AIサーバーや高機能な半導体チップの台頭で、基板産業が大きく飛躍しようとしている。基板の役割が、単なる「配線」機能から、部品内蔵技術などによる「超小型化・高集積化」、「高信頼性」、「高機能化」を実現するものとして、一段と進化しようとしている。これら基板構造の変化にとどまらず、高速伝送や耐熱性も従来以上に求められてくるため、基板材料の低伝送損失化ならびに低CTE(低熱膨張係数)の要求も厳しくなってくる。①部品内蔵基板の立ち上がり、②パッケージ基板の高度化、③超々高多層基板、④高機能部材の台頭がいま注目されている。基板産業の新たな潮流を追った。
AIサーバー向け部品内蔵基板が離陸
直近の大きな動きとしては、村田製作所が開発・市場投入を開始する「iPaS」(integrated Package Solution)だ。昨今、AIサーバーにおけるデータ量の急増や消費電力の増大に向けた対策として、電源ラインを集積化し、配線での電力ロス低減に最適な垂直電源供給が注目されているが、それを実現する手法の1つが、コンデンサーやインダクターなどの受動部品を基板内に内蔵する「iPaS」だ。
同製品は、現状AIサーバー向けのIC(GPU/CPUなど)の横に置かれている電源をICの背面に配置することで、電源からICまで最短距離で電気を供給する構造を効果的にサポートする次世代技術。基板内にコンデンサーやインダクターを内蔵することで、限られたスペースで必要な電源特性を効率的に引き出せるのが最大の魅力だ。
今回同社は、基板内にシート状(0.35mmt)のアルミ電解コンデンサーを内蔵した。将来的にはGPU/CPUの真下にキャパシタを内蔵することも検討している。GPUやTPUなどxPUを直接動作させることのできる、この垂直供給型電源システムは、同社の回路技術や通信モジュール技術をベースにした小型薄型化技術が生かされている。26年度から本格的に市場に投入、1.5年で年間500億円規模を売り上げる計画だ。
部品内蔵基板は、システムの高度化や低消費電力化への貢献度からみてもますます重要な技術として注目されよう。例えば車載用LiDARやレーダーなどのリアルタイム処理が求められる高度化した機能が要求される分野では、センサー直下にプロセッサーやメモリーなどを配置することで、信号遅延や配線長の最小化に貢献できる。また、AIサーバーのラック内部は依然、電気信号伝送が主流といわれ、電力損失による発熱の問題や伝送遅延など大きな課題が指摘されている。そこで光学部品や半導体を同一パッケージ(コ・パッケージ)上に実装する手法など、ここでもマイクロレンズなどの部品内蔵技術が注目されているという。
車載用途では一部実用化も
車載用基板メーカー大手であるシュバイツァー・エレクトロニックAG(独シュランベルク)は、独自開発した部品内蔵基板技術の「p2Pack」について本格展開を加速する。EMS事業を手がけるツォルナー・エレクトロニックAG(独ツァント)と事業提携を行い、ツォルナーが受託した車載関連の電源系モジュールやユニット製品などに同部品内蔵技術を組み込む。さらに車載以外の新しいアプリケーションも開発し、顧客基盤を拡大する。ツォルナーは設計段階からこの部品内蔵技術を取り込む。シュバイツァーにとっては自動車向け以外の新たな用途開発にもつなげる狙いがあり、相乗効果を発揮できるという。
この部品内蔵技術は、SiCチップなどパワー半導体を基板内に直接内蔵することができる。高速スイッチング機能を要求されたり、放熱対策に有効な基板技術の1つになる。信頼性も向上できるとして欧州の大手ティア1が量産車で採用する。
部品内蔵技術は、これら機能の異なる様々な異種チップを1つのパッケージ内や、曲げられたり伸縮する電子回路への応用、3D実装との融合などへの基本技術として活躍する可能性がある。内蔵されるデバイスは高価なものが多く、将来的には故障検出や自己修復などの機能を持たせた、ハードルの高い技術開発が求められる。
パッケージ基板の大型化が進展、コアの多層化も
さらに大きな進化を遂げているのは半導体パッケージ基板の世界も同様だ。高速で大量の演算処理が要求されることから、AI向けGPU/CPUのチップレット化、さらに大容量のHBMを近接して実装するため、それにつれてパッケージ基板の大型化も大きく進展する。パッケージ基板サイズは従来の80mm角から、27年ごろにかけて一辺が130mmと大型化する。さらにその先には光電融合に対応するコ・パッケージなどに対応した一辺150mmサイズへと進化する。
コアの多層化の最大の狙いは、部品内蔵技術で言及したように電源品質(Power Integrity)などの抜本的強化にある。最新のAIプロセッサーは、1V前後で数百~1000A級の電流を流す必要があり、電源ノイズや電圧低下の課題が深刻化している。これを解決するため、コア内にコンデンサーを内蔵したりすることで電源からダイまでの距離を最短化でき、寄生インダクタンスも低減でき、電源や信号品質の安定化が期待できるのだ。AIチップの性能を大きく左右することにつながる。
また樹脂基板の反りの問題も残る。コアの多層化は反り対策としても有効だ。樹脂基板における多層コアはすでにスイッチICや先端GPUの一部で採用が始まったとされ、26年以降から本格的な市場が形成されそうだ。
超々高多層板も登場
昨今、HBMなど高速メモリーなどの普及も進み、これらに対応した超高多層のプローブカードが必須になっている。100層近い超高多層基板も登場している。さらなる超高多層化の要求も出てきている。
先鞭をつけたのはFICTだ。すでに25年秋には板厚10mm、160層の超々高多層基板の開発も完了した。独自のF-ALCS工法を活用、複数の多層板ブロックをあらかじめ形成しておき、最後に各ブロックの層間ビア同士を導電性ペーストで接続している。F-ALCSはL/S50μm/50μmまでの微細化が可能で、ビアのスタブ(Stub)が形成されないので高速信号処理の基板には最適だ。26年内には180層に挑戦する。
つい先ごろ、OKIサーキットテクノロジーは、AI半導体に搭載されるHBM向けウエハー検査装置用として、180層かつ板厚15mmのPCBを設計および生産する技術を開発したと発表した。上越事業所(新潟県上越市)において、26年10月から量産出荷することを目指し、量産技術の確立と設備の導入を進めている。用途は半導体テスター/プローブカード基板などを見据える。
材料の高機能化も加速
AI技術が先導するこうした高機能基板の登場に伴い、基板材料そのものの高度化ニーズがマストになってきた。大量データの高速伝送ニーズが必須のAIサーバーに組み込まれる基板材料は、低伝送損失特性の向上が何より求められる。このため、一般的に言われているウルトラローロスから次世代超ロ―ロスⅠ/Ⅱ、低CTE材などのガラスクロス材料の開発・適用も急がれている。
特に低誘電や低CTEなどのスペシャルガラスの大手である日東紡は、旺盛な需要に対して生産能力の増強に乗り出している。ヤーン(原糸)でみると、主に台湾拠点で22年度から低誘電ガラスヤーンを本格的に増強し、ガラスクロスは台湾の現地子会社「Baotek」と日本国内で生産能力を増強する。特にNERガラスは、24年から本格的にデータセンターの新規格に採用され始め、需要が順調に増加、足元も好調な販売が継続する。
新規参入企業も登場する。日本電気硝子は、AIサーバーやデータセンターの最先端半導体向けに低誘電ガラスファイバーを開発・上梓した。ヤーンとして基板の素材に用いられる想定で、ガラスクロス加工メーカーに供給する。すでに顧客評価を完了しており、連携して市場展開を進めていく。また、市場動向を見ながらさらなる低誘電ガラスや低CTEガラスの開発を推進する。
また、次々世代の低CTE・低ロスの分野では、石英ガラスを使ったクロス開発も活発化してきている。旭化成は独自の織布技術を生かして石英ガラスクロスの開発・販売を強化する。26年内にも顧客認定を取得し、将来的には低CTEガラスクロスにも参入する。
低伝送損失部材も市場形成へ
新たな部材市場も立ち上がりそうだ。高周波対応など低伝送損失を実現する基材では、得てして難接着性機能があるためガラスやフッ素系樹脂などと銅箔とのピール強度を確保するのが大変だ。そのため銅箔や樹脂の表面を粗化・改質したりする必要があるが、これだと伝送速度に影響が出てくるため、新規の化学密着型の表面処理薬品が有効となる。次世代パッケージ基板ではこうした新規部材が主流となる可能性が高く、四国化成工業のグリキャップやメックの化学密着向上剤といった製品が脚光を浴びている。
CCL(銅張積層板)材料を構成する主要樹脂にも変化が訪れようとしている。デンカは低誘電関連基板材料「スネクトン」をはじめ、低誘電正接の球状シリカ、高放熱特性に優れる球状アルミナ製品を増産する。スネクトンは、リジッド基板用CCLやフレキシブルCCL向けにも展開する。データセンターや携帯電話基地局、AIサーバー向けなどのメーン基板用途に事業展開を図る。
25年度の売上高は約20億円を見込むが、28年度までには150億円規模まで引き上げる。26年度中には自社の製造設備の稼働を見込み、今後の需要次第ではさらなる能力増強投資も検討している。三菱ガス化学のOPE(オリゴ・フェニレン・エーテル)と呼ばれる高機能樹脂も、ハイエンドAIサーバーなどに搭載される高多層基板向けを中心に伸長しており、今後とも成長が期待される。
電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広