電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第401回

打たれても打たれてもゾンビのようによみがえるニッポン


~『日本半導体産業 激動の21年史』の執筆で国内企業の闘魂を描いてみた~

2020/9/25

 「かの太平洋戦争で日本の戦死者は300万人に及んだ。東京、大阪、名古屋など主要都市はすべて焼野原となった。全面降伏をしたわけだから、ニッポンはもはや国家の体を成していない。ここから這い上がるのは、並大抵のことではない。まずもって日本国家は二度と浮き上がることはない、と思っていた」

 これはある日ある時、台湾の新竹に出かけて、TSMCやUMCなど台頭著しい半導体ファンドリー企業の取材をした折、台湾の政府高官の人たちと飲んだ時に言われた言葉である。周知のように、台湾は超親日であり、戦前において社会インフラをすべて整備してくれた日本という国に対し、感謝の念を持っている。いまだに口汚く日本をののしる韓国とは大違いなのである。

 こうした会話の折に、筆者は少しの反論を試みてみた。真珠湾攻撃で米国の連合艦隊のほとんどを壊滅に追い込んだにも関わらず、その後敗走を重ねていった日本は、ちょっとダラシナイと思えるでしょう、みたいなことを言ってみたのだ。そしてまた、今日にあって日本人は皆、おとなしくなっちゃってえ~、はっきり自分の意見も言わないし、アバウトで曖昧で、なんだかひ弱に見えるじゃないですか、とも言ってみた。これを聞いた台湾政府の高官の1人は、机を強くぶっ叩いて、筆者に向かってこう叫んだのだ。

 「それではあなたに質問したい。この100年間の間に中国と戦争した国はどこだ。ソ連と戦争した国はどこだ。そしてまたあろうことか、米国をコアとする連合軍と戦争した国はどこだ。世界3大大国と戦った日本が、そんなにおとなしい国民性であるわけがないだろう」

 筆者はえらく恐縮したが、心の中でこの人の言うことは当たっているな、と思った。それからしばらくして、今度は米国大使館の商務官の人と親しくなって、銀座で酒を飲んでいた。その折に恐る恐る、やはり日本はひ弱ですね、という自説をその人にぶつけてみた。そしたら、やわらその人は立ち上がって、筆者に向かってこう怒鳴ったのだ。

 「太平洋戦争であれだけの被害を被り、それでも戦後ニッポンは信じられない高度成長で這い上がってきた。自動車産業が台頭してきた折に、米国は様々な規制でこれを牽制し、一時は弱体化することに成功した。それでも今日にあって、日本の自動車産業が持っている世界シェアは40%以上であり、米国は20%を切ろうとしている。打たれても打たれても、ゾンビのようによみがえってくる。我が国アメリカは、日本という国をそう捉えている」。

 こうした日本に対する見方については、筆者はすくんでしまうと同時に、ある種の誇りを感じてしまう。もうダメか!、というところから、一気逆転する美学はかのプロレスラー、アントニオ猪木の卍固めに見られるように、日本人を興奮させてきた。苦闘の中で勝機を見つけて一瞬の隙をついて攻撃に転じる。思えば、我が国ニッポンは、そうした逆転劇をビジネスの世界においても、スポーツの世界においても、世界の人たちに見せつけてきたのだ。

 それはともかく、筆者はこのほど『日本半導体産業 激動の21年史』の上巻を執筆し、発刊する運びとなった。共同執筆者は、朝日新聞元論説委員の伊中義明氏である。実のことを言えば、彼は中学、高校を通じての親友なのであり、朝日新聞では政治分野を担当していた。

 同書は、2000~2010年までの11年間に及ぶ国内半導体の動きをデバイス、装置、材料の各方面から捉えた歴史書であり、この間を生き抜いた業界の人たちの証言集ともなるものである。史上空前のITバブルで湧き返った2000年に、世界半導体市場は実に前年比約40%増という驚きの伸びを示し、2000億ドルの大台に乗せた。この年は、半導体設備投資という点で見れば、日本企業も10年ぶりとなる世界一の水準である1兆6000億円を投入していた。しかして、その後のニッポン半導体は、垂直統合型のビジネスモデルを捨てきれずに、主戦場のシステムLSIで敗戦を重ねていく。08年にはリーマンショックに直撃され、いわば「日本ひとり負け」の様相を呈していくのだ。

 そうした状況下にあっても、ソニーはCMOSイメージセンサーで世界トップシェアを獲得していく。また、東芝のNANDフラッシュメモリーは、米国企業との連合軍を組み、強敵サムスンと一騎打ちという展開になっていく。お家芸ともいうべきパワー半導体については、日本企業全体で世界における首位の地位を固めていく。

 そしてまた、国内半導体製造装置は、大善戦を繰り広げていく。10年には日本製装置は倍増の1.2兆円で大飛躍を遂げ、米国に比肩する存在にのし上がっていくのである。半導体の3大材料であるウエハー、レジスト、マスクの分野においては、日本勢の強さはひときわ際立っていく。この3分野において、すべて世界トップシェアを持ち、独走体制を固めていくのだ。

 今回の『日本半導体産業 激動の21年史』を執筆するなかで、キーワードを見つけるとすれば、やはり「打たれても打たれても這い上がってくるニッポン」ということなのである。電子デバイス産業新聞の好評連載を書籍としてまとめたわけであり、国内で活躍する半導体企業の人たちには必読の書になるものとひそかに期待している。定価は本体4600円+税、問い合わせ・申し込みは産業タイムズ社・販売部(Tel.03-5835-5892)まで。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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