電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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コロナ禍で見えた5Gの重要性


~「通信」はポストスマホの競争軸~

2020/4/10

 ここ1カ月での新型コロナウイルスの感染拡大を受け、当社は2020年のスマートフォン(スマホ)出荷台数の見通しを当初の13億8500万台から12億400万台へ、大きく下方修正しました。当初は中国での感染が終息すれば生産が戻り、需要回復も早いとみていましたが、その後の世界的な蔓延に伴う販売店の休業や経済・雇用情勢の悪化を鑑み、減少した需要の穴埋めは容易ではないと判断しました。

 一方で、当社は通信インフラ・ネットワーク機器市場については、当初見通しをほぼ据え置いています。半導体市場から見ると、スマホ、通信インフラ・ネットワーク機器ともに大きな比率を占める分野ですが、マイナスが避けられそうにないスマホに対し、通信インフラ・ネットワーク機器はパワフルで、投資がさらに拡大しそうです。

 背景には5Gの導入加速があります。もともと導入に積極的だった中国ですが、コロナ禍を機に投資をさらに拡大し、下期には基地局の整備にかなり力を入れる方針です。当社の調査によると、欧米で外出制限が始まって以降、通信トラフィック量が40~50%増加しています。リモートワークの本格導入や巣ごもり消費の増加が理由です。

 通信業界では当初5Gの必要性を疑問視する向きがありましたが、図らずも今回のコロナ禍でその重要性が強く認識され、終息後まで見据えると、5Gの普及が国家や産業の競争力を左右する必須条件であることが浮き彫りになりました。

 コロナの影響を大きく受けている国では、ドローンを警備に活用したり、遠隔医療としてテレヘルスを利用したり、アプリケーションが想定より早く導入され始めました。ロボティクスやIoTへの投資が加速し、情報通信技術や半導体技術の重要性がさらに強く認識されるでしょう。

 高速・大容量の5Gが実現できるのは「空間伝送」、つまり、その場にいるかのようなバーチャル空間を再現できることです。通信技術の発展で文字や写真、動画など伝送できる情報がどんどん増え、5Gでは「感触」まで伝えられるようになるでしょう。エレクトロニクス業界は、コロナ禍で「ポストスマホ市場」を先取りする競争に本格的に突入したと言っても過言ではありません。

 5Gインフラを支える通信業界では近年、「ソフトウエア」と「仮想化」が重要性を増しています。いわゆるネットワークスライシングや仮想化オーケストレーションを実現するため、x86ベースの汎用サーバーを自動化ソフトで自立制御する流れが定着しつつありますが、一方で、そこに搭載される半導体や電子部品の技術革新や進化が不可欠になっています。

 日本では、通信系の企業が半導体事業から手を引き、ソフトウエアやオーケストレーションにフォーカスするケースが数多く見られましたが、IoTやミッションクリティカルなどとユースケースが多様化し、ネットワークスライスやプログラム制御が広範囲に進行する「5G以降」を見据えたとき、今こそソフトとデバイス(ハードウエア)の接点をおろそかにすべきではありません。大規模なプログラムで自律的に動くネットワークの物理的な処理はデバイスの技術革新によって実現されるからです。日本企業はもともと光半導体技術に長けており、シリコンフォトニクスの将来性などを考えると、6Gに向けたデバイス技術の開発を今後いっそう積極化していくべきと考えます。

 コロナ禍が5G以降の通信業界に及ぼす悪影響をあえて挙げるなら、渡航制限で次世代規格の策定や標準化の議論に遅れが出る可能性があります。新型コロナウイルスの急速な感染拡大は「都市化の弊害」だといえますが、こうした社会課題の解決にこそICT技術やIoT技術が寄与します。日本がこうした政策をさらに力強く推進することを切に望みます。
(本稿は、大庭光恵氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 大庭光恵、お問い合わせは(E-Mail: Mitsue.Oba@informa.com)まで。
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