電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞・情報紙誌のご案内出版物のご案内広告掲載のご案内セミナー/イベントのご案内
第397回

ついに国内通信ガリバーのNTTが目を覚ました


~5Gから6G高速で世界制覇狙い、トヨタとも資本提携~

2020/8/28

 「まったく、お前のような頭の悪い記者には会ったことがない。最先端半導体の取材をするならば、NECや東芝、日立などに会っても全く意味がない。よく覚えておけ。世界最先端の通信チップとメモリーを作れるのは電電公社(現在のNTT)だけなのだ。顔を洗って出直してこい」

 今を去ること三十数年前、まだ駆け出しであった自分がNTTの幹部に激しく叱責された時の言葉である。半導体の開発で有名であったNTTの武蔵野通研は、まさに最先端チップの牙城と言われており、IBMもインテルも、そしてまた当時世界一であったNECも決してかなわないという伝説があった。いわゆる電電ファミリーを形成しており、NTTが開発したデバイスは直ちにNEC、富士通、沖電気などに移植され、それがニッポン半導体が80年代後半に世界一になる理由の1つであったのだ。

 そのNTTがここに来て、もう一度熱い炎をその口から吐き出し始めた。すなわち、得意とする光通信技術を駆使して、2030年を目標にこれまでの約100倍の伝送容量の通信ネットワークの実用化を目指している。その一環として、旧電電ファミリーのトップ企業であったNECに645億円という巨額を出資することになったのだ。

 確かに、次世代通信規格5Gの商用サービスについて、日本は大きく出遅れた。4Gの基地局は66万局あるものの、5Gの基地局は3年後の状況にあっても7万局にとどまるという有り様なのだ。しかして、ここに来て、通信各社は一気の巻き返しを図っている。NTTドコモ、KDDIなど通信4社は24年度までに合計で少なくとも1兆6000億円の5G投資を計画する。もちろん、基地局の整備は前倒しとなり、少なくとも60万局には持っていくだろう。

 ちなみにNTTの半導体技術は、現状にあっても通信ネットワークの分野で最先端レベルにある。先ごろ、800GHzのスイッチング性能を持つ世界最高速のトランジスタの開発に成功している。インジウムリン系の化合物半導体の結晶成長技術と、ヘテロ接合バイポーラトランジスタの製造技術を活用し、AI、IoT、テレワークなどで膨大に増えると言われるデータ通信の光・無線通信システムの大容量化を図れることになる。

 この開発と一部量産を担当する子会社のNTTエレクトロニクスの今後の動きには、大きな注意を払う必要があるだろう。そしてまた先ごろ、南米とアジア・オセアニアを結ぶ初の光海底ケーブルについて計画を進めるチリ政府は、日本の提案ルートを採用した。光通信の海底ケーブルはNTTの得意技であり、これまたNECなど日本企業の大量受注の可能性が高まった。何しろ光ファイバーは10Gという超高速レベルであり、今流行りの5Gの比ではない。日本の技術は本当のところ10Gまでいけるものを確立している。その先頭に立つのがNTTなのである。

 そしてさらに、NTTは世界最大の自動車メーカーであるトヨタと業務資本提携で合意した。政府が進めるインテリジェントシティに対応する新たなスマートシティビジネスの事業化を両社共同で進めることになる。まずは静岡県裾野市富士エリア、東京都港区品川エリアに両社の理想とするスマートシティを構築する。約2000億円を相互に出資するというプロジェクトだ。コネクテッドカーを走らせ、あらゆるところにミニタイプのサーバーが置かれ、街全体がIoT化されるというスタイルを確立していく。

 通信ネットワークの分野に詳しいアナリストであるオムディア(Omdia)の大庭光恵氏は、きっぱりとした口調でこの動きに対し、こう言い切る。

オムディア アナリスト 大庭光恵氏
オムディア アナリスト 大庭光恵氏
 「このNTTとトヨタが構築するインテリジェントタイプのスマートシティの最大の狙いは、言うところのGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)が支配するネットの世界を、もう一度日本国内に取り戻したいということにあります。そして、NTTとトヨタの作り上げるスマートシティを世界におけるデファクトスタンダードとして展開していくという壮大な夢が、ここには込められているのです」

(「企業100年計画」ニュースより転載)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索