電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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生産2カ月止まれば成長率半減も


~20年のエレキ市場とコロナウイルス~

2020/2/21

■コロナウイルスの影響

 新型コロナウイルスの感染拡大に、終息の気配がまだ見えない。発生源の武漢は自動車やエレクトロニクスの産業集積地であり、中国全土にわたって海外からの物資輸送に混乱が起きている。現時点では定量的な予測が難しいが、おそらく中国の1~3月期の経済成長率は大幅に減速するだろう。長期化すればするほど影響は大きくならざるを得ず、1日も早い終息を祈るばかりだ。

 当社の調査によると、世界のエレクトロニクス機器の生産額において、中国は44%を占めている。製品比率の高い品目として、ノートPCが9割、携帯電話や白物家電は7割以上、テレビが約4割などとなっている。

 現在の新型コロナウイルスの地域別の流行を考慮すると、中国で操業に影響を受ける工場(主に人海戦術を要する組立工場や後工程工場)は約3割に上ると想定しており、これをもとに推定すると、年間でエレクトロニクス生産額の13%に影響が及ぶ。仮に、これらの工場が1カ月止まれば、1.1%の生産がなくなる計算だ。

 当社は2020年のエレクトロニクス機器市場の成長率を4.5%と予測していた。つまり、前記の工場群が2カ月止まってしまうと仮定するなら、市場成長率は半減してしまう。しかし、これは製造に関する部分だけの想定であり、当然のことながら消費も低迷する。エレクトロニクス機器市場に与える影響はかなり大きくなることを覚悟せざるを得ない。

■5Gとネット配信

 一方で、新型コロナウイルスの影響を除けば、20年のエレクトロニクス機器市場には上向きの要素が多い。代表格が「5Gスマートフォン(スマホ)」と「データセンター(DC)投資」であり、新型コロナウイルス問題が顕在化する前は、半導体メーカーへの発注や部品調達の動きが明確に出ていた。これらは、新型コロナウイルス問題さえ解決すれば、20年市場の大きな牽引役になる。

 先ごろネットフリックスやマイクロソフトとの提携を発表したサムスンに見るとおり、スマホメーカーは端末とネット配信を組み合わせ、5Gを契機にコンテンツで稼ぐビジネスモデルを追求する。アップルが開始した動画配信サービス「アップルTV+」は月5ドルで利用可能。世界2億人のアップルユーザーが利用すれば、年間1.3兆円の収益拡大につながる。

 5Gサービスを開始している韓国での調査によると、5Gスマホのユーザーは4Gスマホ所有時よりも通信量が3倍多くなるという結果が出ている。ネット配信サービスを5Gで普及させるため、端末メーカーは5Gスマホの価格を積極的に下げていくとみられ、4Gスマホより5Gスマホの方が安価というケースも出てくるだろう。

 こうした流れは、テレビなどの放送業界の市場を侵食していくことになるが、半導体の消費量を考えれば、こうした流れは半導体業界にとってきわめてポジティブだ。

■エッジDCが普及する

 5Gスマホとネット配信サービスの普及によって、DC投資も間違いなく活性化する。なかでも、ユーザーの近くに小規模サーバーを設置する「エッジDC」が5Gの普及に足並みを揃えるかたちで増加する。注目すべきは、エッジDCを整備するのは、GAFAやBATと呼ばれるIT企業ではなく、テレコムやキャリアなどの通信企業だという点。GAFAらの独占を避ける意味でも、エッジDCの整備は通信企業の生命線になる。

 現在のように、GAFAやBATの大規模DCにデータをすべて上げていると遅延がどうしても避けられないが、必要なデータのみを現場で処理できるエッジDCは圧倒的に遅延が小さい。「スピードが命」という用途で相当の台数需要が今後出てくると考えられる。スピードを重視するため、SSDをはじめとするメモリーリッチな構成になることも半導体業界にとってはプラスだ。

(今回からIHS Markit社テクノロジー部門を買収したInforma Tech社の新調査ブランド「Omdia」(オムディア)にタイトルを変更しました)




Omdia 南川明、お問い合わせは(E-Mail: Akira.Minamikawa@ihsmarkit.com)まで。
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