電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第649回

量子コンピューター、中性原子方式は有力候補


Atomがシステム製品化、QuEraがDarpa QB1ステージB進出

2026/4/17

 スパコンを含む古典コンピューターを遥かに凌駕する演算能力が期待される量子コンピューター。世界的には1000量子ビットを超える事例も数年前から報告されているが、64量子ビットレベルでも演算内容によってはスパコンを優に超えると言われる。一方で、量子コンピューター実用化を妨げる大きな壁の1つが、ノイズにより1000回に数回程度の頻度で生じるエラーだ。100万回では数千回に拡大するなど、量子コンピューター本来のポテンシャルを発揮できていない。

 現状、数々の国内外の企業、大学・研究機関が量子コンピューターの開発を積極的に進めているが、実用化レベルでいえば「ノイズが多い中規模量子デバイス(Noisy Intermediate Scale Quantum:NISQ)」の段階で、将来的にはエラー訂正技術の確立などにより「誤り訂正量子コンピューター(Fault Tolerant Quantum Compute:FTQC)」に向かっている。その際の有力技術の1つとされる、中性原子方式の量子コンピューターの動向を簡単にまとめた。

メリットは多数

 量子ビットを実現するハードウエア技術として超電導方式、中性原子方式、イオントラップ方式、アニーリング方式などが候補として挙がっている。うち中性原子方式は1つの原子を1つの量子ビットとし、レーザービームにより量子ビットを制御する技術。量子ビット同士の距離によって相互干渉が異なり、近くなるとエネルギー状態が高く「1」の値、逆に遠くなると同低い「0」の値をとる。量子状態の読み取り(測定)は蛍光体を検出するCMOSカメラなどで行われ、蛍光を発した場合で「0」、同発しないケースで「1」となる。

 中性原子方式の特徴の1つが自然界の原子を活用することによる、欠陥のない、同一の量子ビットを扱うことが可能な点だ。これにより、量子計算の精度向上が期待できるとされる。量子ビットを製造する別の方式では欠陥やバラつきが生じることが多い。

 2つ目は、ナノサイズの原子を扱うことから量子ビットの大規模化に優位なことだ。スケーラビリティーに優れ、システム小型化にも容易とされる。3つ目が室温動作可能なことで、この点、極低温環境が必須な超電導方式よりも有利とされる。

 一方で、中性原子方式は欠陥やバラつきが少ないことから、量子コンピューター最大の課題とされる誤り耐性実現に向けたエラー訂正技術の確立にも有利と言われる。エラー訂正技術とは複数の量子ビット(物理量子ビット)を組み合わせて論理量子ビットとし、演算処理の信頼性を向上させる技術。例えば、量子ビットを1と0ではなく、111と000の複数の論理量子ビットとすることで、仮に3つのうちの1つの値が違っても多数決で値が保持できる。

Atom、オンプレミスシステム製品化

 中性原子方式を採用する企業はAtom Computing(米カリフォルニア州バークレー)、QuEra Computing(米マサチューセッツ州ボストン)、Pasqal(仏エソンヌ県パレゾー)、planqc(独バイエルン州ミュンヘン)、Yaqumo(東京都千代田区)などが挙げられる。

 Atom Computingは2018年に現CEOのベン・ブルーム氏が創業したベンチャー。氏はマサチューセッツ工科大学で学士号、コロラド大学ボルダー校で博士号を取得し、同社では物理・論理量子ビット、エラー訂正技術およびシステム開発などで開発チームをリードしている。

 同社は23年末、中性原子にイッテルビウムを用いた1180物理量子ビットの開発に成功したと発表した。これは中性原子方式として1000量子ビットを超えた初めての事例であり、また同方式が改めて有力視されるきっかけともなった。24年末には28論理量子ビットにより、エラーの検出および訂正に成功したことを明らかにしている。

Atom Computingの「AC1000」
Atom Computingの「AC1000」
 同社はまた25年にイッテルビウムを採用したオンプレミス向けのシステム「AC1000」を製品化した。同システムは1200物理量子ビットに対応し、量子計算精度の目安となる「1量子ビットゲート忠実度」で99.9%、「2量子ビットゲート忠実度」で99.9%を達成した。値を保持できる時間(コヒーレンス)においては40秒を実現している。

QuEra、DarpaのQB1ステージB進出

 QuEra Computingはハーバード大学・マサチューセッツ工科大学発ベンチャーとして18年に設立。ルビジウムやイッテルビウムなどの中性原子を用いたシステムを開発しており、現状、3000物理量子ビット・256論理量子ビットの実証に成功しているという。

 開発したシステムは本社ボストン内と産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)内に設置。G-QuAT内のシステムは260物理量子ビット・40論理量子ビットを搭載し、NVIDIA製GPUを搭載した大規模HPCプラットフォーム「ABCI-Q」と連携している。

 同社はまた、年初に米国国防高等研究計画局(DARPA)の「量子ベンチマーキング・イニシアチブ(QB1)」のステージBへの進出が承認されたと発表した。QB1は33年までにFTQCが実現可能かを判断し、その結果を正直に米政府に伝えることをミッションとしている。

 評価プロセスは、ステージA、同B、同Cの3段階に分かれ、同社はAで選ばれた17チームより11チームの1社としてBに選定。今後、同社はDARPA職員を交え、量子コンピューターのシステム検証や開発ロードマップ構築などを進めていく。期間は1年間で、DARPAよりの資金提供は最大1500万ドルとなっている。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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