電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第431回

東北大学のスピントロニクスMRAMは、新たな段階に突入した


パワーデバイス、SoCにも踏み込み、SDGsに大貢献

2021/5/7

 「東北大学が世界に最先行してきたスピントロニクスMRAM技術は、いよいよ新たな段階に入ってきた。STT-MRAMの新技術により、スピントロニクスを応用したマイコンの作成にも成功したことで、SoCへの道が切り拓けてきた。さらに、パワーデバイス分野の研究を徹底的にやっている」

 こう語るのは、東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センターのセンター長を務める遠藤哲郎教授である。遠藤教授は東北大学の大野総長のところでスピントロニクスMRAMの世界にのめり込み、画期的な成果を上げてきた。東京大学を卒業し、東芝に在籍した頃には、3D-NANDフラッシュメモリーの開発に従事し、数々の事業化に貢献してきた。

スピントロニクスMRAMで数々の受賞をされた遠藤哲郎教授
スピントロニクスMRAMで数々の受賞をされた
遠藤哲郎教授
 2012年には第6回応用物理学会フェローに選ばれ、2016年には内閣総理大臣賞を受賞。その他にも21世紀発明奨励賞、東北大学総長特別賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝いている。

 STT-MRAMは、スピン注入型磁気抵抗メモリーのことであるが、画期的なこの技術の領域をさらに拡充している。最近の非常に大きな成果としては、40界面磁気トンネル結合素子において、磁石層の材料開発を行うとともに、バリア層との界面を4重にした素子構造を作り上げた。1Xnmスケールまで微細化しても、びくともしない。熱安定性も抜群だ。150℃まで耐えられるということは、車載用途に必要な条件を十分に満たしている。耐久性で言っても、言うところの100年デバイスが可能になったのだ。

 「パワーエレクトロニクスの分野にも踏み込んでいる、いや、踏み込まざるを得ない。AIから車載、さらにはデータセンターまで含めて、様々な用途におけるスピントロニクスMRAMの一大特性である圧倒的な低消費電力を加速するためには、総合的な研究開発が必要だ。GaN(ガリウムナイトライド)オンシリコンの開発も急ピッチでやっている。車載に十分使えるレベルに入っている。パワーデバイスは日本勢が得意としている技術であり、これまでにも様々な集積を重ねてきた。私たちもこれに学びたい。そして、STT-MRAMとの見事なマッチングを実現させていく」(遠藤教授)

 世界の全消費電力の3~4%を消費すると言われるデータセンターは、SDGsの時代にあって、まさに天敵とも言ってもよい存在である。今後10兆円を超えるデータセンター投資が数年にわたって展開されれば、なんとデータセンターだけで世界の全消費電力の10%程度を消費してしまう。この解決方法としては、やはり半導体がキーポイントになる。一番手っ取り早い方法は、パワーデバイスの大量投入である。そしてハードディスクをすべてなくしてしまうことで、NANDフラッシュメモリーに置き換えれば、すさまじい電力の削減になる。

 さらに、キャッシュメモリーとして使われていたSRAMをMRAMに置き換えて、これにスピントロニクス技術を応用したマイコンなどを加えたシステムLSIを作れば、これまたとんでもない電力節約につながるのだ。

 筆者は先ごろ、『セミコンニューウェーブ2021』というオール動画配信の放送番組の制作にこぎ着けた。現在、公開中である。この番組の見どころの1つとして、東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センターの活動をリポートさせていただいた。産業タイムズ社のトップページに貼ってありますので、皆さん、ぜひご覧いただきたい。もちろん無料で観られます。

 それにしても、遠藤先生は、まさに戦う火の玉のような方であるが、とても優しく、とても腰の低い方である。STT-MRAMによるSoCの評価設備などを見せていただいたが、なんと遠藤先生が自らこの設備を説明しておられた。そして、高らかにこう言われたのである。

 「このSoCの評価設備は、まさに画期的なものであります。東京精密のプローバーと、アドバンテストのテスターという黄金コンビによる成果なのであります。また、MRAMの主要な前工程設備については、世界でも有数の装置メーカーである東京エレクトロンに多くの協力をいただいた。まさにジャパン連合で作り上げたこの開発を、何としても世界に発信し、SDGsの運動に大きく貢献していきたいと切に思っています」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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