電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第387回

米国の中国ファーウェイ制裁はほとんど意味がないかもしれない


~世界の設備導入量のうち中国が占める比率は半導体で約25%もあるという事実~

2020/6/12

 米国政府は、いよいよというか、あんまりというか、中国ファーウェイに対する規制を徹底的に強化する作戦に出てきた。米国製の製造装置を使ったり、ファーウェイが設計に関与したりする半導体の同社への輸出を禁じる内容が盛り込まれたのだ。世界の5G通信基地局設備の最大手であり、スマホにおいてもサムスンに次ぐ世界2番手の存在であるファーウェイの動脈線をぶち切ってやろうという狙いなのだ。

 米国のトランプ大統領のこの強引とも言うべき措置に対して、様々な反応が出ている。新型コロナウイルスで手痛い目にあった英国は、米国に同調し、今後ファーウェイを使わないという方向性を打ち出した。また、半導体ファンドリーの世界最大手である台湾TSMCは、ファーウェイからの新規受注を止めてしまった。TSMCからの基幹半導体の供給が絶たれれば、ファーウェイはもうどうにもならない状況までいくとの見通しが出てきた。そしてまた一方で、トランプ氏の中国叩きは政治利用だ、という声も多く、WHO脱退意向に対してEUははっきりと批判的であり、再考を求めると言っている。

 ところがどっこい、中国企業はまことにしたたかである。この取引規制に対抗するべく、ファーウェイはすでにザイリンクス、AMD、インテルなどの米国の有力半導体メーカーの先端品の在庫を最大2年分まで確保してしまった。これは重要なことであり、この確保した分以外の半導体は、ファーウェイの傘下にある半導体企業であるハイシリコンが十分に作れるのだ。これなら全く困らないで、ファーウェイは相変わらずの拡大を続けることができる。

 またもう少しレベルの低い半導体については、中国の半導体ファンドリー最大手であるSMICをフル活用する考えであり、中国政府が約2400億円の出資を行うことでSMICは一気に増産体制を整える。そしてまた、これも重要なことであるが、ファーウェイにキーデバイスを供給する日本企業の半導体は規制の対象外となる見込みであり、ファーウェイは継続して取引を行うことができる。コアデバイスであるCMOSイメージセンサーを手がけるソニー、NANDフラッシュメモリー大手のキオクシア(旧・東芝メモリー)は、ファーウェイ向けの出荷を増やすことはあっても、減らすことはないということになる。

 「中国に対して最先端の半導体製造装置は渡さない、というトランプ大統領の方針は、果たして貫徹できるだろうか。世界の設備導入量のうち、中国が占める比率は半導体では約25%もある。20年の実施が予定される中国の半導体とFPD工場の新設・拡張案件は二十数カ所にも及ぶ。装置メーカーや材料メーカーにとって、中国は巨大なるお得意様なのだ。そして中国の投資意欲は依然旺盛であり、全く衰えない」

上海支局長の黒政典善
上海支局長の黒政典善
 電子デバイス産業新聞で中国報道に邁進する上海支局長の黒政典善の見方である。黒政支局長によれば、日本から中国への半導体装置の輸出額は9000億円を超え、日本の装置メーカー全体の輸出の約3分の1を支えている。また日本からは年間に数百人の技術者が製造装置の立ち上げ作業のため、中国に赴いている。米国がいかに反中のアドバルーンを打ち上げようと、半導体における日中関係はもはや切っても切れない関係にある、と強調するのだ。

 ただ、新型コロナウイルスの影響で、製造装置メーカーの中国派遣は7月以降になってしまう。どんなに早くても7~9月の立ち上げ再開となるため、製造装置メーカーの今後の業績にも大きく影響することになり、なおかつ世界のエレクトロニクスに与える負のインパクトも馬鹿にならない。韓国や台湾などでは、日本からエンジニアが来なくても装置を立ち上げられるが、中国では最先端のエンジニアが育っていないため、どうしても日本人を含めて外国人のハイエンドエンジニアが必要になる。とにかく中国は自前では立ち上げられないのだ。

 米トランプ大統領は、毎日のように絶叫し、ひたすら新型コロナウイルスについては「中国の情報の隠蔽により世界に拡散した」と非難の声を強めている。ただこの裏には、民主党のバイデン氏が11月の大統領選では有利に戦うとの憶測があり、要するに「焦っている」のである。これが必ずしも世界の世論と同調しない部分も多い。

 さらに言えば、トランプ氏が怒りの手を振り上げれば振り上げるほど、中国は強くなる。そしてまた、米国が頼れないのであれば、中国の日本依存は増すばかりなのだ。この行く末の先に何が待っているのか。それは実のところ、誰にも分からないだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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