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日本医師会の中川俊男会長、東京都内で新型コロナ対策の講演(下)


医療界挙げてコロナ病床を増床、五輪時の外国人入院受け入れは厳しい

2021/2/16

熱く語る中川俊男会長
熱く語る中川俊男会長
 (公社)日本医師会の中川俊男会長は、東京都内の内外情勢調査会で、「最近の医療情勢とその課題~新型コロナウイルス感染症対策に向けて~」と題して1月22日に講演した。講演後半には、医療界を挙げて新型コロナ対応病床を増やす方針、民間病院が新型コロナ感染者の受け入れ困難な事情、東京五輪での訪日外国人の入院を受け入れる余裕がない厳しい逼迫状況について話した。


◆医療従事者の献身的努力で日本の死者数少ない

 講演後半に同氏は、「日本は人口当たりの病床数が諸外国と比べて多いにもかかわらず、なぜ新型コロナで医療崩壊が進んでいるのか、努力が足りないのではないかと言われたことに対し、全国の医療関係者は深く傷ついた。指摘は正しくない」と切り出した。「諸外国は、少ない病床数で新型コロナに対応しているという見方については、欧米(G7)の医療現場はすでにトリアージ(手当の緊急度に従って優先順をつけること)や、医療崩壊が現実化しており、死者も多数出ている。例えば、人口100万人当たりの死亡者数は、米英仏伊が1000人以上、それに対し日本は30人で、日本の死者数はきわめて少ない。これは日本の医療従事者の献身的な努力のおかげで、これまで瀬戸際で医療崩壊を防いできたといえる。とはいえ、医療現場は疲弊しており、感染者数がこのまま(1月のように)増えれば、トリアージが現実のものとなり、助かる命に優先順位をつけなければならなくなる。命を救えなくなることはなんとしても避けたい」と語った。

 また、「急性期に加えて、慢性期や回復期リハビリ病床、老人保健施設、介護福祉施設まで含めた病床数では日本は突出して病床数が多いわけではない。最多はドイツ、日本は2番目に多い。慢性期に限るとドイツ、フランスの方が多い。よって日本の病床数が多いにもかかわらず、努力が足りないとの指摘は正しくない」と論じた。

◆民間病院は中小多くコロナ患者受け入れは困難

 日本での新型コロナ患者受け入れ率は、公立病院69%、公的病院79%、民間病院18%で、民間病院の比率が低いことが指摘されている。これについて、「民間は中小規模の病院が多く、高度急性期病床を多く展開できないことが理由として挙げられる。新型コロナに関する専門知識と訓練を積んだ医師や看護師の手当てができず、加えて病棟が少ないため動線分離(ゾーニング:感染病棟と他病棟の分離)も現実的に困難であることが、民間病院での受け入れが進んでいない理由である。また、コロナ受け入れ病院でも、そこで働く医療従事者への風評被害と差別で苦しめられるため、コロナ患者受け入れに二の足を踏む中小民間病院も多い。コロナに対処する医療従事者への差別と偏見を取り除く必要がある」とした。

◆今は有事、医療界挙げてコロナ病床増床を

 さらに1月中旬に菅首相と官邸で、医療関係問題について意見交換したことについて「東日本大震災の時に医療界は、災害医療に全身全霊で取り組んだ。今は再び有事である。病院の公民問わず、究極の臨戦態勢をとる。日本医師会は、1月20日にコロナ患者受け入れ病床確保対策会議を立ち上げた。そこには日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、全国自治体病院協議会も参加する。医療界を挙げて、コロナ対応病床を1床でも多く増やすためにはどうしたらよいか、病床確保に向けた具体的な方策を、スピード感を持って議論していく。例えば中小規模の病院には、コロナから回復した患者の受け入れ機能を拡充できないか、コロナ病床を増やした病院の通常医療機能を、中小病院に代替できないかを協議し、検討したい。可能な医療機関は躊躇なく同患者を受け入れるため、有事の医療提供体制構築に努める。すでに全国の医師会から、多くの開業医が現場に派遣されている。対応可能なすべての開業医にこれまで以上の支援を要請すると首相に伝えた」と話した。コロナ以外の医療提供はかかりつけ医が大事である。中小病院、診療所を含めた全医療機関が、地域を面で覆って支え、新型コロナ感染症に向き合っている。

◆ワクチン接種は希望の光

 ワクチン接種については「日本では2月末から、ファイザー製のワクチン接種が始まる。ワクチン接種は、感染症予防の希望の光となっている。まずは1万人の医療従事者(国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)、労災病院)、次にそれ以外の医療関係者、ハイリスクな高齢者と順番に接種すると発表されている。米国など、ワクチン接種が思ったほどうまく進まない国の例もあり、日本医師会は、全国都道府県の医師会、地域医師会とともに、行政と連携し、円滑なワクチン接種の仕組みを検討して準備をしている」とした。

 また学校については「文部科学省によると、学生の新型コロナへの感染率で学校内での感染は13%(小学校6%、中学校11%、高等学校28%)で限定的、家庭内での感染が55%で最も多い。20年春の一斉休校時には、保育園・幼稚園のシフト勤務が困難になり、医療従事者にも悪影響が及んだ。それをも踏まえて、今は一斉休校は必要ない(変異株は除く)」と判断している。

 コロナ特別措置法・感染症法改正についても触れ、「医療機関への政府からの協力要請が勧告に変わり、従わないと病院名が公表されるとの法律に変わるとされ、大変な衝撃を受けた。田村厚生労働大臣に真意を確認したところ、正当な理由なく勧告に従わない場合を想定した立法で、正当な理由というのは、医療審議会や地域医療対策協議会など、地域の実情を知っている会議が判断するとのことがわかった。血の通った仕組みであることが確認できたことで、納得できてほっとした。色々なことが矢継ぎ早に、しかも急速に進んでいる。日本医師会は先頭に立って難局を乗り越えたい」と締めくくった。

◆五輪時に外国人感染者の入院受け入れ余裕なし

 講演後の質疑応答では、今夏の東京五輪・パラリンピックのために来日した外国人が新型コロナウイルスに感染した場合の対応について「外国からたくさんの人々が訪れ、選手団だけでも大変な数だ。新たな患者が発生したら、今の日本の医療状況で受け入れ可能かと問われれば、可能ではない」と述べ、外国人への医療提供は困難との見方を示した。一方、「ワクチンが劇的に機能したとか、特効薬が急に出てきたとか、そのような神がかり的な出来事があれば別だ」とも付け加えた。

(笹倉聖一記者)
(この稿終り)

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