電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第663回

EV減速でLiBのESSシフトが加速


再エネ普及や系統用蓄電池事業拡大が後押し

2026/7/24

 電気自動車(EV)普及を背景に急成長を遂げてきたリチウムイオン電池(LiB)市場。今後、さらなる高性能化および低コスト化や、次世代LiBとも言える全固体電池の実用化によりさらなる市場拡大が見込まれている。一方で、EV販売は以前ほどの勢いがなくなったことも事実で、普及の踊り場に入ったとする見方をする専門家もいる。

 こうした中、LiBの有力用途として期待されているのがエネルギー貯蔵システム(ESS)だ。背景には再生可能エネルギーの普及や、系統用蓄電池事業の拡大などがあり、LiBメーカーらはEV向けからESS向けにシフトする動きが強まっている。

 世界各国政府の野心的な環境政策を背景に急拡大を続けてきたEV市場だが、2023年以降は欧米市場を中心に勢いが鈍化。これを受け、35年にガソリン車販売原則禁止の方針を打ち出していたEUは、25年末に自らその方針を撤回。また、それまでEV一辺倒で開発・生産を進めてきた自動車メーカーも計画を修正している。例えば、30年までに新車販売の100%をEVとしていたメルセデス・ベンツは、30年代もEVとともにガソリン車、プラグインハイブリッド車を販売していくとした。

 他方、米国では第2次トランプ政権による政策転換がマイナスに働いている。バイデン前大統領が制度化したインフレ抑制法に基づくEV購入補助金や、LiBメーカーを対象に一定額を払い戻す先端製造税額控除(AMPC)が見直され、前者においては25年9月をもって終了。これにより同年における米EV需要は鈍化した。

 そしてこうしたEV需要減がLiBメーカー各社の業績悪化に直撃している。例えば、EV向けを中心に展開するLGエナジーソリューション(LGES)は24年度、25年度と2年連続の減収となった。営業利益は確保したとしたものの、AMPCインセンティブを除けば営業損失だったので実質は赤字だ。他方、パナソニック エナジー社における車載電池事業売上高は、同じく2年連続の減収となっている。

VRE統合のデバイスとして期待

 ESSが伸びる背景には再エネの急速な普及がある。太陽光発電や風力発電は変動性が高いことから変動性再生可能エネルギー(VRE)とも呼ばれ、いかにその変動を抑えるかが重要となる。そこでESSと連携させることで、出力を安定化させるものだ。例えば、太陽光発電で昼間のうちの余剰電力を充電し、夜間や曇天時に放電するという使い方だ。

 加えて、ESSはVREの過剰導入に対する系統電力の安定化にも寄与する。系統電力は発電量や消費量の変化により周波数が変化するが、ミリ秒単位で充放電が可能なESSにより、周波数調整や電圧調整などが可能となる。

 さらに、ESSは電力需要が高い時間帯に放電することで電力消費量を抑える「ピークカット」、電力需要が低い時間帯に充電し、ピーク時に放電する「ピークシフト」にも使われており、工場、データセンター、商業施設などにおける電力料金の抑制に貢献している。このほか、バックアップ電源やBCP対策としてオフィスビル、病院、通信基地局、データセンター、工場などにインストールされている。

 一方、昨今注目集めているのがESSを系統電力に直接接続して電力市場取引を行う系統用蓄電池事業だ。周波数変動に対する調整力を提供する「一次調整力市場」や、翌日の電力価格を前日に決め、安く買って(充電)、高く売る(放電)ことの差分で収益を確保する「前日スポット市場」などがある。参入メーカーは電力会社、電機メーカー、不動産会社、スタートアップなど様々で、国や地方自治体の充実した補助制度により設備投資意欲は旺盛だ。

有力メーカーらがESSシフト

 こうしたESS需要増を受けて、LiBメーカーらはESSシフトを強化している。以下に代表的な事例を示した。

 LGES、サムスンSDIおよびSKオンの韓国LiB 3社は、米ESS市場を中心に事業拡大に積極的だ。LGESは、GMとの合弁会社「アルティウム・セルズ」が運営するホランド工場(米ミシガン州)で計画していた、約14億ドルのEV向け拡張投資をESS向けに転換した。正極材に低コストのリン酸鉄リチウム(LFP)を用い、またセルにはパウチ型を採用。25年6月には大規模量産に入ったことを明らかにした。

 SKオンはスタントン工場(米テネシー州)で、EV向けとともにESS向けの量産を本格化している。同社は25年9月、米再エネ企業フレイトロン・エナジー・デベロップメント(Flatiron Energy Development)と最大7.2GWh規模のESS供給契約を締結。最初の1GWhはマサチューセッツ州のプロジェクト向けで、26年下期にも供給を開始する。LiBセルにはLFP正極LiBを活用することで低コスト化を実現するとした。SKオンはコマース工場(米ジョージア州)においてもESS向けの生産を本格化する見通しだ。

 自動車大手フォード・モーターは今年5月、20億ドルを投じて完全子会社「フォード・エナジー」を設立し、ESS事業に本格参入したと発表した。新会社はLiBセル製造(電極コイル製造含む)からモジュール・コンテナ組立、販売・サービスまで一貫して提供する。年産能力は20GWhで、27年後半に最初の顧客へ納入する予定だ。

フォード・エナジーのコンテナ型ESS「Ford Energy DC block」
フォード・エナジーのコンテナ型ESS「Ford Energy DC block」
 生産はグレンデール工場(米ケンタッキー州)。標準化された20フィートコンテナ型「Ford Energy DC block」で、「FE-250」(2時間タイプ)と「FE-450」(4時間タイプ)の2モデルをラインアップ。いずれもLFP正極LiBを採用し、液冷式熱管理システムおよびバッテリーマネジメントシステムを統合。なお、フォードのグレンデール工場とSKオンのスタントン工場は、2社の合弁会社「ブルー・オーバルSK(BlueOval SK)」の生産拠点だった。25年末、2社は合弁を解消し、それぞれの単独工場とすることを明らかにしていた。

 パナソニック エナジー社の産業・民生事業は旺盛なデータセンター投資を背景に絶好調だ。25年度の同事業売上高は前年度比39%増の5442億円となり、車載電池事業の4341億円(10%減)を超えた。同社は26年度も引き続き好調に推移するとしている。

CAGR10.8%で推移

 QYResearchの調査によると、25年におけるESS用LiB市場は、338億5000万ドル(約5兆5000億円)で、26年には371億4000万ドル(約6兆円)に達すると見込んでいる。また、26~32年までの年平均成長率(CAGR)は10.8%で推移し、32年に687億2000万ドル(約11兆円)に達すると予測している。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

サイト内検索