に再生してきた。

 そしてまた、あのボロボロになった東芝もこの1年間でミラクルともいうべき復活ロードを歩んでいる。フラッシュメモリーという黄金武器を柱に2017年度の経常利益は5200億円以上が見込まれ、債務超過分を利益だけで一掃するという勢いなのだ。あの致命傷ともいうべきウエスチングハウス問題を乗り越えてのことであるから、このことには大変な価値があるといえよう。

 「第4次産業革命が日本企業を後押ししている。IoT時代に突入し日本企業が培ってきたセンサーの技、ロボットの力、部品の精細度などが活きてきた。日本を代表する自動車産業の2017年度における経常利益は7.2兆円となっているが、電機・精密はこれを追撃する勢いがでてきた。これは驚くべきエポックメーキングといえることだろう」(海津氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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