電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第343回

トランプ氏は自由主義経済を守る真の騎士なのかもしれない


~米中貿易戦争の中で見え隠れするのは「社会資本主義」許さずの姿勢~

2019/7/19

 あんなにひどい男が米国大統領になるとは、夢にも思っていなかった。どこまでも品性下劣のその男のことを、一時期はかなり悪し様に書いていた。ところが、新天皇陛下即位の時の晩餐会の席上のことであるが、その男がアルコールを一滴も口にしないことを知って驚いた。それどころか煙草も一本も吸わないのだ。女性スキャンダルは相変わらずのことであるが、これもまた作られた虚像なのかもしれない、と最近では思っている。

 その男とは、世界最強の国である米国の大統領、ドナルド・トランプ氏である。女性に向かって下品な言葉を投げつけることはもとより、ツイッターでしか自分の政策を言わないこと、気に入らない幕閣は次々と更迭すること、どれをとっても歴代の大統領とは違う生き様に世界は驚いている。しかして、そのクレイジーともいわれた男、トランプ氏は世界経済の安定を守るために立ち上がった。すなわち米中貿易戦争を仕掛けたのである。

 トランプ氏の真意はどこにあるのか。もちろん膨大な貿易赤字の解消は念頭にあるだろう。そしてまた、重要な知財権をタダ取りする中国の姿勢に対する腹立ちもあるだろう。しかしながら、トランプ氏が絶対に許すことができないという本丸は、中国の国家プロジェクト「中国製造2025」である。

半導体やディスプレーの巨大工場建設ラッシュが続く中国・合肥
半導体やディスプレーの
巨大工場建設ラッシュが続く中国・合肥
 周知のように、中国政府およびそれに連なる地方政府は、太陽電池やLED照明の設備投資に膨大な補助金を出し、結果として圧倒的な世界シェアを築くに至った。太陽電池に至っては、今や世界の生産能力の80%を握っているという状況である。そしてまた、現状で3兆円を投じて15の新工場が中国において立ち上がりつつあるが、これもまた政府が90%の補助金を出し、企業そのものは10%しか負担しないというやり方で実行されていると聞く。液晶においても圧倒的なシェアを獲得し、今後台湾勢や韓国勢が苦戦していくことは間違いない。

 そしてまた中国政府は、ついにIoT革命のハードにおける最大の主役である半導体産業にも踏み込んできた。15兆円ともいわれるファンドを作り、雨あられの半導体投資を断行し、世界の半導体産業の中心に座ろうとするのであるからして、シリコンバレーを持つ米国としてはもはや黙ってはおれない。ファーウェイ制裁や重要な半導体装置の輸出禁止など、様々な中国いじめが巻き起こっており、この詳細は多くニュースに流れているから、大概の人はこれを認識しているだろう。

 これからのことであるが、この「中国製造2025」がEVの重要デバイスであるリチウムイオン電池にも展開されようとしている。一説には、中国に200のリチウムイオン電池工場が立ち上がるという風評も流れていた。ところがどっこい、リチウムイオン電池メーカーの多くは、EUエリアに工場を作ることを決めており、また米国にも多く作るという方向性が出された。はっきりと「脱中国」が始まったのだ。当たり前のことであろう。中国に工場を作り、それを米国に出せば25%関税がかかるのであるからして、そんな馬鹿なことをやる企業はいないのだ。

 こうした状況をつぶさに見た時に、トランプ氏が戦っているのは中国という国ではないことに気が付き始めた。つまりは、こうした補助金バラまきのプロジェクトを許していけば、事実上「社会資本主義」という名の経済支配が世界に広がってしまう。自由主義経済を標榜する米国、EUの多くの国々、そして日本、台湾、シンガポール、韓国などは、大げさに言えば中国の進める社会資本主義経済によって大打撃を受けることになる。「断じてそれを許さない」という姿勢がトランプ氏の表情には満ち溢れている。

 「ああ、トラちゃんは戦っているのね。お美しい姿。あのいやらしい目つきも、もう気にならない。自由主義を守る天使だわ。美しい白馬の騎士かもしれない。うっとりしちゃう」
 筆者が横浜の実家筋の蕎麦屋でとある女性と飲んでいた時に、トランプを絶賛した彼女の言葉ではある。さて、それでも中国は戦略都市ともいうべき合肥に液晶や半導体の巨大投資を断行している。もちろん習近平氏率いる中国政府は、「中国製造2025」から撤退することはあり得ないと断言している。

 トランプ氏が大統領になってからは、米国のGDPは上昇し、株価も過去最高を付けているのだから、この政権はかなり続くと見るのが適切だろう。そうなれば米中貿易戦争は3~5年以上続くわけであり、これを踏まえて考えなければ各企業の成長戦略は狂ったシナリオになってしまう、と言って良いだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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