電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第390回

中国政府がハイブリッド車を低燃費車と認定、ホンダは大歓迎でFIT強化


~三菱電機、東芝マテリアルなどエコカー向けデバイスは積極投資スタート~

2020/7/3

 「私はねえ、ホンダが大好きなのよ。特にFITは本当に体にフィットする心地良さがあるのよ。4代目の新型は特に素晴らしいわ。パワートレイン2モーターならではのたくましい加速と滑らかな走りが魅力だし、ハイブリッドシステム『e:HEV』がこれまた魅力なんです」

 これは筆者が親しくするアナリストの女性が、一緒に九州自動車ショーを見に行った時にため息をついて言った言葉である。この人はかなり鋭い分析をすることで知られており、頭もよい人であるが、舌足らずのしゃべり方はお水系で、とてもいただけない。そしてまた、ホンダ車を褒めちぎるには何か訳ありとみている。きっと自分で乗るのではなく、ホンダの新型FITを持っている男に乗せてもらうからだろう。

ホンダのFITはここに来て人気を盛り返している
ホンダのFITはここに来て人気を盛り返している
 それはともかく、ホンダのFITは乗用車のブランド別順位において長らく10位以内に名を連ねることはなく、人気は低迷していた。しかして2020年2月に4代目となる新型FITが発売されると一気に人気を回復し、現状で3位以内をキープするという勢いを見せているのだ。

 そしてまた、ホンダはこうした電動車の生産革新を画期的に進めていく考えだ。すなわち電気自動車と燃料電池車を同時に組み立てられる設備を、主力の埼玉県寄居工場に2020年中にも導入する考えなのだ。FITでは実績のあるホンダであるが、EVへの対応は後手に回っており、この新たな生産ラインで電動車の巻き返しを図る考えだ。

 そのホンダがもう1つ小躍りする情報が6月中旬にもたらされた。それは中国政府がハイブリッド車を低燃費車と位置づけて、優遇する政策を確定したことである。これまでホンダ、トヨタ、日産をはじめとする日本勢が最も得意とするハイブリッド車については、ガソリン車と同じ扱いをし、中国政府は環境車と認めなかった。しかして中国における電気自動車の販売は、実際のところえらく低迷している。とても予定どおりにEVが立ち上がるという状況には全くない中国において、補助金ばかりではどうにもならない。そこで苦肉の策としてハイブリッド車をエコカー認定するというかたちになった。

 ホンダの世界販売における中国市場の割合は2019年度で30%にも達している。そしてハイブリッド車の販売比率においても中国は9%もあり、北米(3%)よりもはるかに高いのだ。それだけにホンダとしては、この新たな中国政府の政策を万歳三唱して見守っているのだといえよう。

 それはさておき、現状の世界における自動車生産はズタズタどころかメタメタといってよい状況だ。トヨタ自動車など乗用車メーカー大手8社がまとめた2020年4月の世界生産は驚くなかれ、前年同月比60.5%減の91万6255台と大幅に落ち込んだ。いうまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大によって2月以降、中国、欧州、北米、日本と連続して工場の稼働停止が世界各地に広がったためだ。リーマン・ショック以降で最も減少幅が大きかった09年2月の42.8%減よりも大きく落ち込んでいるのであり、これはもはや、まともとは言えない水準になっている。

 しかしながら、こうした状況の中でも、次世代エコカーに対してのデバイス分野における設備投資は止まっていない。パワー半導体の代表格であるIGBTの世界チャンピオンである三菱電機は先頃、広島県福山市のシャープ半導体工場の一部を取得した。投資額は今後の設備導入費も含めて200億円であり、生産能力は全体で現状比2倍に拡大する考えだ。新たに取得した新工場は延べ床面積が4万6500m²の3階建てであり、ウエハープロセスを備えている。これで三菱電機は福岡、熊本に次ぐ第3拠点を稼働させたことになるわけであり、次世代エコカーに必須といわれるパワーデバイスの大量産を進めることになるだろう。

 一方、東芝マテリアルはハイブリッド車の心臓部分となるパワーコントロールユニットに搭載される絶縁回路基板の一気増強を図ることを決めた。具体的には、ジャパンセミコンダクター大分事業所内に100億円を投じてSiN基板の量産拠点を構築するというのだ。

 コロナ禍にあえいでいる自動車業界ではあるが、水面下におけるこうした車載向けデバイスの積極投資の動きを見ていれば、やはり今回の新型コロナ・ショックは一気に終息し、リベンジ消費が巻き起こると読んでいる企業が多いということを意味するのだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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