AIの普及やクラウド事業者の活発なデータセンター投資により、高性能な半導体や周辺部品の需要が急激に拡大し、半導体関連企業の取り組みや業績などへの注目が高まってからしばらく経つが、その勢いはまだ衰えそうにない。実際、半導体業界で最も注目されるエヌビディアが直近で発表した2026年5~7月期の業績も、売上高が前年同期比約2.1倍/前四半期比18%増の962億ドルという高い伸びをみせた。
そのエヌビディアのCEOであるジェンスン・フアンCEOは7月に来日して、様々な企業のトップや政府関係者と会談し、多くの発表がなされた。その1つとして、トヨタ自動車はエヌビディアと協業を拡大し、自動車、ロボティクス、都市の各分野においてフィジカルAIを推進する方針を発表。トヨタ自動車は「NVIDIA DRIVE AGX」を基盤とし、安全認証を取得した「NVIDIA DriveOS」オペレーティングシステムを搭載した高度な運転支援機能(L2++)を備える次世代車両などを開発している。
また、富士通、ファナック、安川電機、川崎重工業が、フィジカルAI分野における事業検討を開始するなかで、エヌビディアの技術を取り入れながら、デジタルとフィジカルをつなぐ独立性を確保した協調制御基盤を開発することを発表。その発表会には、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOも参加し、日本におけるフィジカルAIの可能性などを語った。
三菱重工業は、エヌビディアの次世代AIデータセンター向け電力・冷却システムパートナーに日本企業として初めて参画することを発表。高発熱化するAI半導体を支える10MW級ターボ冷凍機などのモジュール型冷却システムを提供し、AIインフラ構築を共同で進めている。
そのほか、東京科学大学、ソフトバンク、SB Intuitions、ストックマークが独自のAIモデルを構築するために「NVIDIA Nemotron」(エヌビディアが提供するAIエージェントや高度な推論に特化したオープンなAIモデル群)を採用していることや、Avatarin、ENEOSホールディングス、日立製作所、NTTが、NVIDIA Nemotronを活用した日本語対応AIアプリケーションを構築していること、Sakana AIが同社のモデルルーティング プラットフォーム「Fugu」にNVIDIA Nemotronを統合していることなども発表された。
そして、ソフトバンク、ソニーグループ、NEC、ホンダなど国内44社が出資して設立された国産AI新会社のNoetra(ノエトラ)は、エヌビディアの次世代GPU「Rubin」を約2万7500基導入し、140MW規模の超大型AI計算基盤(2027年4月着工、28年稼働予定)を構築することを発表した。
先端ファンドリーがリスク低減の1つに
こうした発表を見ていて、エヌビディアは単なる半導体の供給元という枠組みを超え、日本の次世代産業、特にフィジカルAIを支える基幹インフラそのものになりつつあると感じた。エヌビディアはもともとゲーミング関連のGPUで事業を拡大し、そこからAIコンピューティングカンパニーへと発展していったが、今後はさらに進化し、AIインフラカンパニーとして各国の基幹部分を担う企業になる可能性が高い。つまり、水道、ガス、電気、通信、交通などに並ぶ存在として、エヌビディアの製品や技術が搭載されたAI関連機器を活用する未来が訪れるというわけだ。
しかし、エヌビディアは米国企業であり、米国政府の発令によって状況が変わる可能性が大いにあり、そうした不確実なものに国家のインフラをゆだねてよいのかという声は少なからずある。だが、エヌビディアは、GPUなどのハードウエアだけでなく、AI関連開発におけるライブラリーやAIデータセンターの運用を支えるソフトウエアなどを一体で提供できるエコシステムで群を抜いている。少なくとも現状はエヌビディア抜きでAIインフラを構築することは非常に難しい状況にあり、例えば現在フィジカルAIの搭載先として世界中で開発が活発化しているヒューマノイドロボットにおいても、メーン制御を担う高性能組み込み用AIコンピューターに関してはエヌビディアの「Jetson」しか選択肢がないと述べる開発者は少なくない。
とはいえ、現状のままでは、サプライチェーンの断絶リスク、地政学リスク、紛争、自然災害などによってエヌビディア製半導体などの調達がストップした場合、国内のAI研究・開発や産業基盤の維持が一気に停滞することになる。そうした状況を踏まえると、バランスを取りながらリスクを減らす施策が重要になる。例えば、現在整備が進んでいるTSMCの熊本第2工場やRapidusといった先端プロセスを備えた国内の半導体製造機能を活用し、エヌビディアの半導体を生産するような“疑似的な国産化”によってリスクを減らすことなどが対策の1つとなりえるだろう。
もちろん、そうした先端ファンドリーによって前工程をクリアできたとしても、先端の後工程をいかにして国内で対応するかといった課題はあり、そのほかにも様々な課題が出てくるだろうが、エヌビディアが国家インフラを担う存在へとさらに進化した場合、こうした課題については遅かれ早かれ向き合う必要が出てくるだろう。
電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志