電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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PID&サイネージ市場


~コロナ禍で変わる市場~

2020/5/15

 パブリックディスプレー(PID)&デジタルサイネージ市場は、毎年高い成長を続けてきた。2019年の市場規模は前年比16%増の475万台。サイネージが約280万台、電子黒板(IWB)が約130万台、ビデオウォールが60万台強という内訳だ。

 当初は20年も成長を維持するとみていたが、新型コロナウイルスの影響で予想を下方修正し、現時点では4%減になると想定している。在庫があった関係で1~3月期は前年同期比でプラスだったが、4~6月期以降に実需へ影響が出る。主要生産拠点である中国のサプライチェーンは比較的早く立ち直ったが、欧米への感染拡大でB2Bプロジェクトの延期・縮小や投資の保留・圧縮などが相次ぐ。4~6月期は6%減、7~9月期は10%減、10~12月期は4%減と予想している。コロナ禍からの回復時期によっては、さらなる下方修正を視野に入れる必要もある。

 ただし、回復時期にもよるが、21年以降はV字回復するとみている。コロナ禍によって、社会の在り方やニーズ、サプライチェーンが大きく変わってきそうだからだ。

 まず、教育や仕事のやり方が変わる。リモートワークや通信教育ニーズの増加によって、IWBの導入が加速しそうだ。コロナ禍によって「検疫を大画面で実施したい」という具体的なニーズも出始めており、ディスプレーに赤外線の温度センサーを搭載して体温を測定するといった使い方が検討され始めた。こうしたヘルスケア用途も含め、今まで考え付かなかったような用途やインフラ需要が出つつあり、画面サイズのバラエティーも含めて用途が多様化しそうだ。

 もう1つは、ディスプレー業界の変化だ。周知のとおり、韓国メーカーがテレビ用液晶パネルから撤退し始めており、これと並行してLEDディスプレーの狭ピッチ化(高精細化)が進んでいる。価格下落が著しい液晶パネルやテレビに比べて、B2Bが中心のPIDや&サイネージ市場は、台数こそ限られるものの単価が安定しており、定期的なアップデートやメンテナンスが必要で、長期的なビジネスモデルが求められる。経営を安定化させたいパネルメーカーらにとって魅力的な市場だ。

 実際、先ごろシャープがNECディスプレイソリューションズの株式を取得して合弁会社化すると発表した。PID&サイネージ事業という点でみると、シャープは日本中心、NECはドイツと米国に拠点を持っており、互いを補完できる。シャープとしては、液晶事業の分社化に向けた足場固め、そして大型パネルや高精細8Kパネルの顧客を拡大して自社工場の稼働率向上に寄与させるのが狙いとみられる。

 LEDディスプレーはコストが高いのがネックで、まだ出荷量は多くないが、液晶よりもモジュールが軽く、ベゼルレスで継ぎ目がなく、タイリングで構成するため曲面対応が可能でメンテナンスしやすいといったメリットがあり、今後の需要増が期待できる。SMDパッケージで構成する手法と、COGで製造する手法があり、実用化で先行していた前者に対し、後者もここにきて歩留まりが向上してきた。

 マイクロLEDへの期待が高いが、ディスプレーモジュールのm²あたりの単価は、ピッチ1mm以下なら5万ドル、1mm以上で1万~2万ドル、1~2mmなら8000~1万ドルとなっており、1mm以上と未満がコストの大きな分かれ目になっている。現時点では液晶との価格差が大きすぎるため、製造技術(いわゆる装置ビジネス)で今後どこまで差を埋められるかが焦点の1つになる。

 20年の市場環境は想定より厳しくなるが、今こそコロナ後を見据えた事業と技術の戦略、商品企画が必要だ。いち早く方向性を定めたところがV字回復期の大きな波に乗ることになるだろう。
(本稿は、氷室英利氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)




Omdia 氷室英利、お問い合わせは(E-Mail: Hidetoshi.Himuro@informa.com)まで。
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