電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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IoTにおける新型コロナの功罪


~センシング技術が医療市場を拓く~

2020/7/3

 新型コロナウイルスの感染拡大は、IoT市場の拡大にも「光」と「影」を投げかけている。現時点ではマイナスのインパクトが大きく、市場には減速感が強いが、「非接触」を実現できるIoTが感染拡大の終息に果たす役割は今後さらに大きくなっていくと考えられ、2021年以降は反動増が期待できる。

 まず「影」の部分としては、IoTの主力用途である産業分野の設備投資にブレーキがかかったことが大きい。19年までは自動化や監視といったFA・産業用途が生産効率の向上に有効と認識され、投資の牽引役になったが、新型コロナで自動車産業が大打撃を受け、不要不急の投資先送りはもちろんのこと、生産性向上への投資にも資金が回らなくなった。

 もともとセルラー系IoT市場では19年から通信モジュールの在庫が過剰気味で、Sunseaやu-blox、Telitといったモジュールメーカーは決して好調ではなかった。そこに新型コロナで5Gインフラの導入遅延や産業用の需要減が重なった状況にある。LPWAやNB-IoTも総じて同様だ。

 定性的に予測するのは難しいが、当社は現時点で20年のセルラーIoTモジュール市場は金額ベースで前年比10~15%のマイナスになるとみている。

 ただし、新型コロナが光を当てた「非接触」や「遠隔」といったキーワードはIoTでこそ実現できる技術であり、終息に向けて今後爆発的に普及し、世界で受け入れられていく可能性が高い。すでに、ドローンやAGVで消毒液を散布する用途や検温の自動化、ロボット警備による省人化など、「ウイルス対策」を柱としたIoTの活用・普及が始まっている。

 コンシューマーIoTの進化や拡大にも大きな期待が持てる。たとえば、Fitbitに代表されるリストバンド(ウエアラブル機器)は今まで「活動量計」の域を出ず、個人のフィットネス用の位置づけが濃かった。

 だが、新型コロナによって検温することが日常生活の一部になると、検温機能や血中酸素濃度の測定機能がリストバンドやスマートウオッチに搭載され、ブルートゥースなどの無線技術を通じてスマートフォンと連動し、個人の健康管理に限らず、感染を早期発見するビッグデータの一部として活用できる。日本では下水から新型コロナウイルスを検知・追跡する取り組みがあるが、これもIoT技術なしでは実現できないものだ。

 このように、ウエアラブル機器がフィットネスだけではなく、「医療」にまで活用できるようになると、「活動量計」ではなく「健康器具」へ進化する。バイオメトリクス機能の実装が今後のトレンドの1つになると考えられ、業界内ではアップルがアップルウオッチにこうした機能の実装を検討しているのではと噂されている。

 米国政府は、遠隔医療の実現に2億ドルを投資することを決定した。これに伴う企業の売上増は、現時点ではまだまだ限定的。医療分野におけるIoTの活用はもともと期待が高かったが、これまでは「数量が出ない」「開発費が高額」「精度に問題がある」などといわれ本格化してこなかった。しかし、新型コロナが普及の好機になることは間違いないだろう。

 前に挙げた課題のうち、最も重要なのは「精度」である。体温にしろ、心拍数にしろ、血中酸素濃度にしろ、ウイルスの検出数にしろ、測定したデータがどれほど正確かが、その後のデータの活用法を左右する。「センシング技術がどれだけ正確なのか」が、これに紐づくIoT通信技術の利用拡大に大きく影響するはずで、精度の向上、つまりセンシングデバイスの高性能化・性能向上に大きなビジネスチャンスが眠っているはずだ。

 19年12月には、アップル、アマゾン、グーグルおよびZigBeeアライアンスが様々なIoTの接続互換性を確保する標準化プロジェクト「Connected Home over IP」で連携すると発表しており、IoT技術の普及・拡大に影響を及ぼすとみて注目している。
(本稿は、前納秀樹氏へのインタビューをもとに編集長 津村明宏が構成した)



Omdia 前納秀樹、お問い合わせは(E-Mail: HIDEKI.MAENO@omdia.com)まで。
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