電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第315回

「チーム力で戦う」が信条の日本企業は社長の報酬が安い


~ゴーン問題で浮き上がる日本の平等感の凄まじさ~

2018/12/14

 とにもかくにも日本という国は、いわゆるお金持ちが全くといってよいほど尊敬されない。もっとも銀座、赤坂、青山、六本木あたりで豪遊する社用族(この言葉は死語かもしれない)に取りついているホステスのお姉さまたちにとっては、ドンペリのボトルを何本も頼んでくれる金持ちオヤジがお好みであるのは間違いない。しかしながら、一般的な日本人はノーベル賞受賞者、とても高潔な学者の方々、腰の低い商人道を貫く方、汗まみれで働く工場長などは尊敬を集めるものの、お金持ちセレブはかなり尊敬されない。

 ちなみにどういうわけか、この国では新聞記者もまた尊敬を集めることはない。とても頭に来るのは、中国やアメリカなどでは新聞記者と言えば弁護士よりも格は上であり、社会的ステータスも高いが、この国では「おい!そこのブンヤ。ウロチョロするんじゃねえ」とか言われて、さげすまれているのだ。もっとも、大新聞に勤める人格高邁な記者の皆さんの中には尊敬されている人もいます。

 このことは一体何を意味するのか。それはすなわち、日本はひたすらに世界でも稀な超平等の国、ということなのだ。中国の要人を接待した時に彼が驚いていたことは、赤ちょうちんの屋台で上場企業の社長とアルバイトの若き女性が、乾杯し、肩を組み、高歌放吟している光景であるという。それどころか、その女性たちはゲラゲラ笑いながら、社会的地位のある社長の頭を叩いて「可愛いわ」などと言っているのだから、かの中国の方はもはやのけぞってしまったのだ。それはそうだろう。どのような国に行っても、このような平等の図式が日常化している光景などは絶対に見られない。

日産のEVは世界の人気を集めている。しかし……
日産のEVは世界の人気を集めている。
しかし……
 それはともかく、今や世間を騒がせているゴーン問題を見ていると、平等感が勝つニッポンという考え方にうなってしまう。日産をV字回復させたカルロス・ゴーン氏が逮捕され、年俸20億円がもらいすぎということで、マスコミはひたすらにぶっ叩いている。ただ2017年の有価証券報告書に記載されたゴーン氏の報酬は約7億3000万円であり、裏金としての分を換算すれば年俸20億円ということなのだ。ちなみに株式時価総額22兆円という日本最強の企業、トヨタの豊田章男社長の報酬はたったの約3億8000万円であり、ホンダの社長も1億6000万円にとどまっている。

 ところがである。世界の自動車メーカーのCEOの報酬を見てみれば、ゼネラルモーターズのメアリー・バーラ氏は約25億円、フォードのジェームス・ハケット氏は約19億円となっており、今をときめくテスラのイーロン・マスク氏にいたっては約168億円というサプライズの金額になっているのだ。つまるところ、米国や欧州勢を基準にすれば、ゴーン氏の報酬は日産・ルノーのトップであれば、まあ普通じゃないのと見られる程度なのである。

 なにゆえに日本の社長の給料は安いのか。それはいつにかかって「チーム力で戦う」という経営哲学が蔓延しているからだ。スポーツの世界においても、一人一人の選手を見れば、はるかに外国勢に劣っていたとしても、一致団結した力で金メダルを取ってしまう。これが日本人をおいおいと泣かせるのだ。「社長はあんなにも安給料で頑張っているのだから、自分たちもやらなければ」という思いが、日本企業の従業員にはかなりある。ところが外国においては「社長になればあれだけバカ高い給料がとれるのだから、死に物狂いで頑張る」という社員が圧倒的に多い。

 ただ日産問題の報道を見るにつけて思うことは、カルロス・ゴーン氏が経営の舵を握った時に1兆円を割り込んでいた日産の株式時価総額は、これだけの逆風下にありながら、今現在においても4兆円を超えている。もしかしたらゴーン氏は立派な人格ではなかったかもしれないが、立派な結果は残したのだ。

 何しろ約6800億円もの莫大な赤字を抱え、倒産の危機に瀕していた日産はメーンバンクにも見放され、絶体絶命の危機であった。それを救った救世主がカルロス・ゴーン氏であり、この功績が汚い金によって全て消えてしまうとは思えない。それにしても日本的な考え方の中ではゴーン氏のやったことは浮き上がってしまう。

 何事も平等という日本の考え方は果たして時代遅れであり、ガラパゴスなのだろうか。国家予算の約3分の1を突っ込んでまで、国民皆保険を断行し、老人介護に全力を挙げる国は日本しかない、と言ってよいだろう。オバマ政権の時に米国も国民皆保険を打ち出したわけであるが、日本はこれよりはるかに先行していた。世界は保護主義が台頭し、金持ちと貧乏人がはっきりと分かれてくる格差社会に入った。しかして日本の持つ平等感に裏打ちされた「絶対多数の絶対幸福の追求」は変わることはないだろう。そして100年が経ったら日本の考え方は何と進んでいたのだろう、と驚く人たちの声が世界を覆っていくのかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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