グーグルがAndroid XRスマートグラス発表
AIを核に新しい潮流が立ち上がりつつあるメガネ型デバイス(AI・ARグラス)の世界は、2026年を境に「次のコンピューティング時代」へ本格的に踏み出そうとしている。OSや光学系、AIモデル、アプリストア、広告、決済といった基盤が次々と動き始め、私たちの生活インターフェースはスマートフォン登場以来の大きな節目に向けて動きだした。
グーグルは、5月に開催した自社カンファレンス「Google I/O 2026」において、AIが「質問に答える道具」から「ユーザーの代わりに24時間自律して働く同僚」へと進化した姿を発表した。Gemini Sparkによる常時稼働のタスク代行、超高速モデルGemini 3.5 Flashと物理世界を理解するGemini Omni、音声でメールを横断検索するGmail Live、ハンズフリーでAIを使うためのAndroid XRスマートグラスまで、Googleのサービスとデバイス全体が、AI中心の新しい利用体験へと再設計されたことを強調していた。
そして、Android XRスマートグラスについては、「hands-free」「heads-up」でGeminiを利用でき、スマホを取り出さずにナビゲーション、翻訳、メッセージ、撮影、周囲理解などを行うための「AIを直接呼び出せる新しいインターフェース」として位置づけていた。
グーグルは音声デバイスを先行発売
今回グーグルは、Android XRスマートグラスとして、サムスンとアイウエアブランドメーカーのGentle Monster(韓国)やWarby Parker(米国)と共同で開発した、2種類のインテリジェントアイウエアを発表。これらはスマホのコンパニオンデバイスとして設計され、一般的なアイウエアの形状を保ちながら、音声操作によるサポートやスマホとのシームレスな連携を実現するという。
サムスンのハードウエア技術とグーグルのAI技術、そして各アイウエアブランドのデザインを融合したことで、ユーザーは視線を前に向けたままハンズフリーでAIの支援を受けることができ、音声でGeminiにルート案内を依頼したり、周囲のおすすめスポットの提案を受けたり、テイクアウトの注文や重要なメッセージの要約通知、カレンダーへの予定追加など、日常の多様なタスクをこなすことが可能だ。また、話者に合わせた音声のリアルタイム通訳や、視界内のメニューや看板の翻訳といった機能も備えており、Galaxyエコシステム内でスムーズに動作することで、スマホを取り出すことなく写真を撮影することもできる。26年秋ごろの発売予定だ。
これらはディスプレー非搭載のAIグラス(オーディオグラス)との位置づけで、グーグルはほかにも、中国・XREALと協業して「表示系モデル」の開発にも取り組んでいる。XREALが26年に市場投入を計画している新型ARグラス「Project Aura」は、視野角70°の広視野角を備えた光学シースルー方式の有線型デバイスだ。コンピューティングユニットとバッテリーを内蔵した「Puck」と有線接続する構造で軽量化を図っている。このPuckは入力デバイスとしてトラックパッド機能も兼ねており、グーグルの協力のもと、Android XRとの親和性を高めた設計が進められているという。
アップルが29年ごろ市場投入か
AI・ARグラスは、AIエコシステムの中で最もコンシューマーに近いAIのエッジコンピューターとしての役割を期待され、メタやグーグルといったビッグテックが注力する分野でもある。
メタは、Ray-Banとの協業による「Ray-Ban Meta」シリーズを軸に、「日常装着型AIグラス」を先に押し出す戦略を明確にしている。カメラ・音声・視覚理解を組み合わせ、生成AIを常時利用できる軽量グラス型デバイスの開発を推進しており、シリーズ初のディスプレー搭載モデル「Ray-Ban Meta Display」も投入し、AIグラスからARへという段階的な進化路線も示した。
アップルはヘッドセット型のVision Proで空間コンピューティングに着手しつつ、ARグラスの開発も進めているといわれている。海外報道などでは、2029年ごろに「Apple Glass(仮)」を市場投入する計画のようで、初代モデルはディスプレー非搭載の軽量AIグラスになる可能性が高いという。音声・カメラ・センサーを中心としたiPhoneのアクセサリーデバイスとの位置づけで、まずは日常装着を優先したモデルを先行させ、その後にディスプレー搭載型の本格ARグラスを投入するとみられる。
なお、サムスンも同じ路線を取るとみられ、今後、Apple Glassの上市前後には同社のグラス型デバイスも発表されるだろう。同社は、Vision Proの動向を意識し、注力してきたARグラス「Project Haean」の開発を中断し、「Project Moohan」を優先して製品化したうえで、「Samsung Galaxy XR」として市場投入したとされる。
ビッグテックの中でも、アマゾンは独自路線を走っている。消費者向けのスマートグラス領域では、Echo Framesに代表されるようなオーディオグラスにとどまっている。ディスプレーやカメラを搭載したARグラスには踏み込まず、一般ユーザー向けでは音声AIのAlexaを軸とした耳のインターフェースに戦略を絞っている。このほか、AR技術の活用は自社の物流網で進めている。配送ドライバー向けの「Amelia」や、倉庫作業員がリアルタイムで指示を受けるための視覚オーバーレイデバイスなど、AI+ARを現場最適化に振り向ける、業務用途を中心としたグラスデバイスを活用している。
日本発の「スマート眼鏡」発表
海外勢が先行するなか、眼鏡の産地・鯖江からも新たなプレーヤーが名乗りを上げた。「眼鏡の町」である福井県鯖江市で創業されたソフトウエア企業のjig.jpが、大手メガネフレームメーカーのボストンクラブ(福井県)、ARグラス用ウエーブガイドの開発や生産を手がけるCellid(東京都)と協業し、日本発のARグラス「SABERA(サベラ)」を開発し発表した。
jig.jp代表取締役社長CEOの川股将氏は「スマホ以来の、日常で使われる新しい情報インターフェースが誕生するこの瞬間に、立ち会える機会はそうないと思った。この機を捉えて当社の第2の事業柱とすべく、ARグラスへの投資を判断した」と語る。「ARグラスではなく、あえて『スマート眼鏡』とカテゴライズした。日常生活でかけ続けることができる眼鏡と同等であることを強調したい。今後は眼鏡をかけるか、スマート眼鏡をかけるかという選択ができる時代になる」(川股氏)との見解を示した。
SABERAは6月29日までクラウドファンディングサービスのMakuakeで先行販売し、7月以降に順次発送する。価格は9万2400円(税込み)。まず初期ロットは8500台、3年後には累計10万台を目指す。26年秋口をめどにユースケースを拡大するような第2弾製品を発表する予定で、ハードウエアのアップデート品については、CES 2027で披露する計画もあるという。
数年内にARグラスが本格化か
日本発のARグラスとなるSABERAは、いわばスマホのコンパニオンデバイス。表示は右側単眼で緑色のマイクロLEDを搭載し、FOVは30°、解像度は640×480、重さは約40g。Cellidが開発したプラスチック製ウエーブガイドを採用し、ベータチタン製のフレームを樹脂でコーティングすることで堅牢さと軽さを実現した。右側のテンプルエンドにタッチセンサーとバッテリーを、左側のテンプルエンドと右フレーム前方にマイクを搭載している。バッテリーは100mA、標準稼働時間は8時間、最大稼働は12時間。
スマホとBluetoothで連携して専用アプリで操作することで、文字起こしや通知、ナビゲーション、リアルタイム翻訳、原稿表示、AIアシスタントなどの機能を使用することが可能だ。今後、SABERA側のタッチセンサーでも簡単な操作が可能になるという。
また、ウエーブガイドの内側部分は通常の眼鏡レンズをはめ込める仕様になっており、視力矯正が必要な場合は、対応する眼鏡店での組みつけが可能だ。すでに東京、鯖江、名古屋で4店舗の眼鏡販売店と契約しており、今後さらに店舗数を増やしていく。また、Eコマースのほか家電量販電などにも販売経路を拡大していくという。
将来的には、ARグラスはスタンドアロンで動作することが求められている。しかし、50g以下で、眼鏡と同等の重さの中にディスプレー・光学系、バッテリー、専用プロセッサーなどを搭載することは技術的なハードルが高く、資金力のあるビッグテックも開発途中だ。これについては、「半導体の高効率化は日進月歩で進んでおり、当社の手がける光学系の性能も1年で倍の効率を達成する速度で開発を進めている。スタンドアロンで動作するARグラスの実現にはまだ数年かかるだろうが、10年も先のことではない。30年までには何かしらの解が出るだろう」(Cellid代表取締役CEOの白神賢氏)という。
光学や半導体、筐体設計といった基盤技術の進歩に加え、各社がユースケースの開拓を進めていることで、AI・ARグラスは実用化に向けた条件が整い始めている。普及にはなお時間を要するが、次の10年は市場形成に向けた取り組みが着実に進む時期となりそうだ。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子