電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第43回

北九州市に集結した400人は「ニッポン半導体復活」を願う!!


~LSIとシステムのワークショップ2013での講演は充実~

2013/5/24

 「iPhone、iPadなどの登場で仮想空間アプリはほとんどカバーされた。しかし、実空間アプリはいまだ発展中だ。自動車にはマイコン、センサーが多く搭載されており、スマートハウス、スマートヘルスなどにも多くの半導体やセンサーが使われていくだろう。2011年に日本で販売されたセンサー数は47億個であり、世界全体では実に170億個に達しているのだ」

 北九州で開催された「LSIとシステムのワークショップ2013」の講演で東京大学の桜井貴康教授が冒頭に語った言葉である。桜井教授は東芝半導体の出身であり、最近では低消費電力を追求する半導体技術の開発で有名な方である。今後の世界は巨大なデータの蓄積と使いまわしにより電力不足が懸念されている。キーワードはやはり半導体の超低消費電力化であり、各ハードの超小型化なのだ。微細化しただけでは、もはやパワー問題は解決できず、デバイスそのものに突っ込まない限り本格的な対応はできない、と桜井氏は強調する。

 これに先だち講演に立った、九州大学副学長の安浦寛人氏もまた「ビッグデータ時代の到来にどう対応するのか」という問題提起を行った。何しろ、過去3年で生成されたデータは、その前の4万年で生成されたデータより多いのだ。データクラッシュの時代が来ている、といってよい。また、それらのデータのほとんどに位置情報が含まれている。政府や自治体は持っているデータの公開が必然となっており、いわばオープンデータの世界に突入したのだ。安浦氏はこのビッグデータ時代に求められる基本技術は何といってもセンサー、ネットワーク、データから情報への変換技術、データ蓄積技術であると指摘しており、その基礎技術はやはり半導体が開拓しなければならない、と強調した。

 このワークショップ(2013年5月13日~15日:北九州国際会議場)は、電子情報通信学会の集積回路研究専門委員会が主催するものであるが、今年のテーマは「日本半導体産業の新展開に向けて」であり、特に将来を担う企業の若手や学生の人たちに大きな活力を与えるために企画されたという。

 「例年のワークショップは200人程度の参加で推移していたが、何と今回は倍増の400人が集結した。やはり、日本の半導体産業がかつての勢いを失っており、この危機感が参加者の増大を生んだのだと思う」

LSIとシステムのワークショップ2013 実行委員長の吉本雅彦氏
LSIとシステムのワークショップ2013
実行委員長の吉本雅彦氏
 こう語るのはワークショップの実行委員長である神戸大学教授の吉本雅彦氏である。吉本氏によれば、従来の技術講演に加え、日本半導体産業の課題、半導体研究開発戦略、他国の戦略、他業種の戦略といった経営的視点に立った企画講演を多く用意したことも動員増につながっているのだという。「それに論客も揃っているから、特にパネルディスカッションは面白いよ」と笑いながら言っておられた。筆者もその論客の一人として出席させていただいたが、この報告は近く半導体産業新聞本紙に掲載されることになっている。

 若い人の参加も多く、会場は静かだが不思議な熱気があった。国立大学の多くの先生が「泉谷クン、最近の半導体を学ぶ学生はかなり元気のあるやつが増えてきたんだよ」と筆者に話しかけてきたが、これはうれしかった。何しろ、数年前は各大学の電子工学はみな定員割れとなり、人気がなかった。つまりは、学内で一番質の悪い学生が電子工学に来るという状況であったのだが、これが改善されてきた。

 非常に多くの人が指摘していたのは、半導体とシステムの融合を追求して行かなければ、日本を立て直す路線は見えてこない、ということであった。まずデバイスありき、の議論では前に進まないと誰もが思っているのだ。どんなジャンルでもよいから(IT本体ハードでなくとも)最終アプリを制しデバイスに落とし込むことは、やはり最重要との認識も高まったフォーラムであった。

 さて、パネルのモデレータを務め、招待講演も行った津田建二氏(国際技術ジャーナリスト、セミコンダクタポータル)は、ポツリとこうつぶやいた。

 「世界の半導体がまだ成長しているのに、日本だけが止まっている。何とかしなければ、との思いでこのワークショップに多くの人が参加した意義は大きい。それにしても、東京ではもはや400人を集める半導体カンファレンスはほとんど見られない。さすが、九州シリコンアイランドの強みは残っているといえよう」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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