電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第654回

京都企業に関与強めるアクティビスト


要求の高まりに直面するエレクトロニクス企業

2026/5/22

 「物言う株主」と呼ばれるアクティビストの活動が活発化している。なかでも香港に本拠を置く著名アクティビストのオアシス・マネジメントは、2025年に経営改革を要求した京セラに続いて堀場製作所やニデックの株式を取得し、両社に改革を迫っている。相次ぐ半導体・電子デバイス関連企業への関与は、株式市場からの成長期待の高まりを反映しているといえるが、同時に企業にとっては株主対応に頭を悩ませる局面の増加を意味する。

オアシスはエレクトロニクスへの働きかけを強化

 そもそもアクティビストとは、企業の株式を一定程度取得したうえで投資先に積極的に提案を行い、企業価値の向上を目指す投資家をいう。一般的には、5~10%程度の株式を取得して経営陣と対話・交渉するほか、株主総会における株主提案権の行使により企業に意思表示を行う。会社が提案した議案の否決を目指して株主に広く賛同を求めるなど、会社側に敵対的な行動を取ることもある。

 少数株主の利益を代弁して企業に価値向上や株主還元を求める点で、株式市場の好循環に貢献していると評価する声がある一方、短期的利益の追求に邁進するあまり中長期的な企業の成長にマイナス影響をもたらすとの批判もある。本稿でその是非を問うのは趣旨ではないが、国や東証が近年、上場企業と株主の積極的な対話を促して制度の見直しを行ってきたことがアクティビストの活動活発化の背景にあるといえる。また、京都ではこれまで地域企業の安定株主の役割を果たしてきた京都銀行が、政策保有株の縮減を進めていることも外部株主の増加の一因と考えられる。

 オアシスは近年、エレベーター大手のフジテックの経営権をめぐり創業家と争いを繰り広げたことで注目された。それ以外は花王や小林製薬など身近なBtoC企業への働きかけが中心だったが、25年に京セラに経営改革を求めたのをはじめ、同年には太陽ホールディングスの佐藤英志前社長の解任にも関与し、エレクトロニクス分野への参画を強めている。

京セラは改革の実施で一定の成果

京セラは経営体制を刷新(写真は作島新社長)
京セラは経営体制を刷新(写真は作島新社長)
 オアシスの京セラに対する改革要求については、25年に本稿でも取り上げたのでその後の状況を簡単に振り返りたい。オアシスは京セラに対し、有機基板事業などのノンコア事業からの撤退や電子部品事業の立て直しなどを求めた。両事業の低迷は京セラも問題視しており、有機基板事業のコスト構造転換に向けた施策や電子部品事業の生産効率化などの取り組みを打ち出し、25年度通期では黒字転換を果たした。また、パワーデバイス、ケミカルなどの事業譲渡、組織再編も進めた。25年の株主総会でオアシスが不信任を呼びかけた谷本秀夫社長は26年4月1日付で退任し、取締役兼執行役員専務で経営改革プロジェクト担当の作島史朗氏が後任となった。

 京セラの改革はオアシスの要求への「満額回答」ではないが、業績改善および成長への転換に向け一定の道筋を示したものといえる。オアシスは6月の株主総会に向けて山口悟郎会長の解任などの株主提案を提出し、さらなる改革遂行を求めている。株主総会における株主の判断が注目される。

会長への不信任を突きつけられる堀場製作所

 オアシスは25年12月に堀場製作所の株式の取得について大量保有報告書を提出し、同社株9.9%の保有を明らかにした。それに続けて堀場製作所の堀場厚会長に対し不信任を突きつけ、26年3月の株主総会における堀場氏への再任反対を呼びかけた。

 オアシスの主張の骨子は、堀場製作所の半導体事業へのリソース集中と堀場氏、つまりは創業家支配に対する反対だ。オアシスは高収益の半導体事業が他事業の低収益をカバーする構造を問題視し、事業ポートフォリオを見直して半導体領域に傾注すべきと要求する。

堀場製作所は堀場会長への不信任に直面(写真はMFC)
堀場製作所は堀場会長への不信任に直面(写真はMFC)
 ただ、半導体市場を取材してきた立場としてこの主張には首肯しがたいものがある。確かに近年、堀場製作所の業績はマスフローコントローラー(MFC)をはじめとした半導体事業に牽引されているが、半導体設備投資の波に左右されやすい領域でもある。資本効率向上を優先して他事業への取り組みを後退させるのが中長期的な成長の観点から適しているといえるのか、疑わしい。直近の収益性が低調でも、自動車や水素エネルギー、ヘルスケア関連の分野について将来成長が期待できないとまではいえないだろう。

 後者の主張については、社内外の既存ステークホルダーに支持される見込みはほぼないといってよい。周知のとおり、堀場厚氏は創業者の雅夫氏の息子で同社の成長を支えてきた存在である。京都の産業界でも高い人望を持ち、「反創業家支配」の旗頭を掲げたところで反感を買うだけではないだろうか。

 もっとも、オアシスも既存ステークホルダーへ堀場厚氏の不信任を呼びかけたわけではないだろう。株主総会で堀場厚氏の再任への賛成率が74%と前年の91%から低下したのを受け、オアシスは「株主からの警告」だと主張している。また、堀場製作所が株主との対話に消極的だとも述べ、多くの個人株主の利益がないがしろにされていると印象づけている。オアシスは堀場製作所の既存ステークホルダーとは異なる、同社への思い入れを必ずしも共有しない株主に広く賛同を呼びかけている。

 一方で、オアシスは26年8月に堀場製作所が発表予定の改訂版の中長期経営計画について、現経営陣を評価する試金石であり慎重に精査すると述べている。これは取りあえず堀場製作所側の回答を待つとの意思表示ともとれよう。オアシスがさらなる「攻勢」をかけてくるかは状況を見守る多くの株主の動向にかかっているのであり、新中長期経営計画において堀場製作所がどのような回答を示すのかが今後を左右するだろう。

ニデックは不正問題からの再建に影響か

 堀場製作所に続いて26年3月、オアシスが6.7%の株式保有を明らかにしたのはニデックだった。ニデックが不適切会計問題の発覚を受けて進めていた第三者委員会の調査報告書を公表したのに合わせ、株主としてメッセージを発した。

 実のところ、この問題を受けてアクティビストが動くのは筆者も予想していた。ニデックは不適切会計問題の発覚を通じガバナンスの問題が明らかになったとはいえ、事業そのものは競争力があるとされる。

 すなわち、ガバナンス改革により立て直しを図り、企業価値を向上する余地は多分にある。また、創業者の永守重信氏が不正の根本原因と指摘されたこと、不正発覚を受けた株価の低迷で多くの株主は不満や怒りを抱えている。アクティビストであるオアシスが活躍できる状況にある。

品質不正問題を受け会見するニデックの岸田光哉社長
品質不正問題を受け会見するニデックの岸田光哉社長
 また、5月中旬には製品品質の不正問題が浮上し、ニデックは外部専門家で構成される調査委員会を立ち上げた。再建の柱に据える事業の健全性にも疑いをもたらす新たな不祥事で、株主の不信感はさらに高まるとみられる。

 オアシスは、会計不正を受けてガバナンス改革および永守氏ら関係者の徹底した責任追及を求めている。これらはニデックも取り組む方針を示しているが、そこに品質不正問題が加わる。株主の怒りを追い風にオアシスが経営体制の変革などを要求し、支持を集める可能性もある。

 ニデックは一連の問題に関して関係者の責任の明確化と処罰を行うとともに、役職を退任した永守氏を今後一切経営に関与させないとの方針を示している。ただし、永守氏は依然としてニデックの大株主であり、今後何らかの意思表示をする可能性もある。ニデックは再建に向け、内外の様々な思惑を睨みながらの難しいかじ取りを余儀なくされそうだ。


電子デバイス産業新聞 編集部 副編集長 中村 剛

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