電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第336回

戦争時の疎開での「運命の出会い」が会社の基礎を作った


~群馬県高崎の成電工業の瀧澤啓社長が語る人のつながりの大切さ~

2019/5/31

 それは「運命の出会い」であった。太平洋戦争が激しくなる中で、群馬県高崎に疎開した子どもは、お兄ちゃんとも言うべき人に可愛がられていたことをよく覚えていた。知らない土地でいじめられた子どもを、体を張って守ったお兄ちゃんは心の拠り所であったのだ。それから多くの歳月が流れて、この2人は意外なところで出会うことになる。

 群馬県高崎に成電工業というカンパニーがある。制御盤・動力盤に代表されるパネル設備や、LED照明をはじめとする半導体事業をメーンにするカンパニーであり、実績と信頼に裏打ちされた技術力で、多くの評価を獲得してきている。この会社を創業したのは瀧澤弘という人であり、東京商船大学を出てタンカーや捕鯨船の船長をしていたが、高崎の実家筋が起こした会社を手伝うことになり、モノづくりの世界にのめり込むことになる。70年以上前のことである。

 当初は群馬県下仁田の名産物であるこんにゃくを製造する機械で基礎を築いた。今日にあって、こんにゃくゼリーで有名なマンナンライフも、このこんにゃく製造プロセスを今も使っている。その後、安中に東洋一の規模と言われる東邦亜鉛の精錬会社ができたことで、この亜鉛の生産設備を手がけることになる。こうした基礎を踏まえて、制御盤を作る技術が成電工業のすべてのベーシックテクノロジーとなっていくのだ。

 ようやく会社の基礎が固まりつつあった1970年代後半に創業者の瀧澤弘氏は、信越化学に営業に行った折に、思わぬ人物に出会うことになる。東京から疎開した3歳年下の子が何と信越化学の設備部長として頑張っており、まさに抱き合うようにして2人は自分たちの過去を思い、涙し、再会を喜び合った。

 そこから成電工業と信越化学との深い絆が結ばれることになる。今日にあって、ぶっちぎり世界トップの半導体シリコンウエハーメーカーである信越化学の信頼を得て、成電工業は一気に業績を伸ばしていくのだ。その幼馴染の設備部長は人望のある人であり、後には信越半導体の副社長として陣頭指揮をふるうことになり、昨年まで監査役を務めるほどの人であった。

 「創業者である父は、酒を飲むと必ずこの運命の出会いの話になった。2人が手を携えて急成長産業である半導体に貢献する技術を確立していった歴史は、何ものにも代えがたい。子どもの頃の温かい愛情というものはこんなにも長く続くのだ、と感心してしまう。現代のようなイジメ時代にはない美しさがそこにはあったのだ」

(株)成電工業 代表取締役社長 瀧澤啓氏
(株)成電工業 代表取締役社長 瀧澤啓氏
 こう語るのは、創業家の後を継いだ2代目の代表取締役社長である瀧澤啓氏である。瀧澤氏は高崎で生まれ、高校野球やサッカーの名門として知られる前橋育英高校に進み、法政大学文学部を出て父の会社に入社する。入社した時の印象は「何とまあ真面目で固い会社であることか」というものであった。しかしながら数年働いた頃には、会社の中に流れている心の温かさというものに気が付いた。それはまさに父が作った最大の遺産であったのだ。お互いがお互いを支え合う心の絆が会社を作っていく。そしてまた、それはお得意先にもつながっていく。

 「マンナンライフが経営クライシスに陥った時には、すべての取引業者が手を引いていった。しかして我が社はずっと設備の供給を続けた。マンナンライフの創業者はこのことを決して忘れていなかった。だから今日現在にあっても、創業者である会長は、製造設備はどうあっても常に成電工業に発注しろと言ってくれる。こんなにありがたいことはない」(瀧澤啓氏)

 何か小さな失敗をしただけで、SNS上でめいっぱい叩かれる。またはちょっとした発言のミスでメチャメチャに言われ続ける。おトナリの韓国においては、ネットの炎上で女優や歌手が自殺に追い込まれるという事態にまで至っている。

 「ネットで世界につながれる社会」と言われながら、実は生身の人間の絆は弱まっていると思えてならない。そうした時代にあって太平洋戦争時に出会った2人の子どもが、いつまでもどこまでもお互いを信頼し合い、会社人生を生き抜き、酒を酌み交わす有様はなんと素晴らしいことなのかと言わざるを得ない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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