電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第352回

「変わる勇気、止める勇気、不完全なものに賭ける勇気が必要だ」


~元ソニーセミコンダクタ(株)長崎の工場長、副島実津郎氏の語る黄金の言葉に打たれた~

2019/9/27

 「人は自分に不利なことを受け入れる能力はきわめて低い、と言えるだろう。つまりは、自己否定ほど難しいものはないのだ。そして変化したくないと思う人のどれだけ多いことか」

 とつとつと自分に言い聞かせるように語るその人は、元ソニー長崎の工場長、副島実津郎氏である。副島氏は佐賀県嬉野市の出身、ソニーLSIデザインの社長も務められた方だ。

元ソニーセミコンダクタ(株)長崎 工場長 副島実津郎氏
元ソニーセミコンダクタ(株)
長崎 工場長 副島実津郎氏
 ソニー長崎は現在にあって、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)長崎テクノロジーセンターと名前を変えているが、今も昔もソニー半導体の一大量産拠点である。ソニーは今や最大武器の画像センサーで世界一であり、2019年の国内半導体生産ランキングでは、東芝メモリを抜いて首位に躍り出る勢いであるが、長崎工場の貢献度は非常に高いのだ。

 副島氏はソニー半導体では初めての企画管理畑の出身となる工場長であった。つまりは文系の方なのだ。それだけに苦労はされた。

 「工場長になってすぐ考えたのは、自分の最大ミッションであった。まずは素直になれる勇気を持てと、自分に言い聞かせた。そして超難しい半導体のプロセス技術を1対1で部下に教えてもらった。そのうえでソニー長崎の新たなカルチャーを再醸成することが、やり遂げる最大の仕事であると気がついた」(副島氏)

 そして、5項目の方針とも言うべき言葉をノートに書きつけ、それをリーダーたる自分の指針としていった。それは次のようなものであった(下記5項目は『BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)流 経営者はこう育てる』からの引用)。

(1)強烈な意思、(2)勇気、(3)洞察力、(4)しつこさ、(5)ソフトな統率力

 このうち、特に重視したのは勇気という言葉であった。

 「止める勇気、変える勇気、不完全なものに賭ける勇気が大切だと考えて実行していった。その具体的な現れは、長崎工場の150mmのラインを鹿児島工場に移すという決断なのだ。2カ所に中途半端な設備があることは非効率であり、それぞれに生産性は上がらない。そこで150mmラインの製品は鹿児島工場に移管し、長崎工場の150mmラインは次の大きな仕事に備えるために、クローズした」(副島氏)

結果としては、長崎工場はCMOSイメージセンサーの主要な300mmプロセスを担うラインとして進化した。

 まさに止める勇気であり、変える勇気の実践と言えたが、結果的にはこの決断は大成功であった。何よりも、得意とする画像センサーであるCMOSイメージセンサーの300mmによる量産で世界最先行への道を切り開くことになっていく。

 「ソニーの技術者はみな優れている。ありたい姿を定量的に描くことに全力を挙げ、達成するまでの時間軸を明快にした。それにしても、不完全なものに賭ける勇気というのは、井深さん、盛田さんに代表されるソニーの伝統的なスピリッツの世界なのだ、と今さらながらに思えてならない」(副島氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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