電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第361回

泉谷渉の28冊目の本は『伝説 ソニーの半導体~その栄光の軌跡そして未来への構図』


~ソニーがニッポン半導体の頂点に立つ日がやってきた!!~

2019/11/29

 「ニッポン半導体にとんでもないことが起きている。これまで十数年間ダントツの首位を続けていた東芝に代わって、何とソニーが国内王座の地位につくことが濃厚になってきた。言い方を変えれば、センサーのソニーがメモリーの東芝を破ったことになる。これぞIoT時代の到来を表す象徴的な出来事と言えるだろう」

 目を見開きながらも静かにこう語るのは、世界的な半導体アナリストとして著名な南川明氏である。南川氏によれば、ソニーの半導体のポジションは1980年代では国内ランキングで10~15位程度であり、90年代から2000年代であっても定位置としては5~10位ぐらいという存在であったのだ。一時的には「プレイステーション2」向けのゲーム用システムLSIとCPUで一気に金額を押し上げ、3位にまで上がったことはある。それにしても東芝またはルネサスがトップという時代が長く続いたわけであり、ソニーが初の国内首位へ躍り出ることは、ニッポン半導体の歴史上エポックメーキングと言って間違いないだろう。

 ソニーの黄金武器とも言うべき半導体は、人の眼にあたるデバイスのCMOSイメージセンサーである。この分野は数量・金額ともにソニーが世界トップシェアを獲得し、まさに爆裂成長モードに入っている。

 ソニーの半導体は15年度段階で6551億円の売上高であったが、この3年後の18年度には何と2000億円以上上乗せし、8793億円まで上げてきた。そして、19年度については前年度比18.3%増というすさまじい伸びを示し、ついに1兆400億円を達成する見通しなのである。キオクシア(東芝メモリ)を破って、ソニーがニッポン半導体の頂点に立つ日がやって来たのだ。IoT時代にあってセンサーは中核デバイスと言われているが、それを地で行くのがソニーであると言えるだろう。

 そればかりではない。19年上期(1~6月)の世界半導体メーカー15社の売上高は約2000億ドルとなっているが、15社平均で約15%は前年比で下がっている。通期見通しで言えば、韓国サムスンはメモリー不況に見舞われ前年比マイナス30%という有様で、インテルに世界首位の座を譲ることになる。同じく韓国のSKハイニックスはもっとひどい状況で前年比マイナス40%とも言われており、台湾TSMCに世界3位の座を奪われてしまう。しかして首位を行くインテルですら、CPUが好調とは言えマイナス2%なのである。

 ところが、この世界ランキング15社中で唯一のプラス成長、しかも前年度比18.3%増という超高成長を見せたのは、ニッポンのソニーなのである。すなわち世界的にも「ソニー一人勝ち」という展開になってきた。

 さて、筆者にとって28冊目の本となるのが、『伝説 ソニーの半導体~その栄光の軌跡そして未来への構図』であり、このほどようやく発刊にこぎつけた。少し大げさに言えば、半導体記者生活40年のすべてを賭けて、この本は書き上げた。筆者の心を動かしたのが、「人のやらないことをやる」「お客様と感動を共有する」「世界の人たちが描く夢の実現」というソニーの哲学である。こうなればトランジスタラジオから始まるソニーの半導体の物語を一気通貫で書き上げ、そしてまたIoT時代の未来に対してソニーがどう考えているかを徹底的に取材し、リポートしてみたい、と思ったのだ。

 「ソニーの場合、重要なことは世界を驚かす製品のコアとなっているのが、常にオリジナルの半導体であるということだ。これゆえに先頃、物言う株主から半導体事業を分社化せよ、との要望が出されたが、ソニーの役員会はこれを拒絶した。半導体こそが付加価値を生み出す源泉であることを知っているソニーは、これからも徹底的に新たな半導体の開発に踏み込んでいくだろう」(南川明氏)。

 今回の本では、トランジスタからCCD、SRAM、マイコン、システムLSI、ゲーム機向け半導体という変遷を経て、一気集中投資で立ち上げ、世界トップシェアを取ったCMOSイメージセンサーの時代までをできるだけ分かりやすく書いてみた。そしてまた、現在のソニーの半導体量産拠点である熊本、長崎、鹿児島、大分、山形、白石蔵王の全貌を最新取材でまとめた。さらに、現状にあってソニーの半導体のトップである清水照士常務の特別インタビューも掲載させていただいた。また、有機ELの次といわれるソニーのマイクロクリスタルLEDディスプレー(世界初の量産で先行)をはじめとする未来像にまで踏み込んでみた。

 「果てしなき苦闘の向こうに希望が立っている」というソニーの半導体の始まりから、現在、そして未来をとらえた物語はこれまでに書かれたことがない。幸いにして、トランジスタやCCDなどの現場を駆け抜けて来た川名喜之氏(元ソニー中央研究所副所長)のご協力もいただき、共同執筆というかたちで作り上げたものである。読者諸氏の今後のご指導、ご批判、ご鞭撻を切に申し上げる次第である。

(『伝説 ソニーの半導体』は筆者が代表を務める産業タイムズ社から発刊された。定価は本体3,500円+税。申し込み、およびお問い合わせは TEL:03-5835-5892まで)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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