電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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好況下の「想定外」と「想定以上」


~18年 半導体市場の行方~

2018/5/11

 半導体市場の活況が継続している。IoTの普及拡大や自動車の電動・電装化、5Gインフラの整備といった世界的な潮流に後押しされ、活況が続くという中長期的なトレンドは変わっていない。しかし、短期で見ると、2017年のような「一本調子の右肩上がり」が続くわけではなく、一時的な要因を含めて、小さな変化が見受けられるようになってきた。目下の半導体市場における「想定外」と「想定以上」をいくつか挙げてみたい。

◇  ◇  ◇

 まず、想定外を3つ挙げる。ここで言う想定外とは半導体市場の成長率を弱める可能性があるものだ。

 1つは、米フェイスブックの個人情報不正流用問題がかなり根深い点だ。まだ最終結論が見えておらず、巨大IT企業たちは事の行方を慎重に見守っている。今後もビッグデータの活用は進み、効率化に向けてデータセンター(DC)を建設していく流れに変わりはないだろうが、フェイスブック問題の結論を見定めるためDCへの積極投資を抑制しつつある。これがNANDフラッシュやDRAMといったメモリーなどの需要を一時的に弱めることになると見ている。

 2つ目は、米中の貿易摩擦が激しさを増している点だ。米国からすると、最大の貿易赤字国である中国に米国製半導体をもっと購入させ、中国半導体メーカーの成長を遅らせたい。ただし、軍事用には使わせず、技術流出も許さない。一方で、中国はスマートフォン用アプリケーションプロセッサーなどの国産化に成功しており、これを他の半導体でも加速させ、輸入依存を小さくしたい。両国の思惑が半導体メーカーの買収戦略などにも影響しており、着地点はまだ見えない。

 3つ目は、中国の金融引き締め政策だ。これが補助金の減額、ひいてはデバイス企業の設備投資抑制につながる可能性がある。中国は道路や橋梁といったインフラにこれ以上投資できない状況にあり、代わりに自国の企業へ多額の補助を供与してきたわけだが、仮に補助金減額などが現実化すれば製造装置需要などに影響を及ぼすだろう。

◇  ◇  ◇

 次に、想定以上を3つ挙げる。当初考えていたよりも大きな需要が出ており、半導体市場のプラス要因となるものだ。

 1つは、仮想通貨のマイニングだ。ブロックチェーン技術に最先端のASICが必要とされ、マイニング用ASICはTSMCの生産能力の6%に及ぶなど、最先端プロセスのキャパシティーを想定以上に埋めている。仮想通貨ブームが長続きするかは不透明だが、ブロックチェーンは仮想通貨以外にも適用できる技術であるため、今後の期待値も高い。

 次に、パワー半導体市場の成長スピードが想定以上に上がっている。自動車、産機、FAの活況で旺盛な需要が続いており、足元ではウエハー不足によって作りたくても作りきれない状況にある。IEC(国際電気標準会議)規格の引き上げによってインバーターの搭載が必須になることが予想され、パワー半導体は今よりもっと消費されるようになるはずだ。

 最後に、少し先の話になるが、医療・ヘルスケア分野への期待値が高まってきたことが挙げられる。なかでも、スマートフォンにパーソナルヘルスケアサービスが入ってきそうな点に期待している。各種センサーによって心拍や血糖値などを常に管理し、「治療から予防へ」が日常化することで医療費の削減などにつなげていく流れが早晩訪れる。これによりスマートフォン市場が改めて活性化すると考えている。
(本稿は、南川氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology 日本調査部ディレクター 南川明、お問い合わせは(E-Mail : Akira.Minamikawa@ihsmarkit.com)まで。
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