電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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どうする300mm化、勝ちきれるのか


~日本のパワー半導体~

2019/12/6

 日本の半導体業界は、いま勝てている「パワー半導体」市場で、将来にわたって勝ち切る戦略を早急に立案する必要があると考えている。いや、立案するだけでなく、できるだけ早く実行に移すべきだ。なぜなら、インフィニオンやSTマイクロといった欧州勢がSiCの量産やシリコンの300mm化を積極的に推進しており、今後は国を挙げて注力する中国勢の台頭も考えられるためだ。

 IGBTをはじめとするパワー半導体は自動車、電鉄、風力などの再生可能エネルギー、民生を含めたインバーター向けに今後も間違いなく需要が伸びる。そして、三菱電機、富士電機、東芝、ルネサス、ロームといった日本勢の技術力とシェアは高い。

 だが、海外勢の姿勢は日本勢よりも積極的だ。インフィニオンは独ドレスデンで300mm生産を拡大しており、オーストリアのフィラッハに300mm新工場を建設中。STマイクロはテスラのEVにSiCパワー半導体を量産供給し、SiCウエハーの安定調達へ長期供給契約も結んだ。

 中国勢のパワー半導体は技術力で欧州勢や日本勢とまだ差があるものの、米中貿易摩擦で300mm先端装置が調達しづらくなったこともあり、200mmで生産できるパワー半導体の国産化に躍起になっている。まずは自国の市場を取る戦略を進めるだろうが、実績が伴ってくるとキャッチアップは早いだろう。

 こうした状況に対し、日本勢の300mm化やSiC量産に対する投資スタンスは見劣りする。正しく言うと、300mm化の計画は前進しているし、投資も増やしてはいる。海外半導体メーカーの既存300mmラインを活用して独自プロセスを立ち上げようとしたり、ウエハーの仕様を検討したりといった動きが具体化しつつある。だが、その歩みは遅い。

 確かに、300mm化には多額の設備投資を要するためリスクは高いが、生産がいったん立ち上がれば、先端装置を用いるためオートメーション化によって生産効率が上がる。海外勢はここに競争力の源泉と技術の差別化を見出している。日本勢が300mm化を遅らせれば遅らせるほど、5年後、10年後には海外勢とコスト競争力に圧倒的な差が付いてしまいかねない。

 すでに日本の自動車ティア1は、海外パワー半導体メーカーに頼り始めている。増産投資を手控えてきたため生産能力に限りがある日本のパワー半導体メーカーに発注すると「数量が足らないためアロケーションになるケースが少なくなく、毎回交渉が必要」だが、欧米メーカーは「要望どおりの数量を確実に用意してくれるし、安い」という声も聴かれる。

 一方で、欧米のパワー半導体メーカーは、日本勢がいつ300mm投資に踏み切るのか、とても気にかけている。それだけ日本勢の技術力を高く評価し、脅威に感じているのだろう。

 日本のパワー半導体メーカーが検討に検討を重ねているうちに、ティア1が独自に動き始めている。ボッシュはドレスデンに300mm工場を新設し、21年末から稼働させることを決めた。もともと得意なMEMSやASICに加え、パワー半導体も量産する。現有の6インチ、8インチ工場ではSiCパワー半導体の量産を強化する。

 デンソーは、トヨタの電子部品事業を移管・統合することを受けて、300mm生産にも乗り出す構えだ。これまでは国内半導体メーカーからウエハー買いするケースが多かったが、台湾UMC傘下のユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(株)(旧三重富士通セミコンダクター)を活用して自社生産を拡大するとみられ、今後プレゼンスが高まると予想される。

 日本勢すべてが消極的というわけではない。例えば、ロームはSiCパワー半導体で世界トップ3に入っている。福岡にSiCパワー半導体の新工場を建設中で、ウエハーも自社生産している。

 SiCはウエハーの品質がまだまだシリコンには及ばず、海外勢も現在は赤字覚悟でパワー半導体の量産に踏み込んでいる。シリコンとの価格差も大きく、大きな数量は当面期待できないかもしれないが、電動車のフラグシップモデルにはSiCを搭載する流れになっていくだろう。

 2020年には日本勢からさらに前向きな計画が浮上し、実現へ向けて動き出すことを期待している。

(本稿は、杉山氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




IHS Markit Technology 主席アナリスト 杉山和弘、お問い合わせは(E-Mail: Kazuhiro.Sugiyama@ihsmarkit.com)まで。
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