電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第403回

大型PKG基板市場が沸騰


高性能デバイス向けに需要急拡大

2021/5/28

 ハイエンドPCやサーバー向けCPU用パッケージ(PKG)基板の需要が急拡大している。コロナ禍でリモートワークや遠隔授業などが普及したことに伴い、PCやサーバーの販売台数が急激に伸長し、関連する高性能デバイスの需要が好調に推移している。活気づいたDXやIoT化の流れが決定的となり、ここに5G次世代通信網の整備も絡み、CPUやAIチップなどに搭載される大型PKG基板市場で投資競争が熾烈になってきた。

 トップサプライヤーのイビデンは、2021年3月期決算発表に先立ち、1800億円の新工場建設を明らかにするなど大型の投資計画も浮上。京セラや富士通インターコネクトテクノロジーズなど国内有力企業も続々本格参入の構えを見せる。台湾や欧州勢も新規投資に着手しており、業界はかつてない盛り上がりを見せる。

 高性能で大型サイズのPKG基板は製造難易度も高く、比較的日系勢が得意とする分野だ。さらには基板の絶縁材料をはじめ、内層コア材などの主要部材に加えて、露光装置やビア形成装置などは日系サプライチェーンがシェアを独占しており、圧倒的な存在感を放つ。さらなる微細化や高生産性が求められる大型PKG基板市場で、日系部材・装置メーカーの一段の成長が期待できそうだ。

高性能チップを搭載するパッケージ基板は大型化(写真はエヌビディアのCPU製品「Grace」
高性能チップを搭載するパッケージ基板は
大型化(写真はエヌビディアのCPU製品「Grace」
 米ハイテク調査会社のIDCが最近公表したデータによれば、21年1~3月のPC出荷台数は前年同期比55%増の8400万台となり、年間でも前年比18%増の3.5億台に達する見通しを明らかにしている。さらにはデータ処理量の急増もあり、高性能サーバーの需要が今後とも堅調に推移する見通しだ。AI化の流れを受け、ディープラーニングのためのAIアクセラレーターやグラフィックスプロセッサー(GPU)といった高性能デバイスの需要も旺盛だ。

 ここに、足元では巣ごもり需要で好調なゲーム機器向けの高性能CPUの増産要請も出てきている。AMDのようなチップ分割によるチップレット手法を用いたサーバー向けEPYCチップの登場などにより、新型PKGの開発も加速している。また、今後本格化するであろうミリ波対応の5G向けスマートフォンに搭載されるアンテナ・イン・パッケージ(AiP)向けなどのモジュール基板用途も新たな高性能PKG基板市場として大いに期待できそうだ。これら新規PKGの台頭もあって、高性能な大型PKG基板市場はしばらく安泰とみられる。

イビデンが河間事業所に1800億円を投入

 イビデンは先の決算発表の直前、1800億円の大規模投資を公表した。既存の河間事業場をスクラップ&ビルドして、23年度中にも新棟(Cell6)を稼働させる。現在、1300億円を投じて大垣中央事業場でも新棟(Cell5)を整備、新ラインを導入中だ。同新ラインは20年度下期から製品出荷を開始している。河間の大規模投資はこれに次ぐもので、Cell6がフル稼働すれば、20年度末比で4割ほど生産能力がアップする。

 最大のライバル企業でトップサプライヤーの新光電気工業もまた、高丘工場(長野県中野市)で新ラインが稼働、20年度フリップチップ(FC)BGA基板の大幅増収に寄与した。新光電気も生産能力増強に努めており、21年度までに生産能力を4割引き上げる。

 一方、台湾ユニマイクロンやオーストリアのAT&Sも旺盛な投資を展開する。

 ユニマイクロンは台湾・楊梅工場でインテル向けに専用ラインを稼働させており、ハイエンドPKG基板の生産を強化中だ。楊梅工場内に20年末に新棟を完成済みで、今後認定作業に入り22年からの本格量産を目指す。また、21年3月には台湾・湖口工場(新竹)に新棟を建設してFCBGA基板の量産ラインを整備する計画を公表したが、同ラインは非インテル向けPKG基板を強化するとみられる。

 インテルを主要顧客とするAT&Sも追加投資に踏み切った。量産拠点である中国・重慶工場の生産能力を拡大させる。向こう4年間で約2億ユーロを追加投入する。今後とも需要が旺盛なパソコン用CPU向けのPKG基板などの能力増強を中心に実施する。これにより、従来10億ユーロとしていた関連投資額は12億ユーロに増額される。

 商機拡大とみた国内のPKG基板第2グループも前向きな投資を構える。特に京セラは、綾部工場の新棟(第3棟)にFCBGA向けの最新PKG基板の装置導入を計画する。凸版印刷も新潟工場において、得意のグラフィックス系の高性能PKG基板の能力増強を検討しているもようだ。

 富士通インターコネクトテクノロジーズも長野本社工場で大型PKG基板の需要が拡大するとみて、近く事業拡大に打って出る。

 サーバー用途向けには高性能な半導体PKG基板が搭載されているが、インテルは今後EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)技術を中心に量産を本格化する。大容量・高速データ通信に対応するためハイバンドメモリー(HBM)の採用が必須となり、最新CPUとシリコンブリッジで平置き接続する。このためPKG基板のサイズも大型化(75×100mm)してくる。PKG基板の層数も従来比1割強増え、20層前後に達するとみられる。PKG基板のライン/スペース(L/S)も10μm/10μmだが、数年以内にはL/Sで5μm/5μmまで微細化が進展するとの見方が有力だ。ビア径も20μm以下と極小化する。

 PKG基板の関連部材・装置のサプライチェーンにおいては特に日系勢が活躍する。PKG基板の製造には、低誘電で反りの少ない絶縁材料や内層コア材、表面処理剤、めっき薬品など実に様々な部材が使用される。高性能なPKG基板には、微細な回路形成には不可欠な絶縁フィルムとなるABF(味の素)を筆頭に、コア層には昭和電工マテリアル(旧日立化成)の内層材がデファクトだ。その表面処理薬品ではメックや、銅めっき薬品では上村工業など日系勢がシェアを独占する。回路形成の製造装置ではウシオ電機の分割投影露光装置をはじめ、オーク製作所のダイレクトイメージング(DI)装置、ビア形成装置のビアメカニクスといった面々が名を連ね、これらの部材や装置がないと事実上、高性能なPKG基板の製造が不可能という状況だ。

露光機メーカーなど国内で増産対応

 PKG基板メーカーを中心に、好調な市場環境を背景として関連装置・部材各社の投資意欲も旺盛だ。特にウシオ電機は、同社がほぼ市場を独占する分割投影露光装置の能力増強に踏み切る。御殿場事業所(静岡県御殿場市)内で生産レイアウトの変更など行い、22年度上期中の稼働を目指す。生産能力は現行比1.3倍以上を見込む。関連投資額は15億円を計画する。同装置は、イビデンなどが供給する高性能PKG基板の微細回路形成には欠かせない装置とされており、新光電気のほか海外基板メーカーにも納入する予定だ。

 ウシオ電機の子会社のアドテックエンジニアリングも、長岡事業所(新潟県長岡市)の拡張を計画、隣接地ならびに既存建物を取得して、現在受注の好調なプリント配線板・PKG基板向けのDI装置の生産能力を大幅に引き上げる。生産能力は既存の1.4倍まで増強する。近々の稼働を目指す。一連の今回の設備投資額は二十数億円を見込む。当面30人ぐらいの陣容で生産を開始し、需要動向を見ながらさらなる増員も検討する。

 足元では5G通信対応などで、高速大容量対応のスマートフォンならびにデータセンターなどの開発・製造が進んでおり、高性能PKG基板をはじめ高密度プリント配線板の需要が旺盛となっている。また、ファンアウト対応などの次世代の高精細回路形成技術やPKGの大型化が見込まれており、これらに対応した大型で高性能なDI装置のニーズも高まっている。

 このため、最先端のDIを製造するオーク製作所も自社での生産能力引き上げを目指す。従来、協力会社の生産体制を有効に活用してきたが、これまでの生産能力を超える台数の受注が今後見込まれるとして、自社での生産増強を視野に入れる。量産拠点の諏訪工場(長野県)の敷地拡張を終え、工場の増設を検討している。早ければ21年度上期中にも着手する。

 次世代機で、よりアライメント精度の要求される製品群やエキシマレーザーを使った新型装置など、最新装置の量産にも備える。装置が大型化しており、フットプリントも必要になり、クリーンルームの清浄度も一段アップグレードが求められている。これらの対応には、10億~15億円にのぼる設備投資が必要となる見込みだ。

 また、現在需要が旺盛なPKG基板向けの内層コア基板を手がける愛工機器製作所は、生産能力を増強する。22年度にかけて総額75億円を投じて、能力を従来比で50%増加させる。今回、イビデンが能力増強を河間事業場などで追加投資を決めるなど、関連需要が継続して伸びるとみている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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