電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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投資を抑制できる技術が重要


~5G普及加速への課題~

2019/4/5

 第5世代移動通信システム(5G)の導入スケジュールが世界各国で徐々に見えてきました。当社の調べによると、現状で南アを除くアフリカ諸国およびインドを除いた、ほぼすべての国・地域で5Gネットワークの開始あるいは準備が進んでいます。

 ラストワンマイルを5Gでカバーしようとする米国は2018年から一部で商用利用を開始し、中国も18年に一部の都市でトライアルを始め、19年にはNB-IoTなどのLPWA系を含めて大規模トライアルを行い、20年の商用化を目指しています。欧州では20年からホットスポットでの利用が本格的に始まる見通しになっています。

 スマートフォンをはじめとする端末メーカーも、5G対応端末の投入を急いでいます。当社の調べでは、LTEサービス開始初期だった10~11年には4キャリア、4機種のみが4G対応端末でしたが、5G開始初期の18~19年には20以上のキャリアから30以上の対応端末のリリースが計画されており、実質的にサービス開始2年目となる20年には5G対応端末の投入数が4G/LTE端末を上回りそうです。

 このように5Gへの期待は大変高いのですが、普及までには一定の時間を要し、25年ごろまでの時間軸で普及すると考えておく必要があります。

 その理由の1つが、現時点における4G/LTEの高い普及率です。移動体通信の規格は、その経験則から一般的に「偶数の世代は広く普及して成功するが、奇数の世代は普及に苦労する」と言われてきました。3Gはサービス開始から10年以上が経過しても全体の20%程度のシェアにとどまったのに対し、4G/LTEはサービス開始から7年程度でモバイルユーザーの50%以上にシェアが達しました。4G/LTEのユーザー数は18年時点で世界30億に上っています。

 このシェアを5Gが奪っていくには一定の時間を要すると見込まれることに加え、2つ目の理由として、キャリアの設備投資がここ4~5年は抑制傾向にあることが挙げられます。これには、ARPU(Average Revenue Per
User=1ユーザーあたりの売り上げ)が伸びていないことが深く関係しており、これに伴い、キャリアの収益も近年ほとんど伸びていません。5G向けの投資が加わってくるとはいえ、19年の設備投資も大きく増えないと見込まれます。

 そして、3つ目の理由として中国ファーウェイをめぐる動きがあります。通信基地局におけるシェアを見ると、ファーウェイは08年時点で10%未満のシェアしか持っていませんでしたが、17年に世界トップに立ち、18年第1四半期には30%となりました。18年通年では少しシェアを落としましたが、エリクソンに僅差の2位で26%を確保しており、欧州や中東、アフリカなどではシェアが4割に達するなど、依然強い影響力を持ちます。

 高いコスト競争力を持つことや、実証実験や開発に深く携わっていること、非常にアグレッシブな企業であることなどを総合すると、大きくシェアを落とすことはないのではと考えます。ただし、米国の影響を強く受ける国・地域で今後ファーウェイを使わない選択をするところが出てくる可能性もまだあります。

 このような状況下で5Gネットワークの普及に弾みをつけるためには、投資の抑制に資する技術的なブレークスルーが必要です。その筆頭格として、仮想化技術に注目しています。仮想化技術によって中継局のサーバーやルーターの数を減らし、設備投資の抑制につなげる動きが17年ごろから活発化してきました。このほか、ネットワークスライスやマッシブMIMOといった新技術を活用しながら、顧客ニーズに対応する動きがさらに出てくるとみています。

 その一例として、米アマゾンが5GのユースケースであるAR/VRや関連性の強い仮想化技術を活用したウェブ&ネットワークサービスを政府や大学、病院といったパブリックスペースに普及させようとしています。公共機関のなかにはネットワーク技術を効率的に運用・活用できていないところが少なくないとみられ、相当の潜在ニーズがありそうです。

 デバイス関連では、ミリ波帯を利用するWiGig(ワイギグ)に注目しています。まだ数は限られていますが、対応製品が徐々に増えており、IoTと並行して普及していくとみています。粘り強くデバイスや製品を開発してきた企業が、キャリアの新規ビジネスを巻き込みながら、これから成果を得られるようになっていくでしょう。
(本稿は、IHS Markit大庭光恵氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology アナリスト ジャパンリサーチ 大庭光恵、お問い合わせは(E-Mail: Mitsue.Oba@ihsmarkit.com)まで。
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