電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第292回

東京エレクトロンの今期売上1.4兆円は東芝メモリを超えてしまう


~「IoT時代はハード回帰」を証明し、装置が主役の時代到来~

2018/7/6

 東京オリンピックの1年前にあたる1963年、大手商社の日商岩井を飛び出した気鋭の若者たちがTBSの出資により設立したカンパニーが今大暴れをしている。それが東京エレクトロンである。今や半導体製造装置業界では国内で断トツ、世界ランキングでも4位に位置する東京エレクトロンも、誕生当初は訳の分からない3~4流のベンチャーカンパニーという評価であった。

 ちなみに同社のかつての本社は赤坂のTBSと同居しており、取材に行くと脂粉ただよう女性タレントたちと一緒にエレベーターに乗り込むことになり、アイドルが来れば、ロビーではキャアキャアというファンたちの騒がしい声がいつも聞こえてきたものだ。

 さて東京エレクトロンは今日にあって、サプライズの高成長を遂げつつある。ほんの3~4年前くらいまでは4000億円程度であった売上高が2017年度に至り、前年度比41.4%増の1兆1307億円に押し上げ、経常利益も2811億円というとんでもない数字をはじき出している。さらに2018年度売上は、前年度比24%増の1兆4000億円に押し上げるという。営業利益はまた驚きであり、同30%増の3660億円を計画するのだ。

 実のところ、東京エレクトロンの今期売り上げ予想「1兆4000億円」という数字の恐ろしさを、よくよく考えてみる必要がある。この売り上げ水準は何と、ニッポン半導体を引っ張るトップメーカーの東芝メモリの2018年度計画1兆2600億円を上回ってしまう。2番手のソニーも2018年度の半導体売上は8700億円程度を予想しているため、もはやとてもではないが、東京エレクトロンには遠く及ばない。装置メーカーがデバイスメーカーを食ってしまうというミラクルが今展開され始めている。

 東京エレクトロン躍進の最大の秘密は、何といってもIoT対応のデータセンターの主要記憶媒体が3D-NANDフラッシュメモリー(これは世界トップを韓国サムスンと東芝/ウエスタンデジタル連合が争っている)になっていくことで、この製造に使われるエッチングマシン(エッチャー)が爆発的に伸びていることだ。現状の世界のデータ生成量は10ゼタバイト程度と思われるが、ここ10年間くらいの間には180ゼタバイトまでいくという予想もあるため、フラッシュメモリーは信じがたいスピードで一気拡大の展開にある。そしてまた96層、128層、さらには200層という多層化が進むため、露光機1台にエッチャーが20~30台以上になると予測されており、東京エレクトロンにはすさまじい追い風が吹いてくるわけだ。

 半導体製造装置で国内2番手をいくSCREENも2018年度は14.5%増の2600億円、3番手の日立ハイテクも同24.2%増の1685億円の売り上げを見込んでいる。半導体テスター大手のアドバンテストも1~3月期受注高は前期比1.5倍の854億円となっており、2000年以来18年ぶりの超高水準となっている。しかも同社はここ数年のうちに半導体テスター世界最大手にのし上がると明言しており、今後大型設備投資を構えてくることになるだろう。

 東京エレクトロンが巨大企業になってくることにより、ここに人材派遣しているUTグループ、さらにはメンテの一括請負をしているジャパンマテリアルの売り上げも急増しており、この2~3年で倍増することは間違いない。鹿児島で戦っているマルマエという企業は、3年前に事業再生計画を出し経営クライシスを迎えたが、ここに来て売り上げが3カ年で2倍というピッチで拡大しており、60億円までは見えているという。今や同社はリーマンショックが再び来ても大丈夫というほどの手元流動金を持っている。熊本エリアにはITプラザ協議会という組織があり、ここにはOGIC、北原ウエルテックなど数十社が加盟しているが、そのほとんどが東京エレクトロンの仕事を請け負っており、まさに空前の活況にあるという。

 先ごろ発表された東京エレクトロンの2020年度売り上げ予想は、最大1.5倍(17年度実績比)の1.7兆円まで高める超ポジティブなプランを発表している。現状で東京エレクトロンを引っ張る力はかつてのITではなく、データセンター、車載などのIoT分野であることにも注目する必要がある。


 そしてまた、この十数年間にわたってひたすら叫ばれた「イノベーションが最も重要」「ハードはどうでもよく、ソフトが世界を握る」「システムさえあれば部品/装置は何でもよい」などという考え方が、いかに戯言であるかがよく分かるだろう。IoT時代の本質は「ひたすらハードに回帰」であり、それこそ「製造装置が世界を制する」という驚異的な時代がやってくることを意味するのかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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